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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第6章 それぞれの出発点
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それぞれの出発点 その8


ガリン達が生活している左翼外れにある屋敷には、外門から内門までの短い石廊の左側に、小さいながらも庭園が造られていた。

もっとも、庭園とはいっても、その大きさは屋敷よりも一回り小さいこじんまりとしたものではあった。

その小さな庭は、綺麗に刈り込まれた低木で囲まれており、中央には小さな噴水も据えられていた。

噴水の周囲には、季節の色とりどりの花が植えられており、散策するほどの広さこそはないもののルルテご自慢の庭園でもあった。


ルルテは、ガリンとの勉強をこのテラスで行ないたいと何度も訴えていたが、実現しない間に外で勉強を行なうには寒い季節になってしまっていた。


ただ、今日に限っては、比較的暖かい小春日よりであり、少し話をするにはこのテラスが良いと考えていた。また、ルルテにとっても勉強ではないが、テラスで過ごすことは気分転換になるに違いないともガリンは考えていたのだ。


噴水の周囲には、屋敷のテラスとして使うこともできるように小さな石の円卓が数卓と、その円卓を囲むように椅子が並べられていた。

ガリンはいつも感心していたのだが、ジレとセルの手入れにより、テラスはいつでも綺麗に保たれている。


ガリンは、今その中の椅子の1つに腰かけて、皆が集まるのを待っていた。

ガリンが椅子に座って噴水をぼんやりと眺めていると、まずストレバウスが姿を現しガリンの斜め後ろに打剣を杖にして立つ。


ガリンは、後ろを振りかえり口を開きかけたが、同時に視界の端にルルテとジレを捉えたので、開きかけた口をそのまま閉じた。社交辞令でストレバウスに席に座るように声を掛けようと思ったのだが、多分座らないこともわかっていたからだ。


ルルテは、軽く頭を下げているガリンの前に座るとジレに手で何かを指示したのだった。ジレが軽く会釈をして振りかえると、ちょうど屋敷からお茶菓子とお茶の一式をお盆にのせてセルが近づいてきていた。

ジレは、セルがその場に到着すると、2人で手早く、王女とガリンの前にお茶の用意をしてルルテの後ろに下がった。


ガリンは、目の前のお茶を眺め、大きくため息をつき、


「セル、全員分のお茶を用意していただけませんか?」


そうお願いをしたのだった。

ルルテは、何かを言いかけたが、先にガリンにそれを制され、不承不承口を閉じた。付け加えるようにガリンは、


「お茶の用意を済ませたら、私とルルテを囲むように、全員席についてください。」


1人1人の表情を確かめるように告げた。

ストレバウスは、


「護士殿・・・。」


と声を発し、ジレとセルは、ただ顔を見合わせた。

ルルテが、


「ガリン、そなた何を言っておるのだ?」


そう問い正したが、ガリンは、もう一度、


「これは、おのおのへの命令と取っていただいて構いません。」


淡々と告げた。


「ガリン、私を無視するのか?良いか、この痴れ者が理由を説明するまで、皆そこを動くこと許さぬ。」


ルルテは、声を荒げる。

しかしガリンは、


「私は護士です。私の発する命令が、王女の護衛のために最優先すべき事項の場合は、あらゆる場合において私の発言が優先されます。そして、ルルテ、これは陛下がお決めになった王国の法であり、私の任務です。すぐに理由は説明いたしますが、まずは、皆さん席についてください。」


今度は、ゆっくりと立ちあがり、淡々とした声でそれを伝えた。

そして、座りながら、ルルテに微笑みかけた。

ルルテは、器用に頬膨らませながら、頬を赤く染めて、口を閉じるのだった。


ジレ、セル、ストレバウスは、いまだそれぞれ顔を見合わせていたが、セルが全員のお茶の用意を済ませると、よくわからないながらもそれぞれ椅子に腰をおろした。


全員が腰を落ち着けた様子を見届けると、ガリンは、


「ありがとうございます。」


それぞれに謝意を伝え、ルルテに再び視線を戻し、ルルテへの説明を兼ねてと視線で合図をしながら話を始めた。


「ここに集まっていただいたのは、私が、本日、陛下、王妃殿下と、これからの王女の事についてお話をした内容を伝えることが、まず1つの目的です。そしてもう1つ、私から皆さんにとても大切な事をお願いするためなのです。」


最初は狐につままれたような顔をしていた面々も、徐々に顔に真剣さが宿っていく。

ガリンは話を続ける。


「まず、陛下とお話をしたのは、今後は、まず王女が初等教育の業を修めること、そして軍角士としての業も収めていくこと。しばらくの間は、この2つを王女の生活の中で最優先していくというものでした。」


ルルテの顔を伺いながら話を進める。


「これは学業を治めて軍角士としての資格を早く手に入れるという目的もありますが、もう1つ王女の元服の儀を出来る限り早く行なうためのものでもあります。」


それぞれは、王女とガリンを交互に見ながら、話を聞いている。


ガリンは、ルルテが元服の儀という言葉を聞いた時に少し体を硬くしたに気づいたが、話を続けた。


「学業のことは、そもそも私が教育係としてここにいるのですから、当然と言えば当然とも言えます。」


一呼吸置き、話を続ける。


「しかし、もう1つ、私のお願いという方は、皆さんにとっては少し変わったお願いなのかもしれません。ただ、とても重要なお願いです。

よくよく心に止め置いて欲しいことなのです。

それにはまず、ある事実を伝えねばならないでしょう。」


ストレバウスは、しきりに相槌を打っている。

ガリンの眉間にしわがより、声の調子が硬くなる。


「私は、本日行なわれた、諸侯の朝議にも参加いたしました。話題は、先日の闘技大会での一連の問題が主たるものでした。

詳細を言うわけにはいきませんが、武力による開戦という事態にはまだ至っていないものの、既にある意味においては各文化圏は、再び戦争に突入したといっても過言ではない状況にある、との見解に至りました。」


皆の顔が一同に曇る。


「そして、そのことは既に王国内、どこも絶対に安全とは言えない状況にあるということを意味しています。

もちろん、これは心配のしすぎなのかも知れませんが、私は教育係りであると同時に、王女の護士でもあります。私には王女を守る義務があるのです。」


ゆっくりとルルテに顔を向けると、


「任務や義務だけではありません。私は心底、ルルテを守りたいと思っております。」


真剣な顔で、皆に、なによりルルテに言った。

ルルテは、目を見開いてガリンの目を見たが、何も言わずすぐに下を向いてしまったのだった。

誤字脱字、文脈上、不適切な文末表現を修正。2025.11.15

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