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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第8章 新年
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新年 その7


エバの口調がいままでのおちゃらけた口調から、大家と言われるにふさわしい、探求者としてのものに変わったことを感じたガリンは、ただ師に対するのと同じように


「はい。」


と、素直に返事を返した。

エバもガリンの返答に頷くと、質問を始めた。


「まず、誰の遺伝子を使うんだ。」

「私です。」


ガリンは極めて端的に回答をする。


「では、培養中に、人型に変化しなかった場合、どうするんだ。」

「培養を中止します。」


エバが頷く。


「仮に培養に成功したとして、我々に敵対する因子を発見した場合はどうする?」

「処分します。」

「処分・・・。」


エバは、頭をボリボリと掻きながら、ガリンの返答を復唱しながら、レンに視線を送る。

レンは首を横に振りながら、エバに話を進めるように目配せをする。

エバも諦めたように、ガリンに視線を戻し、質問を続けた。


「そうだな・・・。培養に成功して、生命を得たとしても、意識体を定着した元力石を核として認識しなかった場合は、どうするんだ?」


エバとレンが若干表情を曇らせる一方、ガリンの声は徐々に力を増してくる。


「2重の方法で定着を確実なものとします。1つは、王族の右手の甲に能力石を保有させるのと同じ方法で、意識体が定着されている元力石と、有機体の意思を統合する文様を、培養された有機体の額に埋め込みます。

そして、更に、その効果を確実なものにするために、その額の能力石に意思力を保持するための蓄積機構を、頭冠の形態にて、額に装着をさせます。」


このガリンの返答にエバもとうとう我慢できなくなったのか、はっきりとレンの方に体を向けた。


「・・・。おい、レン。こいつは、そんな複雑な文様を彫れるようなやつなのか?」


そして、エバはガリンへの問いかけを、今度は完全に中断し、レンに確認をする。


「そやつが、できるといったことはできるのじゃろうな。」


レンも、ガリンの話した内容を完全に理解しているわけではないし、そもそも王族の持つ能力石の術に関しては、秘術の類いである。なぜガリンがその文様を彫れるのかも、本来であれば問い質さなければならない問題でもあるのだ。

しかしながら、当然今ここで掘り下げるべき話題でもない。

レンのエバヘの返答は、そんな気持ちが表れているだろうか、幾分投げやりでもあった。

エバは、察してか、少しだけ考えるように目を瞑り天を仰いだが、すぐに鼻を鳴らして、


「ふんっ。信じられんな。質問、いや話を続けるぞ。」


と、ガリンに向き直った。


「はい。」


ガリンの声はオモチャを催促する子供のように明るかった。


「この偏屈じじぃがお前の技術力を信じているようだからな、まあ俺も信じてやるぞ。ただ、お前の世話まで俺はしないぞ。設備は貸してやるし。助言もやろう。だが、やるのはお前が勝手にやれっ・・・。」


両手をあげ、お手上げかのようにエバは、吐き捨てるように言った。その顔は子供を叱る親のように厳しいものであった。


「当然です。」


ガリンは空気を読まない。満面の笑顔で頷いた。


「うむ。それと、この実験の詳細は誰にも秘密だ。王女にもだぞ。」

「はい・・。」


ガリンは、エバの厳しい表情も理解できず、また王女に話してはいけない理由もわからない。『何故?』という表情を隠さずに、返答をする。

そして、エバの表情がより一層厳しいものになる。


「よし。最後だ。」

「多いですね。」


ガリンの顔には、はっきりと非難めいた表情が浮かぶ。

エバは、ガリンの様子には一切構わず、話を続けた。


「くだくだいうな。中止のタイミングは、俺が決める。いいな。」


エバの有無を言わせぬ物言いに、


「はい。」


ガリンも慌てて肯定の意を伝えた。

そして、エバは、椅子から立ち上がり、ガリンんの肩に手を掛けると、


「いいか、お前は生命をいじるんだ。そして、それはお前の遺伝子を使うのであれば、それはお前の一部だ。今後、


『処分する。』


などという非倫理的な表現を使うなよ。」


と、優しく伝えた。

しかし、ガリンはこれにも、


「はい。」


とだけ、表情をピクリとも動かさずに返答する。

エバは再び椅子に体を沈め、


「ふう。レン。こいつは人間なのか。感情が感じられないぞ。」


と、今度はレンに話しかける。

レンはニヤリと口角をあげて、


「エバ。大家を前にして緊張しておるのだ。」


と、幾分緊張が和らいだ口調で軽口とも取れる返答を返した。


「ふん。こいつが緊張するようなたまなら、俺は、竜族の巣穴で昼寝をしてやるよ。」


「・・・。」

「・・・。」


エバは、ガリンを指差しながらレンに抗議をする。

さすがにレンもガリンも無言であったが、エバは、2人が口を開くのも待たずに、


「まあ、いいさ。これから誰もやったことのない竜族と人のキメラをつくるんだ。本当にそういう機会もあるかもな。」


「エンバサーラ殿。人とのキメラでは・・・。」


今度はガリンが反応する。


「ふん。細胞単位でもキメラはキメラだ。そんなの言い方の違いにすぎん。単に法として書いてない部分を逆手にとっているだけだ。ここで、そんなもったいつけたいいかたをするんじゃない。それとエバでいい。」


「・・・。では、わたしのことはガリンと。」


エバが、ガリンと言葉遊びをするつもりは無いことをピシャリと伝えると、ガリンも必要なことだけを返した。


「じゃあ、ガリン。遺伝子合成の元力石と培養槽はおれが用意してやるぞ。万が一、培養中に事故があった場合に備えて、おまえ結界をつくってこい。それと、その頭冠と制御石それも用意するんだ。」


「わかりました。」


さすがに大家と呼ばれるだけはあった。ガリンの提案した培養の方法を理解し、的確な指示を出す。

そして、ガリンの返答を聞いたエバは、大きく手を広げると、ニヤリと笑うと、


「そうそう、それとな、ガリン。あの竜族の細胞は、雌のものだ。おまえ自分の娘を育てるんだ。パパとしての心構えをしておけよ。ぐわぐわぐわ。」


と、笑った。


「パパ・・・。」


今度はガリンが、盛大に額に眉を寄せる番であった。

さすがに、動揺した表情を浮かべたガリンをみて、『してやったりっ』と、満足をしたエバは、


「さぁ。決まったら行った行った。年明けには始めるぞ。」


そう告げて、エバは椅子から立ち上がった。


「はい。」


ガリンの返事に満足げに頷くと、エバは、

そのまま培養槽の部屋に移動し、1人でぶつぶつ独り言を言い始めた。


もうガリン達にはまるで興味がないかのように培養槽をチェックし始めたエバを見て、レンは肩をすくめると、もと来た道を戻り始める。


来た道を戻り、塔を出て臭いから解放されたガリンは、深呼吸をしてから、レンに声をかけた。


「先生、あの人のあのしゃべりかたと、風体、いったいなんのですか?」


「なんなのかとは、なんじゃ?」


レンが面白そうに訪ね返した。


「少ししか話していませんが、とても能力のあることがよくわかります。あのふざけたしゃべりかたと、不潔さは・・・。」


ガリンは、『到底理解できない』という素振りで、もう一度ため息をついた。


「まあ、キメラの研究においては、あいつの右にでるものは、おらんじゃろうな。

それと、あの風貌は、以前に聞いた時には、こう答えておったぞ。」


「なんと?」


あの風貌に理由があるというレンの返答はガリンの興味を掻き立てた。

レンは、目を細めて、


「趣味とのことじゃ。」


「・・・・・。理解できません。」


ガリンの興味は霧散した。


「まあ、いいではないか。しばらく付きあうことになるのじゃ。慣れるより仕方が無かろう。」


「はい。」


そういうと、レンが、急におもしろそうな顔でガリンをみる。


「どうしたのですか?」


眉をよせて、ぶっきらぼうに尋ねる。


「パパ。」


「先生・・・。」


吹き出さんばかりの様子で、そう言った師にガリンは情けない声をあげた。


「すまんすまん。まあ、意識体、レイレイだったか?器の目処が付いたことだけでも、お嬢ちゃんに伝えてやったらどうじゃ?」


「そうですね。それでは失礼します。」


ガリンはしばらく非難がましくレンを睨んでいたが、学院の正門が見えてくると、レンに小さく頭を下げて、門に向かった。


レンは、微笑みを浮かべたまま、去っていくガリンをしばらく眺めていたが、姿が見えなくなると、自分の研究室に足を向けた。


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