新年 その12
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昼前には、ガリンとルルテは、城の王座の間で、多くの観光客に囲まれていた。
2人とも相変わらずの、妙な変装ではあったが、2人での外出も板に付いてきており、遠からず、貴族の娘とその従者には見える程度には演技がうまくなってきていた。
問題は、白と金の厚手のローブに身をまとったガリンと、ルルテの何層にもフリルのついた、若草色のワンピースであった。
屋敷の中ではもっとも常識人のセルであるが、この手の常識については、かなり欠落してるといってもよかった。
当の本人たちは、それに輪をかけて、そのあたりの常識が欠如しているのだから、どうしようもないといえばないのだが。
どちらにしても、年をあけてから7日間、一般の国民に公開されている王座の間は、よほど人気のある観光スポットらしく、ガリンの予想をはるかに超えた大勢の人でごったかえしていた。普段入ることの出来ない王城に、これだけの観光客が出入りするのだから、当然、警備もそれなりに厳しく、位は低いのだろうが、軍角士の多くが、周辺の警護をくまなく行なっていた。
その警護状況を、管理している士官の中には、当然ナタルとリアも含まれていた。
2人は、直接警護の任についていたわけではなかったが、警備の責任者としては名前を連ねていたのだ。
そんなこんなで、リアが王座の間の、おおよそ場違いとも言える派手な出で立ちのガリンとルルテに気づくまでには、そんなに時間はかからなかった。
2人を見つけたリアは、隣を歩くナタルを肘でこづくと、群集の中の2人を視線で指差した。
視線の先の2人に気づいたナタルは、リアにあきれた顔で、
「おいおい、相変わらず、どういう服のセンスなんだ?」
と、片手で頭を抱えるように手をやった。
リアは、もう一度、派手な服装で連れだっている2人に視線を落とすと、
「たしかにね。でも、なんとなくあの2人幸せそうじゃない?」
と、笑みを浮かべた。
「そうか?」
「そうよ。なんやかんやいって、あの2人うまくいってるのね。」
ナタルの問い掛けに、愉しそうに答えるリア。
「そんなもんなのかね。」
「そうよ。ちゃんと手をつないで歩いてるわよ?」
「そりゃ、あの人ごみだからな。手も引くだろうさ。」
リアは、大きくため息をつくと、気を取りなおして、
「ねぇ。ナタル。昼から非番でしょ?」
「あぁ、お前が一緒にって合わせてって人の非番の予定を勝手に決めたんだろ?」
ナタルが非難がましくかぶりを振る。
リアは一瞬だけ口を尖らせたが、下を歩く2人に倣ってナタルの手を取ると、
「じゃあ、私たちも王座の間に見学に来ようよ。」
と、微笑みをかけた。
「は?自分たちが警備してるものをなんでわざわざ見にこなければならないんだよ?」
「いいじゃない。どのみちゆっくりは見れてないんだから。」
「まあ、いいけどな。飯はおごれよ。」
言葉とは裏腹に、ナタルも楽しげに承諾した。
「わかったわよ。でも人ごみだから手を引いてね。」
「・・・。」
「嫌なの?」
リアが掴んだナタルの手をギュッと握りしめた。
ナタルは、周りをキョロキョロ見回し、
「恥ずかしいだろ?同僚もいるんだぜ?」
と、手を引こうとする。
リアは、指を絡めて更に力を入れた。
そして、もう一度、
「嫌なの?」
と、上目使いでナタルの顔を覗き込む。
「はいはい、お嬢様。」
恥ずかしそうなナタルの表情に満足したのか、リアは、
「じゃあ、またあとでね。」
そう言って、小走りにその場を去って行った。
「王女と張りあったってなぁ・・。」
ナタルは、そう愚痴をこぼすと、きびすを返し、警備体制の定時点呼を行なった。
時は、マレーン次元文明暦13年 第1力期1日目
そう、新年1日目である。




