幽霊騒動 その15
レンが、何とも取れる会話の〆方をしたため、
「・・・。」
ガリンは無言で頷くことしか出来なかった。
丁度師弟の会話が一段落した頃、扉の外から騒々しい物音が聞こえてきた。
と、同時にルルテが部屋に飛びこんでくる。
ガリンと、レンが扉の方を注視しているのに、気づくと、ゆっくりと寝台に近づき、先ほど自分が寝てしまった椅子に腰をおろす。
「ガリン、体はもうよいのか?」
ガリンは、力なく微笑むと、
「ええ。ご迷惑をおかけしました。」
そう言いながら、頭を下げた。
ルルテは、幾分元気なさげであるが、普段と変わらないガリンの不器用な笑顔をみると安心したのか、ため息をついた。そして、ガリンを指差しながら胸を張り、
「これから、急に倒れることを禁ずる。」
勢い良くそう告げた。
ガリンは、驚いたように目を丸くしたが、再び不器用な笑顔を作ると、ゆっくりと頷いた。
ルルテも頷き返し、椅子から立ちあがると、寝台に近づき、例の石をガリンの前につきだす。
「どうかしましたか?」
ルルテは、ガリンと、手のひらに乗せた石を交互に見る。
「あれから何度も呼びかけてみたのだが、反応がないのだ。」
そう言って、もう片方の手で石をつまみあげると、覗き込むように顔の前にもってくる。
「そうですか。」
ガリンは、ルルテの言いたいことがわからず、曖昧に相槌を打った。
ルルテは、そんな煮え切らない様子のガリンに、
「そうですかではないぞ。レイレイはどこにいってしまったのだ。失敗をしたのか?」
と、詰め寄る。
「そういうことはないと思います。わたしの体を意識体が通りすぎるのは感じましたし、私も何より定着に必要だったと思われる意思力を失っております。」
「確かに、あの時はこの元力石も淡い光りを放っていたが・・・。」
そう言いながらもルルテは床に視線を落とす。
ルルテの浮かない顔に、ガリンが優しい声で言う。
「ルルテは、レイレイ殿が心配なのですね。もう少し待ってください。反応が無いことに関しては、私に思うところがありますので、私の意思力の回復を待っていただければ、詳しく調べてみますよ。」
「そうか・・。」
それでも、ルルテはまだ何かが引っ掛かっている様子で、小さく頷いた。
2人の様子をみかねたレンが、会話に割ってはいる。
「ガリン、ルルテ嬢も心配しておるのじゃ。思うところがあるのなら、言ってやってはどうじゃ?
わしも、先程意思を送ってみたりといろいろ手をつくしてみたのだが、やはり反応せなんだ。」
「しかし・・・。」
ガリンの返答も歯切れが悪い。
「問題があるのか?」
ルルテが、厳しい合いの手を入れる。
ガリンは、ひときわ眉をよせると、ルルテから石を受け取り、表面をなぞるようにして口を開く。
「この元力石に刻まれている文様は、先生自身が最初お考えになった探知の文様であったとしても、私が読み取った質量補完の文様だったにしても、どちらも石周辺の意思力、この場合は幽霊と呼ばれている意識体のエネルギーとなりますが、その意思力が文様の手助けを得て外界からから石の方向へと流れるという点においては同じでした。
結局は私の考えが正しかったわけですが・・・。」
「しつこいの・・・。」
レンが、愚痴ともとれるような相槌を打つ。ガリンは、師の嫌味を無視して話を続ける。
「2人の文様術師が読み取ったように、この石は一方方向なのです。以前にこの石が使われたときは、すぐに意識体になんらかの体を与えることが前提で、術が行なわれたでしょう。そのため、逆のエネルギーの流れをまったく文様に与えていないのです。
定着した直後はエネルギーの余波があったため淡い光りを放っていましたが、時間が経った今となっては、その光りも失せてしまっています。
現在、中にいる意識体が、外界の方向に意思を放射する手段がないのです。」
ガリンは、そう言って、ルルテに石を返した。
ルルテは、ガリンを一時睨みつけると、ガリンに背を向けた。
「おじい様。」
そのままレンに微笑んだ。
レンは、ため息をつくと、やさしい口調で話し始めた。
「ルルテ殿、あやつも悪気はないのじゃ。」
「いいの。今日は許してあげるの。」
ルルテの口調が、丸いだけに余計に恐ろしかった。
レンは、苦笑いを浮かべ、
「・・・。まあ、簡単にいうとじゃな。あの石は、幽霊を中にいれるための石であって、中にいる幽霊が外と交信をするためのものではないということじゃな。」
と、要約した。
やっとガリンの難解な説明の内容を理解したルルテが、疑問を口にする。
「だが、最初はあれを使って話ができたぞ。」
「それは、まだ石に幽霊を入れる前じゃろう?」
レンも出来るだけ簡潔に答える。
「そうだな・・・。」
ルルテが、首を捻る。
「ふむ。つまりじゃな。幽霊はルルテ殿と同じように、外から、意思を送って石を光らせておったのじゃ。しかし、今は中におるでの。だから意思を送ることができんのじゃ。」
「そうか。では、どうすればよいだ?」
ようやく合点がいったルルテが不安そうに尋ねた。
レンはガリンに視線を向けて、
「まずは、弟子の回復を待ってくださらんか。何か良い方法もあるじゃろうが、まずは意思力が戻らんと、それもできんのじゃからな。」
と、話をガリンに戻そうとした。
しかしルルテは、少し引き締まった顔をし、
「宮廷晶角士でである、お主でもなんともならんのか?」
と、急にレンの官職名で問いかけた。
その目には期待と歳に似合わない有無を言わせぬ王族としての意志が伺いみえたが・・・、
「この手の解決には時間がかるものじゃ。姫様らしい問い掛けの返答としてはすまなんだが、わしは宮廷晶角士としての公務があるしの、これにばかり時間を使うわけにはいかんのじゃ。」
このようなやり取りにおいては、さすがにレンの方が何枚も上手である。
「うむ・・・。そ、そうだな。」
項垂れながら、ため息をつき、しぶしぶ首肯した。
レンは、ルルテの頭に手を乗せると、
「あれが、あんなにひ弱でなければ、すぐにでもどうにかできるのかもしれんがの・・・。」
レンは、ガリンを横目で見た。
「先生・・・。」
そして、思いっきり情けなさそうな顔をしているガリンに、
「はっはっは。これでお互いさまじゃな。」
そう笑った。
ルルテは、再びガリンの横に座った。
「あなた、本当に不器用なのね・・・。」
そう言って、石をガリンの手のひらに乗せると、そのまま部屋を後にした。
「では、ガリン。わしもお茶をいただいたら、おいとまするとしよう。
近々に、その意識体のことで相談したいこともあるゆえ、学院に顔をだすようにな。」
「はい。先生。」
ガリンに笑顔を向け、レンも部屋を出ていった。
ガリンは、手のひらの上の石にもう一度指を滑らせると、それを寝台横の机に載せ、再び横になり目を閉じた。
時は、第4力期も半ばを過ぎた頃であった。
長い話でしたね。
今後のレイレイ気になりますね(笑)




