幽霊騒動 その1
・登場人物
晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ
王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ
宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ
女官A(女 32歳) ジレルンマーナ・ジレ
女官B(女 67歳) セラミナーニャ・セル
幽霊 レイレイ・キャナンキシー
ルルテが、王女として元服するための最初の関門は、初等教育機関卒業試験である。その試験は、年が明けてすぐの第1力期に行われるものであり、もうあまり時間は残っていなかった。
そしてルルテが、最年少晶角師にして王女の護士、そして兼家庭教師であるガリンと勉強を初めてから、既に1つの季節が過ぎようとしていたのだ。
生誕祭が催された第3力期が終わり、時は第4力期も半ばに差し掛かっていた。
度重なる地殻変動により、かって地球と呼ばれ、そして今はマレーンと呼ばれる惑星の大陸構造は大きく変化してしまっていた。
かろうじて惑星としての自転には変化はなく、マレーン王国首都のあるマレーン大陸では、1自転、つまり1日24時間、1年は365日という太陽暦がそのまま用いられていた。
次元を超えて人が居住可能な惑星や異次元空間を自らの領土とすることを可能とする次元接合技術を開発した人類は、時代流れと共にその異空間に文明を広げていった。この人が居住可能な空間を文化圏と呼び、その文化圏が増えるに従って次第に複数の文化圏が集まり、そしていくつかの国家を形成した。
居住可能な惑星に開拓された文化圏を惑星文化圏と呼び、異次元空間に空間造成の魔法技術を用いて居住空間を人為的に造りだした文化圏を次元文化圏と呼んだ。
それぞれの国家はその歴史の中で、自らの領土を増やすために新しい文化圏を巡って何度も戦争を繰り返していった。後、各国家間における安全協定が結ばれ、その複数国家の連合体は、マレーン次元文明として一旦の落ち着きを見せたのだった。
マレーン次元文明の中でも、文明発祥の地である惑星マレーンを支配地とし、更には高い魔法技術を背景にしてもっとも多くの11惑星文化圏を有するのが、ガリンやルルテが生活をしているマレーン王国である。
マレーン次元文明全体では、マレーン王国を含め、7つの国家が存在していた。そのうち4つは、惑星文化圏を主体する国家であり、残りの3つが次元文化圏を主体とする国家であった。
マレーン王国を中心としたマレーン文化圏に属する他の惑星領は、当然その自転も、星系が違うために公転周期も大きく異なる。1日、1年としての時間も異なっている。
しかしながら、統一された文化圏でもあるため、マレーン大陸で用いられている王国暦を様々な形で適用し時間的な統一を保っていた。
具体的には、91日、91日、91日、92日の単位で区切られている月を、その自転周期に合わせて調節をしていたのだ。
これは単に統一されている国家群というだけからの理由ではなく、この91日の周期が、次元接合門を維持している元力石への意思放射周期(次元門としての機能を維持するためのエネルギーの補完)であるため、出来る限る同じ時間的概念を共有することが望ましかったこともあった。双方の次元接合門にある元力石に定期的にエネルギーを補充しなければ、各文化圏同士の門は閉ざされてしまうため、この周期は、マレーン王国に限らずこの文明全体において同周期であるため、ある意味生命線ともいえるからだ。
91日周期で区切られた月は、それぞれを、第1力期、第2力期、第3力期、第4力期と呼んでおり、この91日の周期が先述した次元接合門を維持している元力石のエネルギーの放射周期ということになのだ。
このマレーン次元文明のすべてを支えている魔法技術は、水晶に特殊な文様を彫ることにより、神秘の力を発動する文様術と呼ばれ、その文様術を駆使する術者を晶角士と呼んでいた。
ガリンとルルテが生活をしているのは、マレーン大陸の中央より少し上の首都マレーンであり、王国の中心でもあるこの地域では、第4力期も半ばを過ぎると、かなり気温が下がり、冬はかなり寒く雪が積もる。大陸の中央部は比較的四季がはっきりしているが、それより北にある都市は上に行くしたがって徐々に寒さが厳しくなる。
当然、この季節、ある程度は元力石による遮熱結界にて寒さは和らいでいるとはいえ、机について勉強をしている2人も毛織の肌着をつけるようになっていた。また同じく毛織、あるいは皮などの寒さをしのぎやすいローブを着るようになっている。ルルテも、白い毛織の足首までのローブを身にまとっていた。
厚手のローブはその左半分が淡い緑と金色の糸が格子状に織り込まれており、袖は手首の少し上からが開いており、それが同じ金色の糸で止められていた。
ガリンはルルテ同様に肌着こそ着ていたが、上に羽織っていたローブは季節が変わってもまったく変り栄えのしない黒いローブだ。ガリンも外出の時はルルテが見たてたローブを出来るだけ着るようにしていたのだが、それ以外の時は、特に勉強をするときはやはり黒のローブを好んで着ていたのだった。
食事の時などは、ルルテもなかなか引かず様々な服を薦め続けてはいたものの、定着はせず、この言い争いは今も続いていた。
またガリンは、先のルルテとの約束を忘れて、ルルテのことを『ルルテ殿』と呼ぶこともいまだに多く、これについても時折冷戦が勃発していた。
この屋敷での生活で、他に変化があった事といえば、ガリンが屋敷の者に手渡した、特別製の意伝石を、それぞれが常に身に着けるようになったことと、その実験をお互いに時々していること。そして、これはガリンがもっとも良い変化だとレンに報告をしていることでもあったのだが、ルルテが、女官達や衛士と共にお茶を飲んだり、談笑したりするようになったことであった。
ガリンは、この部分に関しては根気良く、身分は誇示しなければならない時、それを守らなければならない時、そして意識する必要が無い時があるということを、勉強の最初のものとして教えていたからである。レンは、
『お前のように身分をなんとも思わないような王女にだけはするなよ。』
と、良くガリンをからかっていたが、レンの心配などどこ吹く風、ガリンはまったく気にしていなかった。
逆にガリンを驚かせたことは、ルルテはガリンの予想以上に優秀であり、先の立ち振るいまいだけではなく、学業の面においてもかなりの成果をあげている点であった。
また、別段ガリンが注意をしなくとも、ルルテは師が心配するような間違いを犯すような愚鈍な生徒ではないと知っていた。
ルルテはガリンと勉強を始める前に、既に王宮でも勉強はしていたのだろうが、それを差し引いてもルルテは本当に飲みこみがはやく、出来のよい教え子だったからだ。
ただ、一点だけガリンがほとほと手を焼いていた部分もあることにはあった。
それは恐ろしく好奇心が強いことだった。
勉学に対する好奇心であれば、ガリンはいくらでも根気良く教えることができたのだが、残念ながらルルテの好奇心はガリンがもっとも苦手としている分野に集中することが多かったのだ。
王宮のだれそれが、誰かに告白をしたらしい。
男の子は女の子のどんな所に魅力を感じるのか?
どの占いがもっとも当たるのか?
などの話題である。
一度、答えに窮したガリンが、セルに相談を持ちかけたこともあったが、
『年頃の女の子はそんなものですよ。』
と、一言で片付けられてしまったため、ガリンはこの問題を努めて関わらないようにすることで何度も乗り越えてきた。
日頃、ルルテは学院に顔を出さなければならないときはガリンと共にでかけるが、それ以外の場合は、ほとんど女官達と出かける。特に年齢の近いジレと出かけることが多かった。そして出かけるたびに新しい噂話を仕入れて来ては、とうとうとガリンに伝え聞かせ、さらには噂話の共有を強いてくるのだ。
一旦共有すると、今度はその真偽を確かめるために、多大な労力を割くようにガリンにおねだりをした。
他人の恋愛話などガリンにはまったく興味がないものであったのだが、このままではいずれ、城内一の恋愛事情通になってしまうのではないかとすら心配をするほど、ルルテはこの手の話を仕入れるのがうまかった。
そして、今日も、課題を終わらせたルルテが、始まりの一言を告げた。
「そうだ。ガリン、そなたは知っておるのか?」
緯度の高さによる寒さの表現の修正。誤字脱字。むずか意思言葉を簡単な単語に入れ替え。2025.11.22




