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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第6章 それぞれの出発点
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それぞれの出発点 その9


ガリンは、ルルテが下を向いたのを見て、少しだけ首を傾げてから、再び話を続けた。


「とはいえ、常にルルテの周囲に、ものものしい警備をするわけにはまいりません。それでは現在の状況を回りに謳って歩くようなものです。


『どうやれば、ルルテを守ることができるのか。』

『どんな方法がそれに適しているのか。』


いろいろ考えました。

私は、ある方法を思いつき、そして、そのために特殊な文様術を施した意伝石を彫りあげました。」


ガリンは、4つの意伝石を机の上に置いた。

どの意伝石も、通常の意伝石同様のイヤリングの形態をしていたが、その大きさは、通常のものよりも一回りほど大きく、石の表面にはかなり複雑な文様が刻まれている。


ルルテが、頬が少しだけ紅くそまった顔をあげ、ぼそりと少し口を開く。


「その意伝石がどうしたのだ?」


ガリンはルルテに頷き、机に置いた意伝石の1つを手に取った。


「この意伝石は、それを身に着けている者の周囲で急に大きな意思の集中を感知すると、淡く光ながら、鈴の音によってその事を教えてくれます。

光は他の者からも見えてしますが、音は、通常の意伝石同様、直接音となって頭の中でのみ聞こえます。」


ルルテが怪訝そうな顔をする。


「文様術などそこいらじゅうにあるではないか?どうしてそれを見分けることができるのだ?」


確かにルルテの疑問はもっともだ。ガリンは、こういう時に


『ルルテはやはり頭がいい子なのだ。』


と、改めて思う。

ガリンは、ルルテに再び頷くと、


「説明よりは、実際に感じていただくのがよいと思います。皆さん、それを1つずつ耳に着けていただけますか?」


そう言って、ガリンは手に持っていた意伝石を机に戻す。

それぞれは、ガリンが机の上に置いた意伝石を手にとると、素直に耳につける。

まだ、ガリンの意図を完全には理解していないのだろう。皆の顔には、とりあえず着けてみるかという表情が浮かんでいた。


ガリンは全員が着け終わるのを確認すると、左手から指輪を1つ外し、それを机中央に置いて、目を瞑る。しばらくすると、机の上の指輪の元力石が淡く輝き、それと同時に、それぞれが付けた意伝石が淡く光を放ち、頭の中で


『チリリリリィィィ』


という鈴の音が響いたのだった。


「まあ。」


セルが思わず声をもらす。

ガリンは、


「わかっていただけましたか?

この意伝石は、急に周囲に大きな意思の塊が現れるのを感知するようにできているのです。一般的に使われている文様術は、原則、急激な意思の放射を必要とはしません。万が一、この音が鳴ったら、間違いなく周囲で元力石に、普通ではない大きな意思放射がされています。

周囲で発される意思放射がすべてが危険なものではないでしょうが、少なくともこの音を聞いたら、とっさに周囲に注意を配ることができるはずです。

先の闘技場でいち早く私が防御結界を張ることができたもの、このお陰なのですから。」


実際に鈴の音を聞くと、なんとなく理解ができたのだろう。

全員が、ガリンの話に聞き入っていた。


「それと、この意伝石にはもう1つの効力が彫り込んであります。これも、体験する方が早いでしょう。

ルルテはストレバウスと、セルはジレとその意伝石を使って意思の疎通を行なってみてください。」


それそれは不思議そうな顔をしながら、意伝石に指を添える。

そして、その瞬間、全員の顔にちょっとした驚きがみてとれる。


「わかりましたか?これは意伝石を使った者の、声だけではなくそれを発した相手のイメージを感覚として伝えてくれます。絶対にと言われるとちょっと困りますが、意伝石を使った相手の肌ざわりと言ったらよいでしょうか?

なんとなくだとは思いますが、それらが感じられたはずです。

慣れない間は、少し戸惑うかもしれませんが、私が今お渡しした意伝石を身に着けている者同士では、このような意伝石によるより具体的なイメージを伴った意思疎通が可能となります。」


「ガリン、何の為にこのような仕掛けが必要なのだ?声を聞けば誰かわかるではないか?」


ルルテは不思議そうにそう尋ねる。

ガリンは、微笑みながら、先ほど机の上においた指輪を自分の意伝石に近づける。

ガリンが、呪をつぶやいた瞬間に、


『ガリン、なんの為にこのような仕掛けが必要なのだ?声を聞けば誰かわかるではないか?』


ルルテの声が4人の頭に響く。

ルルテが目を丸くした。


「なぜだ?これは我の声ではないか?」

「そうです。ルルテ。声を真似るのはそんなに難しいことではないのです。

それでは、今度は皆さんが今付けている意伝石と同じ物を私がつけて、再度同じ事してみます。」


ガリンは、自分の意伝石を外すと、先ほど机の上に置いたものと同じ意伝石を取り出し、自らの耳に着ける。そして、再度、指輪を意伝石に近づけて目を意思放射を行った。


『ガリン、なんの為にこのような仕掛けが必要なのだ?声を聞けば誰かわかるではないか?』


再び、皆にルルテの声が頭に響く。しかし、今度はそれと同時に、しゃべり手がルルテではない、そうガリンであるといった感覚が一緒に届く。


ルルテだけでは、なく今度は全員が、驚いたような顔をしてガリンを見る。


「ルルテ、わかりましたか?」


ルルテは言葉を発せず、素直に肯いた。

ガリンは指輪を指に戻すと再び話し始める。


「もちろん、慣れるまでは漠然としていて、誰の感覚かはわかりにくいと思います。しかし、わかってしまえば、どんなにうまく声色を使われても、少なくともここにいる5人程度の中で数であれば、誰かはわかるようになるはずです。

そして、もしこの5人が誰かに心を操られるようなことになってしまった場合も、微妙な感覚の違いでそれを察知することもできるでしょう。

また通常の意伝石よりは長い距離意思を飛ばすことも可能です。」


じっと聞いていたジレが口をはさむ。


「護士殿。でもなぜ私たち女官までこのような物が必要なのですか?」


ガリンは、


「確かに、我々は階位も立場も違います。しかし、王女を守る立場にいる、そういう意味では全員同じ目的でここに集まっているのです。

ですから、先ほど、多少無理をいっても、同じ席についてもらいました。

王女を守るということにおいては、私たちには階位や立場の違いなどはほんの些細な事なのです。

この意伝石があれば、少なくとも私たち5人は、お互いにお互いを信用できるはずです。」


ゆっくりと、そして力強い返答だった。

ガリンは、席を立ち、再び全員の顔を順に見ていく。


「いえ、むしろ、これから何らかの問題に我々が巻き込まれていった場合、まず信じられるのはこの5人であるのだと、考えていただきたいのです。」


ガリンは、そのまま


「皆さん、お願いします。」


と深く頭を下げ、再び腰をおろした。


皆、それぞれが何かを思いつめたような顔をして、言葉無くその場に座っていた。それでも、お茶が完全に冷める頃になると、まずストレバウスが立ちあがり、頭を下げ、衛士の任に戻っていった。

セルとジレも、冷めたお茶を片付けると、何も言わずに、それを食堂に運んでいった。

その場にはガリンとルルテだけが残った。


ルルテは、席をガリンに寄せると、その顔を下から覗きこんだ。


「無礼者・・・。」


しばらく間をおいて、


「何かする時には、前もって我に相談が欲しいものだ。」


そう言ったルルテの瞳は、微かに涙で潤んでいた。

ルルテは、自分の瞳に涙が浮かんでいるのに気づくと、


「お茶がすっかり冷めてしまった。セルが中で、お茶を入れ直してくれておるぞ。飲みにいくぞ。」


そう言って、ガリンの手をとる。


『なぜ、涙を浮かべているのだろう?』


と、場違いなことを考えていたガリンは、ルルテに急に引っ張られたためバランスを崩しかけたが、机に手をついて体を起こすと、そのまま素直にルルテに引っ張られながら部屋の中に戻っていくのだった。


ルルテの感情の動きと、場を少し動的にするために語尾の修正。2025.11.16

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