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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第7章 幽霊騒動
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幽霊騒動 その9


ほどなく、地下書庫の中央にたどり着いた2人は、円卓に焼き菓子を広げた。

ガリンは、保温調整の行なわれた水筒から、カップにお茶を注ぎながら、


『まさか、書庫でこのようにお茶を入れることになるとは・・・』


と、自分の境遇を幾分おかしくも思いながら、ルルテに用意が整ったことを伝えた。


ルルテの頭の中からは既に幽霊の話消えてしまったのか、ルルテは、お茶を飲んでいる間中、また新しい噂話をとうとうとガリンに聞かせていた。

先程までの、少なくとも学問に関係する話題であれば、ガリンもいくらでも対応ができたのであるが、この手の話になるとどうしようもなかった。

次々とでてくる話にガリンはただ曖昧に相槌を打っていった。

いくつ目かの話が終わり、ガリンもそろそろ調査に戻ろうと言いかけた時、ルルテが大声をあげた。


「ねぇ!」


ルルテが、しきりにガリンを指差す。


「私がどうかしましたか?」

「違うの。それ。」


ガリンは、再びルルテの視線を追う。


「どうかしましたか?」


ルルテが、ガリンの悠長な様子に、慌てて指しながら、


「袖よ。袖っ!」


と、叫ぶ。


「は?」


ガリンは意味がわからないといった声を上げた。


「ああ・・・、もう・・・光ってるの!」

「うーん・・・光?」


そう言って、ようやくガリンは、ルルテの意図に思い当たる物があるのに気付いた。


そして、急いでガリンは、お茶を広げたときに、再び袖にしまった、探索の元力石を取りだした。


特に元力石に変化は見られない。ガリンは、ルルテの前に元力石をかざすようにして


「これが光っていたのですか?」


と、ルルテにいささか間の悪い問いかけを返した。

もちろん、自分の言ったことを理解せず、もたもたした結果だと考えているルルテに、笑顔で答えを返す余裕はない。

で、


「光っていたのだ!!!」


と、なった。

ガリンは、その勢いに押されながらも、


「今は光っていないようですね。」


と、火に油を注いだ・・・。

ルルテは、こめかみに青筋がみえるかのような形相と声で、


「だから、そなたが遅いのだ。我は、確かに袖口から光りがもれていたのは見たのだ。そなたは、自分の鈍さを反省もせず、まず、我の言葉を疑うというのか。どうなんだ?」


興奮の為か、ルルテの口調がぞんざいになる。

ガリンは、しばらく元力石を見つめ、


「そうですか。やはりこの文様は完全ではないのでしょうか?」


と、元力石を疑い始めた。

ルルテの怒りは、さすがに目の前の男の鈍さと、空気の読めなさに、頂点を通り越して、なぜか着地した。

ルルテは、呆れたように、


「そなた、師の文様を疑う前に、自分の鈍さを疑ったらどうなのだ?それと、少しは人の言うことにも耳を貸せぬのか・・・?」


と、力なく言った。

ガリンは、


「私はルルテの言葉を一切疑っていませんよ。光っていたのに、すぐに消えてしまったことについて、元力石自体を疑っているのです。誤解させたのであれば、申し訳ないです。

しかし、一度光ったのであれば、もう一度光るかもしれないですね。

幽霊と仮定したものとの距離的なものなのか、あるいは感応させるだけのエネルギー体として質量が不足しているのか、それとも・・・」


ルルテは大きく深呼吸をすると、


「そうだな。光ることを期待するとしよう。」


大きな声で、ただし声色と口調はいつものルルテで、ガリンの思索モードを止めた。

そのまま、お茶をしている机を指差し、


「ガリン、この近くに元力石を光らせた何かがいるのだ。その石を机の中央に置いて、しかと観察をするとしようではないか。」


と、王女らしく命令を下した。


ガリンは頷きながら腰を浮かせると、探索の元力石を机の中央に置いた。


ガリンはそのままの姿勢で、ルルテは食い入るように石を眺めていた。

時だけが流れていく。


「光らぬな。」


ルルテが、先に根をあげた。

ル そして、片付けかけていた、焼き菓子に手を伸ばす。ルルテが焼き菓子に手を掛けようとした、まさにその時、


「ルルテ!」


ガリンが、ルルテを制止する。


「!?」

「ガリン、光ったぞ。」


再び元力石が淡く光りだしたのだ。

ルルテが大きく身を乗り出す。

ガリンも、つられて、身を乗り出す。


「本当に・・・。」

「まさかとか、本当にとかではない、今、一瞬光ったであろう?」

「確かに光りましたね。」

「私が、焼き菓子に手を伸ばした瞬間だったな。」


なぜか急にひそひそ話になる2人。

ガリンも無言で頷く。


ルルテは座り直すと、再び、焼き菓子に手を伸ばした。

すると、それに反応するように再び、石が光る。

ガリンは、面白そうに、


「確かに、ルルテの行動に反応をしていますね。」


と、言って椅子に座り直した。

ルルテも、再度座り直すと、唸るようにして、目を瞑ったり、頭を掻いたり、顎を撫でてみたりしながら、何かを思案を始めた。

しばらくすると、


「ガリン。」


と、得意気な顔で話を始めた。


「なんですか?」


平常運転のガリン。

ルルテは気にせず続ける。


「幽霊は元は人の意識であると言っておったな?」

「その場合が多いですね。」


ガリンも、ルルテが何か自分なりの推論を伝えようとしていることを察し、首肯して、話を促す。


「うむ。そして、幽霊が形をなすには時間がかかるとも言っておったな?」

「そう言いました。」


再び頷く。


「では、ここにいる幽霊は空腹なのだ。」


ガリンの思考が一瞬停止した。

首を左右に振って、


「・・・。意識体が空腹を感じると・・・。また、なぜその結論に・・・。」


とだけ、返した。

確かにルルテの推論?には、ガリンが求めていたような、提起、考察、原因の追及、解決、結論といった流れはなく、


『人であったものが時間を掛けて幽霊になったから腹が減っているのだ。』


といった、いわゆる自分の感覚を当てはめたものであった。

ガリンにしてみれば乱暴どころか理解が及ばない急展開であったのかもしれないが、ルルテは根拠のない自信で、


「まあ、みておれ。証明してみせるぞ。」


と、胸を張った。


「・・・。」


ガリンは無言で頷いた。

ルルテは、周囲を見渡しながら、


「そこにおるのであろう?名前はわからぬが、幽霊なのか?

 腹が減っているのであろう?

 そうであれば、そこにある石に2回ほど光りを灯してみせよ。」


と、幽霊と仮定されている不可視の何かに向かって話しかけたのだ。

ガリンは、突然のルルテの行動に驚いて、


「ルルテ!いるかいないかもわからないのに、仮にいたとしても同じ言葉で意志疎通ができるかも・・・。」


ルルテが机をピシャリと叩く。


「そなたは、黙ってみておれ。」


ガリンの言葉を止めたルルテが再び幽霊に問う。


「どうなのだ。幽霊よ。腹は減っておらぬのか?で、あれば光を2回だぞ。苦しゅうないぞ、返答をしてみせよ!」


先ほどより更に朗々とした声で語り掛けた。

そして、2人が机の元力石に目を向けると・・・。


チカッ・・・チカッ・・・


強い光ではないが、確かに探索の元力石が2回ほど光りを放ったのだ。

ガリンは息を飲んだ。


「みよ。ガリン。空腹だと言っておるぞ。」


ルルテが満足そうに告げる。


「そんな非科学的な・・・。」


ガリンは目を擦りながらそう溢す。


「しかし、答えておるではないか?」


ガリンは、ルルテの言葉を咀嚼し、術士らしい検証を持って対応することで、決心をした。


「ルルテのおっしゃることも一理ありますが、なだ偶然という可能性も捨てきれません。

確かめる方法ですが、私に考えがあります。

どうでしょうか?」


ルルテは、一瞬片眉をピクリとさせたが、直ぐに余裕の笑みを浮かべ、


「やってみよ。」


と、賛同した。

ガリンは、両手を擦り会わせ、軽く咳払いをすると、周囲に視線を泳がせ、話を始めた。

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