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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第7章 幽霊騒動
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幽霊騒動 その13


再開した質問は、


「レイレイ殿、今回、焼き菓子に興味を惹かれて、目覚めたということで間違いないですか?」


と、そもそもの遭遇の原点に立ち返ったものであった。

石は、2回瞬く。


「では・・・。」

ガリンが次の質問をしようと口を開けた瞬間、ルルテが話に割ってはいる。


「お主は、女将なのだな?」


石は、強く2回瞬く。


「・・・。」


ガリンの言葉を押さえ込むように、ルルテが続ける。


「やはり、だから焼き菓子が好きなのだな。きっとクッキーとは焼き菓子の別の名称であるのであろうな?」


ガリンのしたかった質問とはまったく方向が違う質問が展開されていた。


しかし、石は、強く2回瞬く。

レイレイは、明らかにルルテの質問に強く反応していた。


「・・・。ルルテ・・・。」


非難と困惑を込めて、ガリンがルルテの名前を口にした。

ルルテは、手でガリンを牽制しながら、


「わかっておる。もう邪魔はせぬ。クッキーとやらを確認したかったのだ。

 それに、私の質問の方が話をすすめておるではないか。」


ルルテは得意に言う。

なまじ事実だけにガリンもため息をついて、話を自分が確認したい話題に戻した。


「こほん。レイレイが、女性なのはわかりましたが、では、レイレイ殿、今回あなたと私たちが出会うことが出来たのは偶然であり、次回は期待できないということですね。」


石は、2回瞬く。

やっとガリンの考える核心の部分に至る。


「そうですか、では、なにか考えなければならないとうことですね。ところで、レイレイ殿、あなたは、この探索の石が関係ないと言いましたが、そもそもこれは探索の石ではないのですか?」


ガリンが師から渡されていた探索の元力石に持っていた違和感と、自身が読み解いた、渡された元力石の文様の術式、これが鍵なのではという、自身の予想。


石は、2回瞬いた。

ガリンの額に寄せていた眉はいつの間にか消えており、その顔にはうっすらと興奮が見てとれた。ガリンは自身の質問の返答で2回瞬いた石を眺めながら、何度か頷いいた。


「やはり、おかしいと思いました。探索の石を通じて、光を発する、しかも意識体の意思によって自由に光を発するなんて。」


ガリンは、この探索の元力石を、レンより手渡され、最初に自分が読み取った『質量補完の文様』、やはりそれが正しいのだと確信をした。

質量補完の文様であれば、『何』の質量を補完するのかが鍵となる。そしてこの場合は、意識体、今回であればレイレイの存在を維持するために、質量として微量である幽霊にその存在を維持するために物理的な入れ物を補完するのではないか。

ガリンは、自身の推論をそのままレイレイに問う。


「レイレイ殿、もしかしたら、あなたはこの石の中に自分をとどめることができるのではないですか?」


石は、2回瞬く。


「やはりそうですか!」


興奮がガリンの体をかけめぐった。


単に光るだけとはいえ、レイレイは既に元力石に物理現象である光を灯している。

であれば、レイレイ自身は元力石に働きかけが出来ているのだ。

意伝石は、石を投射するだけで、光ったり震えたりはしない。つまり、その点だけをみても、レイレイの意思に反映して光るのであれば、街灯などのように意思の力を質量として元力石内に蓄えているといえる。

文様は蓄えるだけではなく、何かを維持するために、内包した質量を増幅しエネルギーを補完するように読み取れる。


答えはここにあったのだ。

ガリンの顔が、より一層紅潮する。


この光景を屋敷の女官達が見たら、まさにいつもとは逆の絵図と感じるはずである。


いつも冷静なガリンが興奮のために鼻息荒く、逆にルルテが落ち着いているのだ。


ルルテそんなガリンの様子に、自分のお株を奪われたからという訳ではないだろうが、1人で興奮しているガリンに目を細めて、


「ガリン、1人で興奮していても、さっぱり事情がわからぬぞ。説明をしてくれ。」


と、ぶっきらぼうに言った。

ガリンはそんなルルテの様子には一切気付かないといった素振りで、ルルテの肩に手を置くと、


「ルルテ、なんとかレイレイ殿を、連れて帰る事ができそうですよ。」


と、おそらくルルテがもっとも欲しかった答えを口にした。


「まことか!?でかしたぞ。」


予想していなかったガリンの言葉に、ルルテの瞳に光が戻った。

ガリンは、自身の推論を1秒でも早く確かめたいといった仕草で、


「では、ルルテ少し下がっていてください。」


と、手で後ろに下がるように促した。

ルルテも素直に立ちあがると、ガリンの後ろに隠れるようにして、小さくなった。


ガリンは虚空に向かって、


「では、レイレイ殿、いきますよ。」


と、声を掛けた。

ガリンは、石が2回瞬くのを確認して、後ろのルルテと、虚空のレイレイに頷くと、両手を机の上の元力石に向かって前にかざした。


ガリンが目を瞑って、机の中央の元力石に意思を送り始める。

意思を送り始めほどなく、石はうっすらと光りを放ちながら、少しだけ宙に浮く。


ガリンは、ルルテに、手で自分の後ろから動かないようにと合図をすると、そのまま石に近づく。

そして、石の表面の文様をなぞるようにして指でなぞると、納得したように、石に左手をかざした。


そして、


「レイレイ殿、では、私の体を経路して開放します。右手から、左手に意識の流れを作りますので、それを通って石に自分を定着させてください。」


そうささやいた。

一瞬石がつよく光ったかと思うと、石にかざしていたガリンの左手が輝き、すべての光りが消えた。

光が消えた石は、先程の光が見間違いでもあるかのように、ただ無気力に机の上に転がった。


ガリンは、机の上で転がった元力石が動きを止まるのを確認すると、そのままその場に膝をついた。

ルルテが慌てて駆け寄る。


「ガリン、無事か?」


ガリンの顔から興奮が消え、少しだけ眉を寄せたいつのも表情が覗いた。

しかしながら、額には汗が浮かび、肩で息をするガリンを見て、ルルテに動揺が走る。

ガリンは、そんなルルテの様子に、


「ええ。私は大丈夫です。ちょっと左手にやけどを負いましたが・・・。」


そう安心させるように言って、左手を自分の肩の生力石に近づけた。

生力石からは、淡い光りが放たれ、左手をつつんだ。

力なくではあったが、少しだけ笑顔を浮かべた。


「これで、痛みはだいぶましになりました。あとで光浴すれば、もっとよくなるでしょう。」

「よかった。心配させるな。」


ルルテも安堵からか、息を吐いた。

そして、視線を机の上の石に戻した。


そのまま恐る恐る机の上の元力石を覗き込むと、


「ガリン、成功したのか?」


と、尋ねた。

もともと訊きたくてウズウズしていたのだが、ガリンの焦燥しきった様子に、訊くこと自体を忘れていたのだ。

ガリンは、そのままの姿勢で、


「残念ながら・・・わかりません。わたしも・・・初めてのことなのです。しかし・・・レイレイ殿が私の体を経路として通りすぎた時に・・・かなりの意思エネルギーを・・・持っていかれたことは事実です・・・。」


まだ呼吸は荒く、途切れ途切れに返答した。


「大丈夫なのか?」


再び、ルルテの頭の中が、ガリンへの心配で一杯になる。


「休めば回復すると思います。」


ガリンはルルテの様子に、今度は呼吸を整えるようにゆっくりと伝えた。


「そうか。」


ルルテは頷くと再び机の上の石に視線を戻し、ゆっくりと机に向かい、石に手を伸ばす。


「よいか?」


ガリンに触れても良いのか尋ねた。

既に光を失っており、ガリンの手を火傷させた熱を帯びている様子もないことから、


「大丈夫だと思います。」


と、頷いた。

ルルテが、手を触れようと腕を伸ばした瞬間、石が再び強く輝いた。


「熱いっ!」


ルルテが急いで手を引き戻す。


そのまま石は、ゆっくりと光りを弱め、かろうじて光っているのがわかるほどの淡い光りへと変化をした。


ルルテは、もう一度、おそるおそる石に手を伸ばす。

石を手に取ると、その石はなんとなく暖かい感じがした。


「レイレイ、そなたそこにおるのか?」


ルルテが石に向かってそう尋ね、息を飲んで返答を待つ。

しばらくすると、石が2回瞬いた。

ルルテは、満面の笑みを浮かべ、ガリンに向き直り、


「やったぞ。ガリン、成功しておるぞ。」


そう声をあげた。

ガリンは、ルルテに向けて力なく微笑むと、そのままその場に崩れ落ちた。


「ガリン!!」


ルルテは、急いでガリンに駆け寄ったが、既にガリンは意識を失っていた。


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