幽霊騒動 その4
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ガリンは、自室で、意伝石を使い、自らの養父であり文様術の師である宮廷晶角士のレンに事の次第を伝え、指示を仰いでいた。
意伝石は、離れたところにいる者と意思の力を利用して会話するためのイヤリング型の装身具である。
レンは、宮廷晶角士としての顔以外にも、このマレーン文明の学問の中心である、初等教育機関、角士養成機関を擁する学院の長でもあった。
ガリン自身、今回、護士の任に就くまでは、この学院の一角で生活を送っていたのだ。
今回、ルルテが持ちだしてきた話題は、学院の地下書庫の件でもあったため、ガリンがレンに相談を持ちかけたのはある意味正しい判断ともいえた。
「なるほどな。しかし、ルルテ嬢の言ってることもあながち間違ってはおらぬぞ?いないと決まった訳ではないからの・・・。」
レンの声は、いかにも楽しそうである。
「先生、私は何も幽霊がいないといっているわけではありません。ただ、幽体が目に見える水準まで意識体としての密度を高めるのは、そう容易なことではないと考えているのです。ましてや、噂になるほどちょくちょく姿を見られるようになるなど、とても想像ができないのです。」
ガリンは、からかわれているのを感じてか、いつもにまして眉を寄せて、レンに自分の正当性を訴えた。
「なるほど。もちろん、お主の言う通りだが、幽霊の目撃例そのものは数は少ないにしても無いわけではないしの。それにお主も知っておるじゃろう?
いにしえの晶角士の中には、ホムンクルスに幽霊の意識を定着させて、友人のようにも、下僕としても使っていたという例があるではないか?」
2人が既知の事実を持って、レンはガリンに問いただした。
「それは、わかっております。私が言いたいのは、出入りのある学院の地下書庫に、幽霊が徘徊しているという非常識的な事態がありえないといっているのです。」
ガリンの返答がいささか主観的になったのを感じたレンは、より一層面白そうにする。
「話がさっきと違うではないか?ことのつまり、ガリンよ・・・。お主、何が言いたいのじゃ?」
言い終わる頃には、レンの声はもう笑い出さんばかりの明るさとなって、ガリンの頭の中で反響していた。
「先生・・・。私は、そんな意味不明な噂の真相探しなど、私の仕事でも、任務でもないと言いたいのです!」
意伝石は、意思を直接、相手に伝えるため、口頭での発音は必要はない。しかし、ガリンのそう答える声は、頭の中だけではなく、口にもその言葉を出していた。
「結局。面倒なのじゃな?
ふむ。
では、こうしよう。」
ガリンの本音を引き出したレンは、満足そうに、提案を言葉にする。
「どうするのですか?」
嫌な予感しかしないガリンは、ぶっきらぼうにそう尋ねた。
「ふむ・・・。学院の長として私が、お前に命ずる事にしよう。」
しきりに頷きながら、レンがガリンに告げる。
「は?」
ガリンは、狐につままれたような表情で、聞き返す。
「だから、そんな捨て置けない噂が、我が学院にあるのであれば、お主にその調査を依頼することとしよう。
これならお主の仕事であろう?」
レンの顔が、少しだけイタズラっ子のようにくしゃりとする。
「・・・・。」
ガリンは天を仰ぎ見るようにして言葉を失った。
「幽霊が人間に実害を与えた話は、あまり聞いたことがないしの。
お主のルルテ嬢の学術調査への同行も、王に伝えておくでの。
心配せずに、2人でじっくりと調査をしてくれ。」
レンの言わんとした事を理解したガリンが、
「先生!」
と、悲鳴のような声をあげた。しかし、レンは反論の隙を与えなかった。
「では、頼んだぞ。」
そう言うと、ガリンの言葉を待たずして、レンの意思は急速に弱くなり消えていった。
その翌日、勝ち誇った顔のルルテが、朝一番でガリンを叩き起こし、正式に調査隊として、2人が学院の図書館へ送られることになったことを伝えた。
短いので、閑話も一緒にアップします~




