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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第7章 幽霊騒動
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幽霊騒動 その7


地下書庫は、学院の図書館の地下にあり、現在ではあまり使用されなくなった記録媒体である”紙”を中心とした古書が保存されている。現在の主記録媒体である記録石に比べると、格段に痛みやすいため、湿度などを調整しやすい地下に保存されているのだ。


意思を直接書きこむ事の出来る記録石に比べ汎用性も低く、内容を調べるのにも時間がかかる。それもまり、少しづつではあるが書士により記憶石への転写も行なわれていた。しかしながら、それらの古書の中には貴重な資料も多く、晶角士やそれを目指すものにとっては、何度も足を運ばなければならない場所でもあった。もちろんガリン自身もルルテにも説明したように、何度も足を運んでいる場所であった。


そんな事情もあり、普段はそれなりに人が出入りしている場所でもあるのだ。

ガリンが、この場所においての幽霊探索にあまり可能性を見出せないのも、ある意味では当然と言えば当然のことかもしれない。


しかし、先程のレンの話を聞いたガリンは、朝、屋敷を出立したときよりは可能性を認めてもいた。


そして、今、ガリンとルルテの2人は、図書館の中央部にある地下書庫へ降りる階段の前に立ってた。

地下に伸びる階段。いかにもといった雰囲気に、ルルテが息を飲むかのように佇んでいる。たしかに、人が数人並んで通ることができる程度の幅をもった、それなりに雰囲気のある階段である。


「ガリン・・・。本当にここが地下書庫への入口なのか?


ガリンの予想とは異なるルルテの不満そうな声に、ガリンは首を傾げる。


「そうですが、何か問題がありますか?」


ガリンの返答に、ルルテは溜め息ををつき、


「地下書庫など、謎めいていかにも隠された雰囲気のある名称をしている割には、こんな建物の真中に、しかも堂々とあるではないか?」


そう言いながら、幾分残念そうな表情を浮かべた。

雰囲気に圧倒されていたわけではなく、堂々と地下に伸びている階段に不満だったらしい。

ガリンは、それが解ると、諦めたようにため息をついて、


「ルルテ、何度も言っていますが、そんな神秘的で謎めいた場所ではないのです。今日は時間も早く、また、立ち入りの禁止令が出ておりますので人がおりませんが、この図書館は、学院内の者には常に公開されている場所なのです。普段は、それなりに人がいるのですよ?」


当たり前と言えば当たり前のガリンの言葉に、


「しかしな・・・。」


ルルテは、そう言いながら、再度地下書庫への入口を眺める。


「これでは誰でも入れてしまうではないか・・・。」

「誰でもというわけではございません。この階段を下っていくと、書士の詰所があり、通常はそこで許可を得てから入ることとなります。 貴重な資料もありますので、資格を持っている者のみが入ることが出来る、ある意味貴重な場所とも言えます。」


ルルテは、ガリンの話の『資格を持っている者』の部分に、少しだけ気を良くしたのか顔を上げた。

何が琴線に触れるのか、本当に難しい。


「そうだな。とにかく行ってみぬ事には何もわからぬな。」


気が乗ればルルテは行動は早い。ガリンに視線で合図を送ると、幅の広い階段を少しだけ大股で下っていくのだった。


ガリンが言ったように、階段はそのまままっすぐ下に伸びており、階段の一番下の踊り場左手には小さな詰め所があった。貸し切りになっているせいか、今日は詰め所には誰も居ないようであった。


その正面には、大きめの観音開きの扉があった。人の身の長けの倍はある大きな扉であり、数個所に文様を彫り込まれた元力石が埋め込まれている。取っ手にもやはり小さな元力石が埋め込まれており、その元力石にも文様が彫られていた。

荘厳とも言える扉であり、ルルテがいう『神秘さ』も兼ね揃えいるともいえるはずではあるのだが・・・。


ただ、神秘さはさておき、ルルテは図書館への階段の様子には落胆をしていたのだが、この扉を前にしてその落胆も、少しだけ緊張へと転じたようである。

ルルテは、恐る恐る取っ手に手を触れてみたが、反応もなく、押しても引いても動くことはなかった。


「ガリン、扉は、なかなか雰囲気があるではないか。」


心なしか声が振るえていた。


「ルルテ、怖くなったのですか?」

「武者振いだ。」


ルルテはきっぱりと答える。


「そうですか。では入るとしましょうか。」


ガリンが声は苦笑いを浮かべ、ルルテが扉を引いたり、押したり、はたまた変な呪文めいた言葉を発したりと、落ち着きなく動いていたのを眺めていた。

しかし、それも時間が経つと、期待を込めて扉をいじっていたルルテは我慢できなくなったのか、ガリンに文句を投げ掛け始めた。


「しかし、ガリン。この扉、押しても引いてもうんともすんとも言わぬではないか・・・。」


ルルテが頬をふくらませる。


「そうですね.今日は扉を開けてくれる書士がおりませんので、自分で開けなければなりませんね。」


ガリンはそうルルテに答えながら、黒衣の裾から小さな元力石をとりだした。


「この元力石が鍵なのです。これを取っ手の元力石にかざせば、自動的に扉は内側に開いてくれるはずですよ。」


ルルテの瞳に再び光が宿る。


「それは我でも出来るのか?」


興奮気味に尋ねる。ガリンは、手の上の元力石に視線を落とし、


「もちろんですよ。」


ルルテに返答すると、ルルテは返答をきくなりすばやくその元力石をガリンの手から掠め取り、ガリンが口を開くより早く、取っ手にかざしてしまった。

一瞬扉のいくつかの元力石が光を発したと思うと、重い何かを擦るような音を立てて扉は内側に開いたのだった。


----*----*-----


地下書庫、そこには見渡す限りの棚がひしめいていた。間仕切りはなく、ただ棚が並べられている。

特に明るい照明がついているわけではなかったが、暗いというわけでもない。

一般的に、物語の中では幽霊は薄暗いところや、光のない暗いところに出るものだと相場は決まっている。ルルテは地下書庫の明るさを見て、扉が開いたときの期待感がすっかり薄れていくのを感じ、


「ガリン。明るいな。」


と言いながら肩を落とし、全身で不満を訴える。


ガリンは、いったい何が不満なのかわからなかったが、導火線は今も短くなり続けているのは間違いない。急いで事実だけを口にした。


「もちろん、明るいですよ?記録石に記してあるものはいざしらず、ここには紙に文字が綴られた『本』と呼ばれる研究資料も多数所蔵されています。 この本という媒体は光がないと読むことができないのです。」

「もうよい。」


今度は、ルルテは口を尖らせて歩き始めてしまう。後ろを急いでついていったガリンの耳には、


「雰囲気がな・・・」

「古びたカビ臭い図書室とか・・・」

「幽霊だぞ・・・」

「明るいところにってどうなんだ・・・」


ルルテの妄想めいた独り言が飛び込んできていた。

ガリンも仕方がなく、しばらくは後をついて回ったが、目的の見えないルルテの蛇行具合に、


「ルルテ、どちらにいくのです?」


と、声を掛るのだった。

少し、ガリンとルルテの行動を躍動感あるように修正。2025.11.26

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