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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第9章 レイレイ誕生
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レイレイ誕生 その5


エバが、ガリンの案に異を唱えたのは、もちろんエバなりの理由があった。


「いいか、坊主。1個体の遺伝子情報内に、2つの形容遺伝子が同居すると思うのか?」


エバの考え方は、キメラの研究においてはセオリーともいえる一般的なものである。

成長する姿、形を固定せず、2つの姿を遺伝子情報内に持てば、成長する結果が予測出来ないし、そもそも培養自体が上手くいかないというものであった。

しかし、ガリンはそれとは違う予測をたてていたのだ。


「はい。もともと2つの形容をもっている竜族であれば、同居すると思いますし、成長につれて、その人の形容部分が作用して、人型変化の遺伝子部分が優位に立ち、結果竜としての形容部分が淘汰されると考えています。2つの人型の形容を司る遺伝子が、まさに最終形態としての人型への誘導の役目を果たすと考えています。」


エバが、パンと手を叩いて『そこだっ!』という動作と共に、反論を始める。


「じゃあ訊くが、淘汰による融合なんていっているが、そんなものを本当に起こると信じているのか?えぇ?」


明らかに苛立っているエバに対して、ガリンはあくまでも冷静に答える。


「信じています。そもそも人間でもそうではないですか?身体的特長、性格にいたるまで淘汰の結果です。人も受胎した直後は男性と女性の遺伝情報を50%づつ有した状態です。そして、細胞分裂を繰り返す過程で、片方の性を淘汰し性別が確定し誕生します。自然の受胎と人工的な融合を一緒にするわけではありませんが、遺伝子のレベルであってもやはりお互いの必要な情報をお互いに淘汰、吸収をして1つの遺伝子として再構築されるのではと思っています。」


「それは、同じ種の場合だぞ。おい。竜と人は種がちがうぞ!」


いよいよエバの顔つきが険しくなる。

ガリンはどこ吹く風である。


「エバ殿も、異種交配による突然変異を研究されているではないですか?あれは、異種でも遺伝子融合がおこることを認めているからでしょう?」


「もちろんだ。しかしな、おまえ、今回は突然変異など起きてもらっては困るのではないか?あ?」


ガリンの言い様は自らの理論を正当化し、エバを巻き込むものであり、エバは一層不機嫌な顔つきになる。


「はい。エバ殿の研究でも突然変異による進化の可能性はかなり少ない確率だったではないですか?」


「そうだな。」


ガリンは、気にせず追い込む。


「ですから、今回は突然変異はおきません。形状のみが人になればいいのです。目的は、完全な竜と人のキメラを造ることではなくて、人のみで培養ができない以上、他の生命とのキメラとなるわけですが、知的水準を落とす可能性がない媒体として竜族を選んだだけで、結果、育つのはただの人でもよいのです。

そのことをお忘れなのではないですか?」


「・・・。」


ガリンの、生命体の創造というキメラの研究者に最も重要ともいえる『生命に対する倫理観』が、著しく欠如した理論にエバは無言になる。

しかし、空気を察することが不得意なガリンは止まらない。


「だからこそ、人の形容遺伝子を別に抽出し、先に補完させる。あとは、両遺伝子から50%つづもらえばいいのですが、先に補完した人の形容の遺伝子の分があります。そして、結果7割人間、3割竜という、私の計算が成り立つのです。」


「それじゃ、最初から、人に竜を融合させればいいじゃないか?」


エバもガリンの持論のごり押しに、思わず言ってしまう。

すぐに『しまった。』という表情を浮かべたが、遅かった。


「それは法的にできないのでしょう?」


「おまえさんの言ってるのは、全部屁理屈だ?それに人の命を扱うんだぞ!」


「しかし、許可をもらった通りの、人ではなく、竜に人を融合させています。」


「けっ。物は言い様だな。倫理観の欠片もありゃしないな・・・。」


「理論的といってほしいですね。」


エバの憤りはガリンには伝わらない。

確かに許可も出ているし、一応の理屈もある。

しかし、それはあくまでも机上の計算に基づいたものばかりなのだ。


「ふぅ・・・。まあ、小僧、お前の言いたいことはわかった。俺はな・・・。それでも、竜の遺伝子が勝つと思うがな。いいか、中止の決定権は俺にあることを忘れるなよ?」


大きくため息をつき、大家としての威厳を持って、最低限の釘だけを差した。


「はい・・・。」


ガリンも素直に頷いた。

エバは厳しい顔のまま、念を押す。


「それとな、もう一度注意をしておくぞ。我々は、『造る』、のではないぞ、『産みだす』だ。次、『造る』という表現を使ったら、その時点で実験は中止だ。忘れるなよ。小僧。」


「わかりました。」


「ふん。じゃあ、それでいこう。」


さすがにこの部分はエバの言っていることが正論であり、ガリンも了承するしかなかった。


とはいえ、エバとガリンの衝突は、培養槽の設置に至るまでの間にもなんどもあったのだが、大抵は、今回のように、ガリンの詭弁によって、大筋ガリンのいうとおりに進んでいった。


そして、ガリンの提示した手法で、無事、遺伝子融合が終わると、その細胞核が培養槽に入れられて、とうとう培養が始まった。


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