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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第8章 新年
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新年 その4



「・・・。まさか、ガリン。おぬし、竜族とのキメラを造ろうというのか?それはいくらなんでも・・・」


「キメラではありません。遺伝子の・・・。」


レンの言葉を遮るようにガリンが重ねる。

しかし、レンもガリンの言葉を断ち切るように、


「言葉遊びはやめい。キメラでも遺伝子操作の結果の生命体でも、どちらではよいわい。いかん。いかんぞ。竜族とのキメラなど、断じて許すわけにはいかん。

そもそも竜族は、基本的に人類と敵対しておる。

万が一、制御不能にでもなったらどうするつもりなのじゃ。

確かに、知的水準は高いかもしれんが、お主がこだわっている人型の生命体ではないではないか。」


マレーン文明における竜は、確かに人型とは程遠い容姿をしている。

いわゆる先史時代の、更にその前の恐竜に近い生物である。

しかし、中身は大きく違い、生命体としては精霊に近く、魔法生命体の最たるもので、高度な知識を有しており人語も解する。

人間の文明圏が拡がるにつれ、もともと個体数の少ない竜の棲息域は辺境に追いやられ、現在では敵性生物となってしまっている。


レンが泡を吹くように反対するのも当然であった。

しかしガリンは、竜が敵性生物であることはスルーして、もう1つの問題点についてレンに説明を始めた。


「先生・・・。竜族の生態についてお忘れですか?」


「生態・・?」


勢い良く反対したレンの息は荒く、ガリンの言葉にピンと来ない。


「竜族は、歳を経ると人型に変身する能力を持ちます。それに歳をとらなくても人語を解します。」


「人語はさておき、人の形状に変化するなど、生まれてからずっと後の話ではないのか。それにどのくらいの齢を重ねれば、人型に変身可能なのかも不明じゃ。我々は竜族のことなどほとんど知らぬのじゃぞ。そんなわからないことだらけで、反対とというよりあるまいに・・・。」


レンは、話を聞いても反対の立場を崩さず、またガリンの意とすることがわからない。


「ですから、人の遺伝子が必要なのです。」


ガリンは、待ってましたとばかりに自らの解決法を告げた。


「わかりやすく説明せんか。」


いつものガリンである。1人で納得して説明が足りない。

ガリンは、一瞬考えると、自分の考えの説明を始めた。


「竜も生物である以上、人型の遺伝子を持っているからこその変化、変身だと言えます。

元となる遺伝子情報が無ければ、幻影ならいざ知らず、肉体の物理的な変化をし、それを生物として成立させることは不可能です。

昔話には、竜と人間の混血などもありますし、竜の人間部分は生物学的にはほぼ同じであるといえるはずです。

ですから、そこにもともと人であるものの遺伝子を加えれば、確率的には最初から姿を人型に固定できるのではないかと・・・。」


『なるほど』その推論こそ、ガリンが竜を持ち出した根拠かと、レンが抱いた感想であった。

しかし、だからこそレンは厳しく言わなければならない。


「・・・。その可能性もあるが、あくまでも予測じゃろう・・・。」


「たしかに、予想の範囲の中ではありますが・・・。」


ガリンもレンのこの反論は認めざるを得なかった。

更に、レンの


「頭がこんがらがって来たわい。どちらにせよ。人の遺伝子を組み込むことには、倫理的にも反対せざるを得んな。」


この倫理観も道理であった。


「先生・・・。」


ガリンが情けない声をあげる。

レンは更に尋ねる。


「そもそも、誰の遺伝子を組み込むつもりなのじゃ。竜の細胞核などどこにあるのじゃ?」


これも話の中でレンが気になった部分であった。この問いの後半にはガリンは既に答えを用意していたのか、


「竜の細胞核は、標本としてこの学院にも、竜の外皮が保存されているはずです。組み込む人の遺伝子は・・・。私の遺伝子を使うということではどうでしょうか?」


と、即答をし、前半には疑問符付きで返答をした。


「確かに、竜の細胞核は、それで手に入りそうじゃな・・・。しかし、おぬしの遺伝子を・・・。」


それが先の覚悟の部分だったのかと、レンは得心がいった。


「はい。他人に迷惑をかける訳にはいきませんですので。」


しかし、この覚悟はどこから来るものなのであろうか。昔からガリンをよく知っているレンにとっては、違和感ともいえるガリンのこだわりようである。


「なぜ、そこまであの意識体にこだわるのじゃ?」


レンは興味から、そんなことを質問にした。


「それは、あの意識体が、かのミアンの使い魔であったからです。ミアンの残した数々の研究は、その大部分が現在では失われております。それらを解明できる可能性があるとすれば、それは計りきれない価値があるはずです。それに・・・。」


「それになんじゃ?。」


「それは・・・。」


ガリンは、横を向いて言いよどむ。


「なんあのじゃ?はっきりせい。」


「ルルテ殿と、あの意識体を蘇生すると約束をいたしました。」


レンは、驚いて椅子に腰かけると笑顔で天井を眺め、


「約束か・・・。変われば変わるものだな・・・。まあ、しょうがない。しかし、わしの一存では、お前の考えを支持することはできん。

その道の大家に、聞いてみるとしよう。」


ガリンの変化は好ましいものである。

『約束』その言葉に、レンも絆されたのか、反対の立場を変えることはなかったが、前向きとも取れる提案をした。


「大家とは?」

「おぬしも知っておろう。」


キメラということであれば、1人しかいない。


「エンバサーラ殿のことですね。」


ガリンも答えにたどり着いた。


「そうじゃ。あの男も、お主におとらず偏屈じゃからな。あまり好きではないが、この際仕方があるまい。わしではお主の馬鹿な考えを止めることは出来そうにないしな。」


「先生・・・ありがとうございます。」


手助けはしてくれているのだ。

ガリンも頭を下げた。

レンは微笑むと、


「まあ、とにかく、エバの研究室に向かうぞ。」


と、席を立ち、


「はい。」


と、ガリンも続いた。


「あの薬品くさい部屋に行くと思うだけで、気分がわるくなるわい。」


そう言いながら研究室の扉を開けると、レンは、エバの研究室に足を向けた。

ガリンも、慌てて師の後を追った。


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