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マレーン・サーガ 祝26000PV達成  作者: いのそらん
第6章 それぞれの出発点
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それぞれの出発点 その11 カカノーゼとの約束


 ナタルの吐き捨てるような返答に、カカノーゼは肩をすくめて、苛立ったような声で問いただす。


「まずそれだ。おめぇは、自分は俺に物を乞いにきたと言っているが、その態度はなんだ?

 それが目上の人間にものを乞う態度なのかねぇ?

 それともなにかい?それが軍角士殿の礼儀とでも・・・。あるいは、傭兵風情など、そもそも礼を尽くす必要はないとでも?」


「・・・。」


 ナタルが目を伏せる。

 そして、改めてカカノーゼの目を見ると、


「すまなかった。確かに無礼と思われても仕方がなかった。」


 まず、頭を下げた。さらに、


「カカノーゼ殿、貴殿に剣の教えをぜひ乞いたいのだ。お願いできないだろうか?」


 今度は落ち着いた声で、押さえつけられたまま、ナタルなりに頭を下げる動作をして、礼を尽くした言葉で『お願い』をしたのだった。


「はっは。素直な奴だな。」


 大男は笑い声をあげながら、パチンと指をならした。途端にナタルを押さえつけていた荒くれ者たちの手が緩み、引き起こされる。

 同時に、リアにつめ寄っていた2人も剣を収めた。


「レパッタナーグ、剣を交えたときにも感じたことだが、おまぇは本当に素直な奴だな。俺のことはカイルと呼んでくれればいいぜ。」


「カイル(カカノーゼの幼名)か。俺のこともナタルと呼んでくれ。」


 カカノーゼはニヤリと笑うと、


「では、まず1つ教えてやる。ナタル。素直で正直なことは、人間としてはそりゃ美徳だ。

 しかしな、剣において、素直で正直なことは決して美徳ではない。

 むしろそれは悪癖なんだぜ。わかるか?」


 ナタルに1つ問いかける。自信なさげにナタルの視線が宙を泳ぐ。

 その様子を見たカカノーゼの、


「わからねえようだな。」


 そう言って再び指を鳴らした。

 そしてその瞬間、またナタルは2人に押さえつけられてしまった。


 同時に他の2人がリアに襲いかかるが、むしろ逆に、そのうちの1人はリアに床に押さえつけられてしまった。

 そしてその男の首元には、皆が料理を食べるのに使っていた木製のフォークが突きつけられていた。


 カカノーゼはリアに顔を向けると、肩をすくめて再び指を鳴らした。


 ナタルを押さえつけていた2人はすぐにナタルを開放したが、リアはカカノーゼを睨みつけながらも、その手を緩めることはしなかった。

 カカノーゼは、


「お嬢さん、すまん。害意はないんだ。放してやってくれないか?」


 今度はカカノーゼが素直に頭を下げた。リアは、


「私は、リアよ。ナタルを傷つけるものは容赦しない。」


 厳しい口調で告げ、男を放した。カカノーゼはナタルに視線を戻し、


「わかったか?」


 と、ますますニヤニヤした。

 ナタルが唇を噛む。


「ナタル、1度目は仕方がないにしても、おめぇは2度目も油断してすぐに捕まっちまった。

 それに比べ、あのお嬢さんは、いや・・・リアは、1度目も2度目もそれを退けてみせている。2度目は逆にこっちがやられちまった。

 これはな、あらかじめそういう状況を想定して心の準備ができていないと、とても無理な話なんだよ。

 それに俺の部下たちは、簡単に捕まっちまうようなぼんくらではないんでな。」


 ナタルはリアを一瞥すると、再びカカノーゼに視線を戻す。


「それにな、ナタル。おめぇさんは、この酒場に入ってなんの警戒もせずに俺に声を掛けた。

 それに比べてリアは、酒場全体が見渡せる場所に移動し、周囲を警戒しつづけていた。しかもご丁寧に死角を考えて壁を背にしていた。あれなら前からしか襲われることはないからな。」


 ナタルは、再びリアを見る。

 リアは、カインの言葉にわずかに眉を寄せた。


「いいか、ナタル。お前は俺に剣を習ってもどうしようもないんだよ。その前にいくらでも学ぶことがあるんだ。

 もし戦場でお前がリアと対峙したら、お前はあっというまに命を落としてしまう程に、あのお嬢ちゃんとも差があるんだよ。」


 ナタルの顔が歪む。


「俺が未熟なのはわかっているんだ。だからこそカイン(カカノーゼの幼名)、あんたに会いに来たんだ。

 それに俺だって、剣においては、何度もリアに勝っているんだ。たまたま今は油断したが、普段は俺だって・・。」


 カインはため息をつきながら、ナタルの肩に手を置く。


「いいか。お前がリアに勝ったのは、ルールのある試合だからだ。勝ち方も目に浮かぶぜ。

 打剣を力任せに振りつけて、力押しで勝っているんだろう?」


 ナタルが悔しそうに顔を伏せる。

 カインはリアに目を向けると、リアが小さく頷く。カインは大きな肩を竦め、


「それにな・・・。戦場では、『今回はたまたま・・・・』なんて無いんだよ。それが最初で最後なんだ。」


 その言葉の直後、カインの視線がほんの一瞬だけ遠くを見た。


 カインはナタルの肩から手を離した。戦場を知るカインの冷たい、そして寂しそうな言葉がナタルに刺さる。


「くぅ・・・。」


 ナタルは、声にならない叫びを飲みこんだ。


「おいおい。顔をあげろ。」


 カインの声にナタルが顔をあげる。


「情けない顔だな?もうギブアップか?

 まあ、俺はおめぇのような馬鹿正直で一本気なやつは嫌いじゃない。1つチャンスをやろう。」


「チャンス・・・?」


「そうだ。チャンスだ。ある約束を果たすことができたら、もう一度俺に会いにこい。」


 ナタルの目に光が戻る。


「まぁ、何年かかるか知らねえがな・・・。」


「何をすればいいんだ?」


「いいか、ナタル。ただの木刀だ。それを使ってあのお嬢ちゃんから10試合中、5回確実に勝てるようになるんだ。

 いいか、魔法はなしだぜ?剣の腕で勝つんだ。

 それまでは、俺はお前に個人的に剣技を教えることは絶対にしねぇ。

 ただ、俺らの訓練場に遊びにくるなら、戦いの厳しさは教えてやる。団体戦でいいなら、うちの団員に揉まれてみるのもいいだろう。」


 続けてリアに、


「それでいいかい?お嬢ちゃん。手加減はなしだぜ?こいつを戦争で死なせたくなかったら、わかるよな?」


 リアは、ナタルの真摯な目を見ると、観念したかのように、


「わかったわ。」


 そう言ってナタルに近寄った。

 リアは力ないナタルの背中を『パシンっ』と叩いて身体を起こすと、カインに頭を下げ、酒場を後にしようとした。


 ナタルは扉の前で後ろを向いてカインを睨んで、


「約束だからな。」


 そう言って扉をくぐった。

 その直前、ナタルの拳がわずかに握りしめられていた。


 ナタルとリアが出ていくと、酒場はすぐに元の喧騒を取り戻していった。

 先ほどリアに取り押さえられた1人の男が、


「お頭。いいですかい。あんな約束しちまって。あんな甘ちゃん、使い物になりませんぜ。」


「そうだな。」


「仲間にするなら、あのお嬢ちゃんの方が、何倍もマシですぜ?」


「まぁ、そうだな。しかしな、あの坊やもお嬢ちゃんも仲間になりに来たわけじゃねえ。」


「じゃあ、お頭なんで?」


 団員の男は、心底訳がわからないような顔でキョトンとした。


「さぁ。何でだろうな。俺も少々甘くなったのかもな。」


 カインは頭を掻き、そのまま話はこれで終わりだというように、再び杯を手にとって飲み始めるのだった。

 尋ねていた男も肩をすくめ、一緒に酒をあおり、次第に喧騒に溶け込んでいった。


 時は、第3力期22日の夜半である。


後の話に合わせて、ナタルとリアが、傭兵団の訓練には参加できるという振りを追加。

会話のやりとりで不自然な部分を修正。2025.11.19

誤字脱字の修正。さらに、・・・の数の調整。2026.4.24

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