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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第8章 新年
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新年 その2

----*----*-----


レンの研究室にて、師弟が向かい合い議論を交わしていた。


「しかしじゃな、ガリン。何度も言うようじゃが、人間をホムンクルスとして造ることは禁じられておるのじゃ。」


レンは、何度も喰い下がる弟子に、ため息をつきながら、毎度の同じ話を繰り返した。


「先生、我々が今回、あの意識体の器として求めている条件は、言葉を発することができるというものなのです。」


ガリンの返答も毎度同じものであった。


現在のマレーンでは、人形のホムンクルスを造ることは禁忌とされていた。

生命倫理的にも認められていないが、実際にはもっと直接的な理由もあった。


各次元文化の開拓時代に、人が異空間や、異なる生態系、あるいは環境の元で生活、繁栄をするために、人は人の体の人工的な変革に手を付けたのだった。


結果として、次元人という新たな人種を生むに至ったのだ。

件の闘技大会での事件を起こしたとされるミーネルハスも、容姿こそ人に類似しているが、浅灰色がかった浅黒い肌と少しだけ尖った耳は、従来の人のものとは明らかに異なっていた。

この程度の差異であれば個性と取ることも出来るが、実際次元の彼方にはもっと人とはかけはなれた種も存在していた。

次元門を繋いだ先が水性の環境であれば、それに準じた肉体が必要になるからである。


次元接合門が再度開かれてから、これらの変革が文明全体に大きな混乱をもたらし、その肉体変革の基礎技術であるホムンクルスの創造が禁忌とされたのだ。


人と人工的な変革の結果生まれた種は同種なのか、交配は可能なのか、遺伝子的な種としての劣化はないのかと、波紋は止まることを知らず、また差別や妬みといった感情の問題まで、処理出来なかったのである。


極めて人に近い容姿の一部の人種に関しては、マレーン文化圏でも受け入れられているが、人体の変革は、見た目だけではなく筋力などの能力にも影響があるため、やはり積極的友好な関係を築くのは困難であった。


そんなこんなで現マレーン文明下では、人体改造の基礎となる研究は禁止されており、特に人型のホムンクルスは研究、創造共に禁止されていた。もちろん、人型ではない農耕労働力として等のゴーレムやキメラなどはこの範囲には含んでいない。


そのような事情で、ガリンが望んでいるような人語を発音できる声帯、発声器官もホムンクルスに組み込むことは出来ない。

しかし、ことが文様術の始祖であるレレルク・ミアンに関連しているのだ、国の機関に属している宮廷晶角士にとっては捨て置くことも出来ない。そのこともあって、いつもレンの返答は、


「たしかにそうなのじゃが・・・。」


という、煮え切らないものになってしまう。

すると、


「そして、人語を話すためには、どうしても発声器官もそれに準じた形状となるため、人型である必要があるのがです。

そもそも、仮に鶏に人語を発する発音器官を組み込むことが出来たとしても、器官としての脳が追い付かずレイレイは結局鶏と同様の知性しか発揮することが出来ませんよ。」


という、ガリンの理詰めの説得が戻って来るのだ。そしてレンは毎回、


「それもそのとおりじゃな。しかし、しゃべれなくても、脳を意思を伝える媒体として使わず、意伝石を利用して、直接意思だけを伝えることができれば良いのではないか?」


多少話の論点は違えど、元力石から直接意思を伝えれば・・・という持論でガリンを説得することになる。

いつもはここで2人の議論は終わるのだが、今回はガリンがもう一歩踏み込んで発言をした。


「先生。今回、ホムンクルスの核には、あの意識体を定着させた元力石を直接用います。現在意識体が定着している元力石はその力を失っています。

先生にも試しに自身の意思力を注い頂きましたが、残念ながら反応はありませんでした。

私は、あの元力石の文様は定着するだけでなく、元力石を核として構成された身体へ意識を共有するような機能があると読み取っています。その際には、おそらくですが、器として使用する有機体は、人型であれ、なんであれその身体が有している記憶領域を利用するのではないかとも考えています。確かに、器官としては脳に物理的に記憶を定着させることはないかもしれませせんが、少なくとも脳を仮の記憶領域として、また、元力石からの命令を全身に伝える中継器として利用すると思われます。」


一気に捲し立てるように自身の考えと理論を伝えた。

いつものわかりにくい説明に、レンは圧倒されながらも目をつぶって唸ると、


「ふむ。要点がわからんな。」


と、呟いた。

ガリンは、いらいらしたそぶりを隠しもせず返答をする。


「つまりですね。元力石として提供されている意識体が、意伝石として提供される外部の元力石を直接利用して意思の疎通をできる保証はどこにもないということです。それを可能とする機能を有した身体を必要とする可能性が高いのです。」


文様の説明もなく、脳が果たす機能の説明も不十分であるため、まだまだ不明な点はあるものの、元力石が、いわゆる魂のようなものであれば、何かを成すには物理的にそれを満たす身体をが必要であろうということを理解したレンは、


「なるほどな。お主の推測が正しければ、それはそうじゃな・・・。」


と、ようやく頷いた。

師の理解が進んだことを受けて、更にガリンが続ける。


「確かに、我々が為そうとしていることは、前代未門のことであるといえます。生命倫理がうつろであった、始祖ミアンの時代であれば、生きた人間の意識をそのまま、他の意識体にすりかえるといった非人道的な方法も行なうことが可能だったでしょう。

しかし、現時点においては、他の人間を被験体にするどころか、器としての人型ホムンクルスの製造さえも、禁じられているのです。」


「これ、人型の製造という表現も問題があるのじゃ。せめて創造とか、うーん・・・少しは控えたらどうじゃ?」


レンは、概ねガリンの言いたいことは理解したのだが、調子にのって禁忌に触れる発言をするガリンをたしなめた。


「・・・。わかりました。気を付ける事にします。」


ガリンは、明らかに不機嫌な様子で返答をする。


「そう、噛みつかんでもよいじゃろう。別に法を定めたのはわしではないのじゃから。」

「・・・。」


ガリンもその事はもちろん理解していた。

無言ではあったが、しぶしぶ頷いた。

ガリンが頷いたのを確認してレンが話題を変えた。

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