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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第7章 幽霊騒動
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幽霊騒動 その3


ガリンは、ルルテの質問に、


「ありませんね。」


即答した。

ガリンにとっては事実であることからの即答である。しかし、明らかにルルテが求めている回答ではない。ルルテはガリンの返答に、ブツブツと唸りながら思案を巡らせると、ポンと手のひらを叩いて、口を開く。


「ガリンよ。そなたは会ったことがないのかもしれぬ。しかし、だ。万が一ということもあるであろう?万が一だぞ。」

 

ルルテは、『万が一』の部分を強調して再び尋ねる。

さすが、ルルテというべきか、ガリンが確実な根拠もなく、何かを完全に否定しない真面目さ、ある意味頑固さを持っていることも見越しての問いかけである。


「もちろん否定はできませんが・・・・。」


こう来られると、ガリンは弱い。


「父上に聞いたのだが、このマレーン大陸でも、(いにしえ)の文様術による怪物はいるのだ、と言っておったぞ。中には人の意思を持つものもいるとの話だ。幽霊がいてもおかしくはあるまい?どうだ?」

すかさず追撃をする。


幽霊の存在についてはさておき、ルルテの問いかけの中に、自分の得意な分野を見つけて、ガリンが急に饒舌になる。


「ルルテが、言っている魔法生物と幽霊は違います。魔法生物は、我々文様術士が造りだしたものです。現在でもその研究は続けられていますし、王国内にも魔法生物、我々の言葉で言えばキメラの研究をしている術士が居ます。

現在は、人間との合成は禁止されていますが、それが行なわれていた時代もあり、その人と獣のキメラは、人に類似し、意思を持っていたとも言われています。

他にも妖精や小人など、いろいろお聞きになったことがあると思いますが、それらはホムンクルスといって、人工培養した・・・・」


ガリンが指を振りながらのウンチクモードに突入した。


「簡単に言ってくれぬか?」


話に割って入るルルテの声が、怒気をはらむ。

ガリンは情けなさそうに、振っていた指でこめかみを掻くと、かみ砕いて説明をし直す。


「・・・。つまりですね、童話の中に出てくる怪物はすべてなんらかの形で、私たち文様術士が造ったものがほとんどなのです。付け加えれば、石の鳥が空を飛んだり、これは飛行機というそうですが、自動的に人を上に運んだりする階段、これがエスカレータだったと思います。このような太古の怪物ですら、文様術が開発される以前の人間の術士、


-たしか科学者と言ったと思います-


が、当時の科学技術により造りだしたものなのです。

しかし、それだけ長い歴史の中でも幽霊だけは、科学でも、ましてや文様術でも造りだすことが出来ていないのです。」


かみ砕いた説明でも、まあ、長いのだが、今度はルルテは最後まで聞いて、不満そうに、


「だから、いないと言いたいのか?」


と、ガリンの話を引き取った。


その声には、相変わらず怒りが感じられたが、同時に強い疑念も伺える。

ガリンもルルテの疑念を感じ、話を続けた。


「存在しない、と言っている訳ではありません。文献で、幽霊の意思を人型のホムンクルスに定着させて、召使いとして使役を行なったと、読んだことがあります。

精霊と呼ばれる存在も、この幽霊が時を経て変化したものだという説を読んだことがあります。ですので、存在するとは思います。しかし、幽霊の存在を確かめた人間は極めて少ないことからも、どこにでもいるわけではないと言っているのです。」


ある部分では、ルルテの幽霊存在説を肯定するような説明に、ルルテは、イライラしながらも会話を続ける。


「ホムンクルスとはなんだ?」


ガリンの指が再び音頭を取り始める。


「よくぞ訊いてくれましたね。ホムンクルスとは、人間を構成している最小単位である細胞といわれる有機物の核から・・・。」


すかさずルルテが話に割って入る。


「ガリン。そなたは、我にホムンクルスとやらの造り方を講義したいのか?」


いよいよルルテの顔に赤みが増してくる。


「い、いいえ。ルルテ。文様術士が造った人形のことです。内部に人形の制御のための元力石を入れるのですが、通常はそれに術士が命令のための意思を放射します。そのため、人形は簡単な命令しか実行することができません。例えば、


『合言葉を音声で発さず視界に入った対象物を攻撃せよ。』


等です。


先ほどの話は、元力石に術士が発する意思の変わりに、もしいるのであればですが、幽霊の意思を定着させればそれは人間同様に人の言葉を理解し、そして自分の意思で考えて動くことができる、とてもすばらしい人形となるということです。そしてその事例を聞いたことがあると申し上げたのです。

もっともホムンクルスではなくて、粘土や土でつくったゴーレムでも良いとは思います。ゴーレムというのは・・・。」


ガリンが、ルルテが眉をピクリとあげたのを見て、話を急いで切り上げる。


「とにかく、学院の地下書庫は、人の行き来もそれなりにある場所になります。もし幽霊がいたのであれば、とっくに見つかっている可能性が極めて高いのではと・・。わかっていただけましたか?」


ルルテは、ガリンが慌てて結論をだしたので、あげかけた声を飲みこんた。


「わかったぞ。最低でも2つ、わかったことがある。

1つは、すべては可能性の話で、いるかもしれないという私の考えを完全に否定するものではないということ。

もう1つは、そなたが簡単な受け答えをするのに、自分の知識をひけらかし、必要のない専門的な話を長々としゃべる、おしゃべり男であるという事実だ。」


ルルテは腕を組んで、いくぶん尊大な態度でそう告げた。


「・・・。しかし・・・。」


言い訳をしようとしたガリンの話を、ルルテが再び絶ちきった。


「しかしはないぞ。そなたが言ったことだったな。確かそなたは・・・


『疑問を、疑問のまま残して置くことはとてもよくないことですよ。一度疑問に思ったら、しっかりと掘り下げることが必要です。』


と、したり顔で我に言っておったぞ。」


ルルテは、ガリンの眼を覗き込むように乗り出し、


「そうだな?」


と、念を押した。


「はい。しかし、それは勉強の・・・。」


ルルテは、三度目、ガリンの顔の前に手をかざし話を止めた。今度は、ルルテは得意気に腰に手を当てて話を続ける。


「しかしは無いといったぞ。ガリンよ。我は、この幽霊の件を掘り下げることにした。それも、近々、しっかりと、掘り下げることにするぞ。よいな。準備を頼んだぞ。それと、お父様にも外出許可を申請するのを忘れるでないぞ。もちろん、幽霊の話など出す必要はない。そうだな・・・・。

 学院の図書館にしかない、持ちだし禁止の記録石を使って勉強をするためとでもしておこう。」


ルルテは止まらない。


「ルルテ・・・。」


ガリンの消え入るような呟き。


ルルテは大抵の場合、ガリンの言うことを良く聞き、勉強も順調に進む。しかし、このように、一度ガリンの意に反すると心に決めた時は、一切理屈の通じない我がままさを発揮するのだ。


自分を見つめるガリンの視線に気づいたルルテが、


「ガリン、今日の課題は終わったのであろう?もう退出してよいぞ?」


取りつく島がないとは、まさにこの事であろう。


「しかし・・・。」


ガリンは再び、ルルテに声を掛けようとするが・・・


「そうだな。着替えて、母上に挨拶にでもいくとしよう。」


ルルテは、そう言って椅子から立ちあがると、ローブの裾に手をかける仕草をする。

そして、そのまま上目使いでガリンを見ると、


「ガリン、そなたが、着替えを手伝ってくれるのか?近こう寄れ。」


 まぶたを閉じて、口元にはうっすらと微笑みをうかべながら、顔にかかった髪を後ろに払う。


「その気がないのなら、ジレを呼びにいくが良いぞ?」


と、そのままの澄まし顔で続けた。


「・・・。」


ガリンにはなす術もなく、大きくため息をつき部屋を後にした。そして、ジレを呼んだのだった。


誤字脱字の修正。語尾の修正。2025.11.23

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