レイレイ誕生 その3
レンは、ガリンへの返事の変わりにくつくつと小さく笑うと、
「あまりに面白いものを見物させてもらったおかげで、肝心の用件を忘れるところじゃったわい。」
と、エバの方を向いた。
「けっ。」
エバが悪態をつく。
レンは、エバの態度を気にせず話を続けた。
「今朝、王にレイレイの身体の培養についての許可をいただいたのじゃ。」
レンはそう言って、今度はガリンに微笑みを見せた。
すごい形相でエバに睨まれていることもあり、ガリンは少しばつが悪そうに咳払いをし、
「先生、ありがとうございます。」
軽く頭を下げた。
「あーあ。これで当分、こいつの屁理屈につきあわんといけないようだぁな。」
王の許可を貰えたことは、やはりエバにとっても安心する内容であり、エバは奇妙なことに、笑顔を浮かべながらの悪態をつく羽目になった。
ガリンは、それには何も答えず、もう一度2人に頭を下げると、くるっと踵を返し研究室を出て行こうとした。
「おい、お前どこに・・・。」
そう言いかけたエバの肩にレンが手を置く。
エバは、振りかえると、レンの手を払いのけた。
「彼のお姫様に報告に行ったんじゃよ。」
「まさか、あいつが?」
エバは悪態をつくもの忘れてレンに聞き返した。
「どうしてそう思うんじゃ?」
「信じられん。あいつの意地の悪さと、しつこさは、天下一品だがよ、優しさなんて、これっぽっちも感じなかったからな。」
エバが、ガリンが研究室に訪れるようになってからの日々を振り返り、頭を振った。
「まあ、基本的にはそうじゃな。」
レンも
『いかにも。』
と、頷いた。
レンが自身の弟子の悪評にすんなり同意したことに、エバは苦笑いを浮かべたが、すぐに、
『被害者は俺だけではないということか。』
と、一人で納得すると、話題を変えた。
「まあ、どうでもいいがな。しかし、あいつは、頭だけは恐ろしいほど切れる。」
「そんなことはわかっとるわい。わしがあやつを育てるのにどれだけ苦労をしたことか。はぁ・・・。」
レンも、ガリンに『常識』という教育を根気よく繰り返したかっての日々を思いだし、ため息混じりに肯定した。実際、あれだけ念入りに作られてたエバの外面のとしての演技が時々姿を消し、素が見えている。それだけ手間を焼いていて余裕がないのだ。それでも言葉遣いが汚いのは変わらないのだが・・・。
「はっ。あいつ、辞書も翻訳石使わずに、旧言語の文献をすらすら読みやがった。それどころか、辞書すら存在しはいはずの、古代語で書かれた文献まで持ちだしていたぞ?」
「古代語?」
聞きなれない言葉に、レンが聞き返す。
「01という、数字のみで書かれた書物さ。機械語だったっけ?」
「それは知らなんだ。そんなもの教えたつもりもないし、読んでいるところも見たことはないな。」
エバは、レンの驚きを流し、再び苦笑いを浮かべ、
「まあ、どっちにしても、あいつは、俺らとは違う次元で物を見てるんだろうぜ。このままじゃあよ、あっといういまにあいつがキメラの第一人者ってことになりかねねえぜ・・。」
と、お手上げをした。
しかしながら、レンはエバの話を、心ここにあらずといった雰囲気で、
「機械語・・・。」
と、呟いた。
「それがどうかしたのか?」
「いや、まあ、なんでもないわい。まあ、許可もおりたことじゃし、嬢ちゃんへの報告が終われば、すぐ戻ってきて、培養を始めようとするじゃろうて。わしも忙しい身でな、あいつのことはよろしく頼むぞ。」
レンはエバの問い掛けに、慌てたように話題を変えた。
エバも何かを察してか、レンのあからさまな態度を問いただすこともせず、
「ふん。」
とだけ鼻を鳴らした。
「そう言うな、お前が抑止力になってもらわんとこまるんじゃ。」
「俺の言うことなんか聞くもんか。」
「そうでもないじゃろ。お前さんが、思っとる以上に、あいつは、お前さんに敬意を払っているようじゃしな・・。」
「・・・・。あれでか?」
「あれでじゃ。」
2人の間にしばし沈黙が流れたが、レンが笑いながらその場を去っていくと、エバも肩をすくめて、培養の準備を始めるのだった
それからしばらくして、レンの予想通りにガリンが戻り、培養の開始をエバにせがんだ。エバは馬鹿笑いをして、ガリンのために用意した様々な培養のための資材を指差した。
ガリンは、思いっきり怪訝そうな顔でエバを見つめ返したが、それでも頭を下げると資材の点検に向かった。
短めなので、ちょっと早めの投稿です~
エバの言葉遣いに、素と演技が混じっている説明の一文を追加。
誤字脱字の修正と、改行の修正。2025.12.22




