お祭り前夜 その6
二人は、夕食を食べるお店を物色しながら中央通りをゆっくりと歩いていた。
こうしてみると仲の良い恋人同士にもみえる。
今日は生誕祭の前夜祭ということもあって、この中央通りには、貨車や風力車等は乗り入れが禁止されていたし、屋台も多く出店していた。
かなりの人出でごったかえしている。
二人とも、先ほどの闘技場で着用していた、軽防具もはずしており、動きやすい膝上、袖なしのローブを、簡単な帯剣するための腰帯で、腰のあたりを締めていた。
また、戦闘時には二人ともつけていなかった、「意伝石」と呼ばれるピアスを耳につけていた。
この意思を相手に伝えるための意伝石は、ほとんどのマレーン文化圏の人間が身につけている、装飾品としての元力石で、短時間で複雑な意思を相手に伝達したい場合や、イメージでしか内容を伝えにくい情報などを相手に伝えるものである。また、声が届かない範囲にいる相手に会話を伝える場合などにも使用されていた。意伝石が広く使われるようになってから、口頭での会話が幾分衰退したとの説を唱える者もいたが、実際には口頭による会話が減ったわけでもなく、うまく両立していた。
防具を装備している時はわかりにくかったが、リアの均整の取れたプロポーションもはっきりと目にとってみれた。
ナタルも、口先では、『おごってくれるんだからどこにでもいくさ。』等と、軍角士仲間には吹聴していたが、実際、隣を歩くリアの顔を見ながら、『たまにはいか』等と内心は楽しんでいた。
もともと、男女で身長差などの体格的な差異が少ないマレーン文化圏の男女であったが、その中でもリアの体格は、大柄なナタルに遜色無いのだ、かなり堂々としているといっても良いだろう。
ナタルはよく、『大女』といってからかっているが、多少大柄ではあるのは事実だが、それがリアの美しさを損なうことはまったくないといっても過言ではないのも事実だった。そして、不承不承、心の中ではナタルもそのことを十分知っていた。
実際リアは、交際を申し込まれることがともて多い。
ただ、リアがその誘いを受けたところを、ナタルは見たことがなかった。
確かに、生誕とともに左肩に、生体管理を司る元力石である「生力石」を移植されるマレーン文化圏の人々は、進んだ生体管理医療技術により平均年齢が120歳と、各文化圏の中でも比較的長寿を誇る。
リアの年齢であれば、まだまだ特定の相手を決める必要はまったくないといえた。ただ、実際に浮いた話すら、聞いたことがなかった。
ナタル自身は、適当に食いつまんでいたので、リアもそうなのだろうと、勝手に想像はしていたのだが・・・。
ナタルの視線に気づいたリアが、
「どうしたの?」
と、話の口をきった。
「えっ、あ、まあ、そのだな。あれだ!」
要領を得ない。
「おかしなナタル・・・。まあ、いいけど。で、何か食べたいものは決まった?今日は何でもご馳走するわよ」
「いいのか?俺は食うぞ?」
「大丈夫。さっき生力石に記録されている残金、確認してきたから。」
生力石には、本人の生体情報以外にも、軍角士としての俸給が記録されていたり、その者の身分階級が示されている。もっとも身分階級は、すぐにわかるように生力石の色で示されているため、情報をみるまでもないのではある。
二人の左肩の生力石は、二人が軍角士、官階級以上でであることを示す、黒色に鈍く光っていた。
金銭的に大きなやり取りは、この生力石を、その対象の相手と合わせることにより行われるため、多くの人は、普段は僅かな少額硬貨を持ち歩くだけで済んでいた。
「そうか。俺は、もうほとんど残りがない。」
ため息をつきながら、ナタル。
「無計画に飲み食いするからよ。あ~それで最近、兵士食堂に入りびたりだったのね・・・。あっきれた・・・。」
リアの眼が非難がましい目つきに変わる。
「まあ、生誕祭が終われば、恩給がでるだろ?それでさぁ・・。」
ナタルが言い訳をする。
「あなた生誕祭って10日も続くのよ?」
と、リア。ため息を付ながら更に続ける。
「まあ、後で少し貸してあげるわ。倍にして返してね。。」
「おっサンキュー!」
待っていたとばかりにナタル。そして
「とにかく、飯食おうぜ。今日はいのししの鍋でも食うか?」
と続けた。
「えっ?また?あなたいつもそれじゃない?」
「いいんだよ。好きなんだから。おもいっきり食べるなら、好きなものじゃないとな。」
したり顔で続けるナタル。
リアも、そんなナタルをみて、
「じゃあ、いこう!」
手を取って、店に向かった。
ナタルが良く食べたのはいうまでもないが、前夜祭ということもあって、店は賑わっていた。
いのししの鍋とは、陶器の器に、肉と野菜をごっちゃにいれて、煮こんだものである。
店のやや中央よりのテーブルに二人は座って、あらかた食べ物を片付けたナタルは、給仕を捕まえて飲み物を追加した。
「おーい。りんご酒2杯。1つにはたっぷりとペッパーを振ってくれ。」
給仕は、馴染みの二人に笑顔を返すと、
「リアさんも、いれますか?」
と尋ねた。
「あぁ。お願い。ちゃんと種とってね。」
と笑顔で返す。
リアに、いれるかと給仕が聞いたのは、『りんごの実をいっしょにいれますか?』ということだった。
ナタルにつきあって、この店に何度も着ているうちに、すっかり常連になっていた。リアも嫌いではなかったが、自分が年がら年中獣肉を食べる女だと噂が立たないだろうかと、不安が無いわけでもなかった。
机の上が片付けられて、飲み物が並ぶと、二人は自然と昼間の、晶角士との模擬戦闘の話題を始めていた。
「しっかしなぁ。あんな頭でっかちの晶角士に負けるなんてなぁ。納得いかないぜ。」
思いだしたのか、悔しそうにナタルが愚痴をこぼす。
「でも、確かにおかしな技を使ったわよね。あの後、着替えながら他の仲間に聞いたんだけど・・・。あの晶角士、指輪をね、打剣の元力石の場所に合わせてはめ直してたじゃない? それでね、たぶん指輪に意思の力をこめて、振り上げるのと同時に放出したんじゃないかって・・・。」
リアも、あのときの様子を思いだすようにしながら説明をする。
「でもさ、それで意思を増幅して強力な意思放射を行ったことは納得がいったとしても、それでも指輪に対してだって、その意思を開放できるのは、1度に1つずつだろ?あいつは、同時に3つの意思を放出したんだ!」
ナタルも、言い返す。
「私につっかからないでよ。確かに、わたしにも同時に見えたわ。明らかに元力石の利用の法則を無視してるよね。絶対にもう1つ、何か秘密があるんだわ・・・。」
「うんうん」
リアの言葉に、ナタルは大きくうなずいた。
「まあ、ナタル、あの晶角士、えーと、ガリエタローングっていったっけ?明日叙勲されれば、嫌でも王宮で顔をあわす事になるんだから、。機会をみて、そのネタっていったものを聞いてみましょ?」
「うーん。まあ、そうだな。負けたのは事実だ。潔く教えを乞うもの、次勝つためのあれだな・・・。」
ナタルは、まだ納得が行かない様子だが、晶角士の使った技のことなど、自分達が話をしても、わかるわけが無い。
そう割り切ると、話を、明日からの生誕祭での、闘技大会に話題を移していった。
そんな様子を、ゆっくりとりんご酒を飲みながら、リアは楽しそうに眺めていた。