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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第9章 レイレイ誕生
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レイレイ誕生 その1

▼登場人物


晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ

国王(男 45歳) ルラケスメータ・メルタ・マレーン・コグソ

王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ

宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ

晶角士(男 89歳) エンバサーラ・エバ・エンジシ

女官A(女 32歳)  ジレルンマーナ・ジレ

女官B(女 67歳)  セラミナーニャ・セル

衛士 ストレバウス・オウジシ


早朝に、王の執務室に議論をかわす2つの影があった。


「しかしな、レン。王国の法を侵す行為を簡単に認める訳にはいかぬのだ。」


王である、ルラケスメータの言葉はとても慎重な色を宿していた。

宮廷晶角士にて、ガリンの師でもあるレンは、王の執務室で、王と2人机を挟んで向き合っていた。

双方の顔は、いつになく真剣で、そして重い雰囲気を漂わせてた。


「しかし、メルタ、これは古えの文様術、それも始祖であるミアンの系列の術を解き明かす機会なのじゃ。」


そう、レンは、禁を破って人型のキメラをつくることを、王に対して説得を行なっていたのだ。


「しかし、レン。その古えの文様術が何を生みだした?数は減ったとはいえ、獣人は、まだ我が王国をうろついているではないか。」


「それは・・・。」


獣人と呼ばれる人種は、現在では迫害されているわけでもなく、また本人達が被害者意識を持っているわけではないが、確かに倫理観無く紋様術の実験を行った時代の負の遺産ではあるのだ。

そして、事実、すべての獣人と良好な関係を築けているわけでもなく、王国が把握していない正式な交流のない獣人の里も都市部以外には点在していた。


ルラケスメータの言葉は、決して彼らを否定しているのではなく、王として自身の国に、結果として弱者を作り出してしまっている現状に対しての言葉であった。

もちろん弱者とは、立場としての弱者であり、身体的能力として人と比較した場合の弱者ではない。獣人の身体能力は決して低いものではなく、人と比べた場合、むしろその基礎能力は高いのが一般的である。また一部の獣人は、遺伝子的に引き継いだ特性により、人にはない特殊能力を有している場合もあった。


もちろん、長い付き合いであるレンは王の真意は理解しているし、王の言葉は事実であるだけに次の言葉を紡げない。

王は、レンの沈黙を受け、再び口を開く。


「さらにマレーン大陸で、いまだ3分の1も未開の地が残されているのは何のせいだと思うのだ?」


「・・・。」


これも沈黙するしかない、紋様術の負の歴史の結果であるからだ。

王は、丁寧に、そして置くように話を続けた。


「レンよ。それも古えの文様術とやらが生みだした、化け物がおるからではないのか?

そればかりか、未だに当時の文様術が機能していて、発掘調査すらできぬ遺跡ばかりではないか。」


王は、言葉は丁寧ではあったが、王としてのハッキリとした否定である。


「それはそのと通りなのじゃが・・・。」


レンの返答も歯切れが悪い。


「まあ、数は少いことが幸いして争いが有るわけではないが、それでも大陸の西を事実上支配している竜族とのキメラなどどうして許すことができるのだ。」


もっともである。


「しかし、彼らは、土地を侵さぬ限り、我々に害を与えておりませんぞ。」


王も『争いはない』と言っているように、レンの返答もまた事実であった。


「うむ。」


王は首肯して、レンに話の続きを促す。


「非常に高い知能をもっておるとの話でもありますぞ。」


「それはそうなのだろうな。しかし、仮に禁を犯しキメラを造るにしても、他のものは考えつかんのか?」


「人語を話すための器官と、それを駆使できる頭脳が必要なのです。幸い竜族は文様術を使うという伝承はありませなんだ。単体であれば我々の術で抑え込むことも出来るじゃろうし、知識だけを得るには、むしろ、もってこいとも言えますのじゃ。」


「伝承にすぎぬがな・・。」


王は、伝承の部分をことさら強調して言う。

王としては、あくまでも否定的な立場を崩すことはないという意思表示とも取れる発言であった。


「・・・。」


「とにかく、許すことはできん。」


沈黙で答えたレンに、王がハッキリと告げる。


「しかし、メルタ・・・。次元接合門の技術を生みだしたのも古えの文様術なのじゃぞ。」


「確かに、それはそうだ。」


「更に、我が王国は、おそらくミアンにも匹敵する才能を持った若い術者を擁しております。あのものが、ミアンの力を手に入れれば、戦況は一気に我が国に傾くといっても・・・。」


レンも簡単には諦めない。この時代にも紋様術の寵児である自慢の弟子であるガリンがいることもまた事実であり、古の技術の復活は、きな臭い今こそ必要とも言えるのだ。

もちろん、紋様術士として自分自身の興味も否定しない。


王はため息をつく。

レンは、ここぞとばかりに早口で捲し立てる。


「それに、嬢・・、王女のことはどうするのじゃ?多感な時期じゃろうて・・・。」


「・・・。齢を重ねると人はずるがしこくなるものだな、レン。」


王が嫌そうな顔をして、レンに顔を向けた。

幾分か王の表情が和らぎ、友人同士といった、張りつめていた空気が少しだけ穏やかなものに変わる。


「年の功じゃ。」


レンは、笑みを浮かべた。


「いくつの禁を侵すのかわかっているのか?」


逆に、王は呆れた顔で問うた。


「当然わかっておるわい。人の培養、人のキメラ、しかも学院内で。細かい規定までを入れたら、いくつかわからぬほどの禁を侵すことになるのじゃろうな。」


「それをわかっていて・・・。」


「それだけ、魅力のある冒険といえるのじゃ。」


「安全対策はどうなっているのだ?成功したとしても、人の形を取らずに、単に竜族そのものとして誕生をする可能性もあるのではないか?」


「あるじゃろうな。」


「せめて、竜族以外の・・・。」


「しかし、わしが知る限り、人の知識を完全に引き継ぐためには、人に連なる種族か、竜族ぐらいしか・・・。」


「・・・。」


雰囲気が変わったとはいえ、結論はやはり同じ。ある意味堂々巡りであった。


「人としての培養やキメラはさすがに許可はくれんじゃろう?」


「それは出来ない。1つの生命を必要とするからな。」


そして、これも当然の事である。


「人の細胞で行なえば、クローニングとなり、下手をすれば、魂が2重化してしまい、禁ずる以前にあったように、クローニングの細胞の提供者が命を失いかねないのじゃ。残る可能性は、人以外の高等知能を有し、人語を介する媒介・・・。」


「・・・。竜鱗族、つまり蛇と竜だな。」


「左様。そして、蛇族は人語を理解しても、直接しゃべる舌を持たない。それに、竜族とは違って、あちらからもちょっかいを出してくるのであれば、残るは自然と竜族に・・・。」


「そして、学院は、幸か不幸か、竜族の細胞を持っているというわけだな・・。はぁ・・・。」


王は、自分の台詞を再びの大きなため息で締めくくった。


「メルタ。お嬢ちゃんのためでもあるのじゃ・・。」


王は、うらめしそうな目でレンをしばし睨みつけたが、


「許可しよう。」


そう言って、目を瞑った。


「感謝いたしますぞ。」


安堵のため息をついたレンの顔にも、ようやく明るさが戻る。


「しかし、レンよ。条件がある。お主が危険だと判断したら、即刻中止をするのだ。ガリンは若い。知識欲に負けてしまう危険性がある。」


「わかりました。しかと監視をいたしますので、ご安心を。」


つい先ほどまでの声とは違い、そこには王としての威厳と厳しさがあった。

レンも、空気が変わったのを感じ、王の友人ではなく、臣下として態度で応えた。


王はレンの承諾に首肯した。


「うむ。早朝の用件はそれだけか?」


「はい。英断に感謝を。」


レンが仰々しく腰を折り、頭を下げる。


「ふん・・。」


王がレンのわざとらしい態度に鼻を鳴らした。


「そう拗ねなさるな。もう一国の王なのですからな。では、失礼をして、さっそく弟子に伝えて参ります。」


そう言って、レンは執務室を後した。


残された王は、窓の外で、早朝の稽古をしている軍角士をみると、苦笑いを浮かべ、机の脇の自らの打剣を手にとり、闘技場へ向かった。

新章突入です。

更新すると読んでくれる人がいるようで、嬉しく、力づけてもらえます。

ありがとうございます!

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