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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第7章 幽霊騒動
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幽霊騒動 その10

ルルテがガリンに頷くと、ガリンが話を始める。


「えー。っごほん。ゆ、幽霊殿、では私の質問に対して、『はい』であれば、光りを2回、『いいえ』であれば、光りを1回、その石にお願いします。

 私の言っていることがわかりますか?」


石は、2回瞬く。


「やはり、通じておるぞ。」

「・・・。確かにそのようですね。」


ガリンも目の前の事実は認めざるを得ない。慎重に頷いた。

ルルテは、紅潮した顔で尋ねる。


「お主は幽霊なのだな?」


石は2回瞬く。


「見つけたのだな。ガリン、見よ、やはり居たではないか?」


いよいよルルテの予想が正しいものとなる。

その興奮に我慢できずに、ルルテは再び立ちあがった。


ガリンは、眉を眉間に寄せて、ルルテに座るように説得をしながら師の言葉を思いだす。

ガリンは、正直レンの話を聞くまでは、ルルテが幽霊と呼ぶ存在に、この地下書庫で遭遇できるとは露程にも思っていなかった。レンの話を聞いて、多少は可能性を感じたものの、やはり否定的な部分の方が大きかったのだ。だからこそ、目の前にその事実がある今をもっても素直に信じる事が出来ず、動揺していた。ルルテの前でもあるため、我慢していたが、


『そんな非現実的なっ!』


と、叫びたかった。

しかし、目の前の事実をねじ曲げることも出来ない。ガリンは、


『そう、幽霊と呼ばれる意識体が存在するのあれば、それは自分達術士の範疇なのだ。』


そう自分に言い聞かせ、自分を落ち着かせると、とにかく話を再開するのだった。


「幽霊殿、そなたは、以前に文様術士に仕えていたのですか?」


師の言葉を確かめるように、そう尋ねた。

石は2回瞬く。


「・・・。体を失ったのですね?」


物理的に考えれば、意識体だけが残る理由は、それしかない。


そして、石は2回瞬く。

ガリンの匍匐前進のような、慎重な質問にルルテが業を煮やし、会話に割って入る。


「ガリン、何かの手段で、この幽霊と会話をすることはできぬのか?」


ルルテらしく、一気に事を進ようと、そんな提案を口にする。

ガリンも、唸りながら目を瞑り、


「会話といっても、体がない以上・・・。」


首を横に振りながら、ガリンは、そう言いかけて、


「意思があるのであれば、意伝石が使えるかもしれませんね。」


ガリンは、そう言い直すと、先日屋敷のテラスでルルテ達に渡したものと同じ元力石を机に置いた。

そして、周囲を見渡しながら、再度幽霊に話しかける。


「幽霊殿、意伝石は知っていますか?」


石は1回だけ瞬く。

否定が返ってくる。ガリンは、ちょっとだけ意外そうな顔をすると、


「思ったより古い幽霊のようですね。」


ルルテに向けて言った。

ルルテは、ガリンの意とするところが分からず、聞き返した。


「どうしてだ?」


ガリンは、懐疑的な、そして困惑したような顔から、いつもの表情を浮かべると、補足の説明をした。


「意伝石は、今では誰でも使っていますが、大戦以前はほとんど普及していなかったのです。

これが使えれば、もしかしたら意思の疎通が可能かとも思ったのですが、残念です。」


ルルテは、ガリンの説明を聞いても、何が残念なのかもわからないといったと様子で、


「では、使い方を説明すれば良いであろう?」


そう返した。


「・・・。幽霊に説明?」


今度はガリンが、驚きの表情を浮かべた。


「幽霊は、こちらの話は分かるのであろう?言って聞かせればよいではないか。そなたは相変わらず、文様術以外は頭が硬いのう。」


ルルテが、勝ち誇ったように目を平たくしてガリンを睨む。


『文様術士に仕えていたのであれば、簡単な説明で意伝石ぐらい使えるかも知れませんね。』


ガリンは、そう気持ちを切り替えると、今度は幽霊に向かって、意伝石の使い方の説明を始めた。特にこの意伝石は、あらかじめ登録されている対象に志向を固定してあることも踏まえて、出来るだけ簡潔に伝えた。


「幽霊殿、その意伝石は、その元力石に対して、己の意思を放射することによって、特定の相手に意思を伝えることができます。

通常は、相手をイメージする作業が必要ですが、今机に置いた意伝石は特別性で、単純に意思を放射すれば、私たち2人だけに意思が伝わります。やってみてください。」


石が2回瞬く。


『わわわわわわ・・・・』


言葉にならない、何かが意伝石を通じて、2人の中に流れ込んできた。


「!」

「!!」


2人が同時に声にならない叫びをあげる。


『わたあああああああ・・・・。』


再び、頭の中に声が流れ込んでくる。


「ガリン、何か聞こえたわ!」


今度はルルテが、声に出した。

ガリンも、一回深呼吸をして、幽霊に声をかける。


「聞こえましたね。使えるようですね。幽霊の存在そのものが、意識の集合体ですから、鮮明に伝えるのは難しいとは思いますが、頑張ってください。」


ガリンらしく、相変わらず説明くさいが、優しい声掛けである。

石が2回瞬く。


「わわわたし・・・。」


3度目の正直か、言葉らしいものが聞こえる。


「言葉になったわ。」


ルルテがガリンを振り返った。


「わたし・・・・、レイレイ。」


徐々に、幽霊の言葉がハッキリとしてくる。


「レイレイ!名前ね。ガリン、名前を言ってるわ。」

「そうですね。私にも聞こえていますよ。」


2人で頷き合う。


「レイレイ、レイレイ、からだ・・・・。有機体、DNA・・・情報記憶媒体・・・。」


ガリンの予想以上の専門的な用語が並ぶ。

当然、ルルテにには、わからない言葉であるため、


「何を言ってるのだ?」


ルルテがガリンに翻訳を求める。


「どうやら、有機体、つまりこのレイレイは、身体、それと記憶媒体、人であれば脳といtらところでしょうか。DNAとは体を構成する遺伝子情報のことですが、これは何を言いたいのか、うーん。やはり身体でしょうか、そういう要求があるのかもしれませんね。」


ガリンも断片的な情報からは全てを推察することは出来なかったが、とにかく身体が欲しいのだろうと当たりをつけてルルテに説明をしたのだった。

そんな、ガリンの意思を感じてか、石が2回瞬いた。


ガリンがルルテに説明を続ける。


「もともと意識体であるレイレイは、こうやって意伝石を通じて、我々に意思を伝える行為が、身を削っているようなものです。永遠に意伝石を使うわけにはいきませんからね。」


再び石が2回瞬いた。


「どうやって身体を与えるのだ?」


ルルテも、この幽霊にとって身体が必要だということは、意伝石云々に関わらず、当然と言った反応である。


「意識体を定着させる入れ物としての身体が必要になります。」


ガリンがうんちくモードに突入し指をふり始めるが、ルルテは無視して自分の質問を続けた。


「なんでも良いのか?」


語尾と、文章がちぐはぐなところを修正。2025.12.1

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