幽霊騒動 その12
そう叫んだガリンの顔には、『信じられない』という驚きの表情が浮かんでいる。
「ガリン、どうしたのだ。驚くではないか。」
急なガリンの大声に、ルルテもびっくりして、身構える。
そもそもいつも淡々として、何事にも興味なさそうなガリンの叫び声である。ルルテは2重に驚いたのだ。
「すいません。ちょっと信じられないことを思いめぐらせてしまったものですから。
しかし冷静に考えれば、ちょっと話が飛躍しすぎでしたね・・・。」
ルルテに大声の説明をしながら、同時に自分の出した推論を冷静に打ち消す。
「なんのことだ?」
ガリンの百面相に、ルルテはますます困惑し、そう尋ねた。
「ちょっと待ってくださいね。念のためレイレイに確認をとってみましょう。」
ガリンは、自分にもいい聞かせるように、ルルテに返答した。
「うむ。」
ルルテも、とにかく頷いた。ガリンは、再び深呼吸をし、レイレイに質問を再開した。
あの冷静なガリンが、緊張して指先が震えている。ガリンは、ゆっくりと、そして慎重に尋ねた。
「レイレイ殿、まさかあなたの主人の名前は、レレルク・ミアンではありませんよね?」
石は1回だけ瞬く。
ガリンは、安堵したかのように息を吐くと、
「ルルテ、やはり私の想像は、すこし行き過ぎていたようです。」
そう言って、首を降った。
ルルテは、そんなガリンに怪訝そうな顔を向けて、
「しかし、ガリンよ、石は1回だけ輝いたぞ。1回だ。」
そう告げた。ルルテの言葉を聞いたガリンは、呟くように、
「だから、1回・・・・。」
と言いかけ、ルルテが被せるように
「だぞ。」
とガリンの呟きを締めくくった。
ガリンは息を飲み、思案を巡らす。そして震えるような声で、
「ちょっとまってください。レイレイ、あなたの主人は、レレルク・ミアンなのですか?」
と、今度は直接、是非を問うた。
石は、ガリンの震えを打ち払うかのように、はっきりと2回強く瞬く。
「ま、まさか・・・・。」
ガリンが言葉を失う。
ガリンがそのまま固まっていると、ルルテが、
「2回輝いておるぞ。」
ガリンのレイレイへの問いかけの返答を言葉にし、ガリンを現実に引き戻す。
ガリンも、自身の驚きを、言葉として漏らす。
「しかし、レレルク・ミアンは・・・。」
「我も知っておる。始祖だ。」
ルルテが再び間を置かず、続けた。
「そうです。文様術を確立した人間であり、最初の晶角士。この元力石を礎にして発展した、現文明の始祖です。そんな・・・信じられない・・・」
ガリンはルルテの『始祖』という言葉を自らの言葉で引き取り、そして、ゆっくりと席を立ちあがり、天を仰ぐのだった。
「ガリン、落ち着くのだ。レイレイが事実を申しておるかは、まだ明らかではないのだしな。」
いつも落ち着くなく、自分が諫めている少女に逆に諭され、ガリンは大きく見開いた目でルルテを見る。そして、大きく1回深呼吸をして心を落ち着かせると、
「そうですね。」
と、眉を寄せたいつもの顔で頷いたのだ。
その後、更にもう1回深呼吸をして、幾分、落ち着きを取り戻したガリンは、再び質問を始めたのだ。
「レイレイ殿、探索の元力石は、関係なく。焼き菓子に興味を惹かれて出てきたということですか?」
先程のレイレイとのやり取りの中で、ガリンが最も違和感を感じていた部分から取りかかった。
そして・・・。石は、2回瞬く。
「では、この石がなくても、我々人間と接触は可能だったということですか?」
ガリンは自分の推論を確かめるかのように質問を続けた。
石は、2回瞬く。
「断片的な言葉と、『はい』、『いいえ』、だけでは状況を推察するのに限界がありますね・・・。」
状況は理解できたが、理屈が理解できない。
文様術士としても、性格的にも、もどかしいと感じたガリンは、興奮して立ち上がった姿勢から椅子に座り直すと、そう愚痴をこぼした。
「だから、身体を与えれば良いであろう。」
ルルテには、ガリンの言っている問題が今一つ理解できなかったが、そこはルルテである。
自分の願望も含め、単純な解決法を提示した。
「しかし、そもそもそれが難しい上に、仮にできたとしてもも今すぐにというのは無理です。」
ガリンの回答はルルテ的には全く要領を得ないとばかりに、
「では、後で与えれば良いであろう?」
再度、単純に、『今無理なら後で』と、促した。
「確かにそうですが・・・。」
ガリンも当然、『時間的な猶予が有れば』とは考えはした。しかし、ガリンには、それが難しいのではないかという懸念があったのだ。
しかし、ルルテの言うことにも一理はあり、ルルテに頷くと、自らの懸念が正しいものなのか、質問をする。
「レイレイ殿、いつでもあなたに会う事はできるのですか?」
予想通り石は、1回だけ瞬く。
ガリンは問いかけを掘り下げていく。
「それは、常に意識体として存在しているわけではないのですか?」
やはり石は、2回瞬く。
そう、ガリンは、今まで図書館で、これほどハッキリとした幽霊と呼ばれるものとの遭遇に関する記録がなく、そもそも探索の元力石とレイレイの因果関係もない事から、いつもレイレイが、自分達とコンタクト出来ないと状態にあるのでないかと考えていたのだ。
ある意味、この出会いは偶然であり、今を逃せば次の機会を確実に確保できないと考えていた。
「では、普段はどうしているのですか?もう一度だけ意伝石を使ってください。」
片言しか伝えることが出来ないレイレイに、出来るだけ返答しやすいように質問を続けた。
しばらく待っていると、
『寝る』
2人の言葉の中にその1つの単語だけが響いた。
意識体が寝るの事が出来るのか、あるいは比喩的表現なのか、ガリンには判断は出来なかったが、1つハッキリしたことがある。
やはり、いつでもレイレイに会うことが出来るわけではないということだ。
ガリンは確かめるように、
「わかりました、普段は寝ている、つまり意識を知覚出来ない状況にあるのですね?」
と、確認をした。
ガリンの予想通りに石は、2回瞬く。
やはり、時間的な猶予は無いのだ。ガリンは、周囲の事を忘れて思索を始める。
ルルテも、イライラしながらも、ガリンが考えているときは、何か解決をしてくれるもだという信頼ぐらいは持っている。自らも考えるように目を瞑り、ガリンを待つのだった。
ガリンは考えていた。
『いつでも会えないなら、なぜ今出会えたのだ。非論理的ではあるが、焼き菓子がキッカケと言っていた。でも何故、焼き菓子がキッカケなのか・・・そもそもサンドイッチでは駄目なのだろうか。』
思索の迷路の中をぐるぐると回る。
『ただ、とにかく焼き菓子がキッカケなら、まずそこを掘り下げなければならない。』
ガリンは、そう結論を出すと、再度質問を始めた。
語尾の修正。読みやすいように開業の修正。使用している漢字の統一。2025.12.1




