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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第8章 新年
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新年 その11


ルルテの部屋にはいると、部屋は事件が起こる前と同じように、照明が消されていた。

ルルテは、先ほどと同じ服のまま、窓際の円卓にひじをついて椅子に腰かけていた。

月明かりに照らされるルルテの横顔は、やはりとても愛らしく可愛かった。

ガリンは、しばら部屋の入口に立ち、ルルテを眺めていた。


ガリンがその手に持っているお盆から部屋に香しいお茶の香りがたちこめる。


ルルテは、窓の外に顔を向けたまま、


「セル。ようやくお茶が入ったのだな。あやつは怒ってはおらなんだか?」


そう言って、髪をかきあげた。


ガリンは、何も言わずルルテに近づくと、セルに言われた通りに、まず受け皿をおいて、その上にカップを置き、ゆっくりとお茶を注いだ。


入ってきたのが、セルではなくガリンであることに気づいたルルテは、幾分ばつが悪そうに、


「何も言わず部屋に入るとは、相変わらず無礼じゃな・・・。」


そのままルルテは、自分の横の椅子に視線を落とし、ガリンに座るように促した。


普段、横に座ることは余りなかったが、夜明けの初日の出が見えるように、窓際におかれたテーブルに、椅子が窓に向かって並べられていたため、そこにしか座れなかったのだ。


ガリンが座るのを確認すると、ルルテは優雅な仕草でお茶に口をつけた。


ガリンも、ルルテに倣って、優雅そうお茶に口を付けた。


ルルテはガリンのそんな様子に笑みを浮かべ、続いて目を細く平たくして、


「ガリン。これは本当にそなたが入れたのか?それにしてはあまりにうまく淹れてあるぞ。」


そう、カップの縁を撫でた。

ガリンは、若干視線を泳がせながら、


「え、ええ。それは、少し時間をかけてセル殿から教わりましたので・・・。」


と、返答した。


「ふーん。まあ、次からはガリンに頼んでも、これほどの茶が飲めるということだな。」


ルルテはガリンの返答に曖昧に頷き、そのまま覗き込むように言う。


「い、いえ、それは、今回は手取り足取り教わったものですから・・・。同じようには・・・。」


一層苦しそうに答えるガリンに、ルルテは姿勢を戻して何かに満足したように、


「そうか。残念だな。」


と、笑顔で首肯した。


「はい・・・。」


ガリンは眉間に眉を寄せ、頭をかいた。

ルルテは、もう一口お茶を飲むと、


「ところで、何をしにまいったのだ?」


と、尋ねた。


「もちろん、一緒に朝日を見ようと思ってですよ。そのような約束だったではありませんか?」


ガリンも当初の目的をそのまま素直に返答した。


「そうであったな。」


そう頷いたルルテの様子は、すっかりいつものように戻っているようであった。いや、少しだけ頬が赤くなっていたのだが、部屋は薄暗くわからなかっただけではあったのだが。


同じくガリンも、ルルテのいつもの様子と変わらぬ返答を前に落ち着きを取り戻していうようであった。


「・・・。」

「・・・。」


2人の間に静寂が訪れる。

2人は会話が無くなり、そのまま呆けたように窓の外をみていた。

そして、なんとはなしにお互いの視線がぶつかり、2人とも、


「「くすっ」」


と、笑った。

2人は改めて窓の外の夜空を仰ぎ、そのまましばらく空を眺めていたが、ガリンが落ち着いた声で話を始めた。


「ルルテ。昨年、お側に参りましてから、いろいろございました。思い返すと、あっという間の出来事であったように思います。

来年は、いえ時間的にはもう『今年は』ですね、ルルテにとって、私にとって、それから王国にとっても大変な年でございましょう。

よろしくお願い致します。」


ガリンは、そう言いながら椅子から立ち上がり、そして膝をつくと、そのままルルテの右手をとり、軽く口付けをした。


「ひぃ、あ、うん。うん。そうだ・・・ね。」


ルルテは、慌てて手を引くとそれを胸の上に重ねた。

ルルテの返事は、何を言っているのか、よく聞き取れないほど狼狽をしていたが、薄暗い部屋でもハッキリ分かる程、顔は耳まで赤くなっていた。


自分が耳まで赤くなっていることを感じたルルテは、急いで席を立って、額を窓硝子につけた。


「冷たい・・・。」


そうつぶやく。


「ルルテ、いよいよですよ?」


ガリンも立ち上がりルルテの横に立つ。

ルルテが少しだけ体を固くする。


「な、なにが。いよいよだ?」


若干舌を噛みぎみに、ルルテが問い直す。


「何を言っているのですか?外が明るくなってきましたよ?」


ガリンが、ルルテの後ろに立って、肩に手を置く。

ルルテは、ガリンに体を任せると、


「おまえはいったい何なんだ?」


そう小声でつぶやいた。


「何か言いましたか?」


ガリンがルルテに視線を落とす。

ルルテは外に視線を向け、


「いや、ほれ陽が昇るぞ。」


ガリンに外を見るように促した。


「はい。とても綺麗ですね。」


「うん。」


2人は、そのまましばらく太陽が昇るのを眺めていた。

ガリンは、ガリンに身体を寄せていたルルテから少しだけ距離をとり、


「ルルテ、今日はもうおやすみになられたらいかがですか?」


と、声をかけた。


「なぜだ?」


若干、不服そうな声色でルルテが尋ねる。


「ルルテが、目を覚ましましたら、今日は1日どこでも、ルルテが行きたいところに付き合いますよ。」


「1日!?」


ルルテが跳び跳ねるように驚いて聞き返す。


「はい。」


ガリンは笑顔で頷く。


「そ、そ、そうか。それなら、王座の間の見学にいきたい。」


「なぜ、王座の間に?いつでもいけるではないですか?」


ガリンは、本当に不思議そうに尋ねる。


「いきたいのだ。国民は、宝剣を見ることが出来るのに、王族である私が、その期間は、毎年、城に近づくことができぬのだ。

何度もお父様には頼んでみたのだが、宝剣はみせてくれぬのだ。」


ガリンも『なるほど。』と合点がいく。確かに一般人が沢山立ち入っている時期に、王女がふらふら城の中を歩いているのは問題ではある。


「わかりました。また変装が必要になるかもしれませんが、見に行きましょう。」


「うん。」


ルルテは、そう返事をした。安心したのか、大きくあくびをして、寝台の縁に腰かける。


「ガリン、ジレを呼んでくれ。早く眠らぬと、日が暮れてしまうからな。」


言葉遣いが、素のルルテと入り混じっていたのでおかしかったが、笑うことはせず、一礼をすると、ガリンは部屋を退出し、ジレを呼んだ。


自分の部屋に戻ったガリンは、途中で投げ出されていた研究道具を片すと、そのまま眠りについた。

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