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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第6章 それぞれの出発点
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それぞれの出発点 その5


王は、一通りの話を聞き終えると、ガリンの方に顔を向けて、


「大儀であった。もしそちがいなかったと思うと、心から恐ろしい。直接に話を聞くと、よりその恐ろしい経験が伝わるというものだ。よくぞ、混乱を極める中、我が娘を守ってくれた。

レンよ。お主が推挙した男は、お主が言う通りに、いやそれ以上に素晴らしい男だということが証明されたわけだな。レン、そして護士よ。礼を言う。」


そういって、王は深く頭を下げた。平素は部下に頭など下げないのが王だが、ここには家族と、その親しい者しかいない。一国の王とて父親なのだ。

レンは、


「陛下、頭を下げることはありませんぞ。わしもこやつも、国のために、そして王の為であればこその働きと考えてくだされ。」


慌てて、そう返答をし、自らも頭を下げた。しかしその顔にははっきりと笑みが浮かんでいた。

ガリンも、


「恐縮至極にございます。」


と師に続き頭を下げた。

王は、


「よい。家族だと、何度も言っておるではないか。ははは。」


そう笑って、椅子の背にもたれかかった。


「それから、護士よ。娘の事を、ルルテと呼ぶことにしたようだな。娘はそちをなんと?」


そう、尋ねた。

ガリンは、自分の報告の中で、敬称をつけ忘れたところがあったのだろうかと話を振り返りながら、


「申し訳ございません。王女殿のたっての願いであったゆえ・・・。」


ガリンは、いそいで再び頭を下げた。


「いや、責めておるのではないのだ。なんと呼んでおるのだ?」


王の顔には笑みが浮かんでいる。

ガリンもその様子に幾分安堵した。


「はい。ガリン、と呼び捨てにしていらっしゃいます。」

「そうか。それでは世も、そちをガリンと呼ぶがよろしいか?」

「はっ。。。いえ、それは・・・。恐れ多いことにて・・。」

「しかしな、護士よ。事実、世の娘は王国の位階においては、世の次といってもほぼ相違あるまい。第一継承権を持っておるのだ。もちろん、実際にはもう少し後の話にはなるのだろうが。それは恐れ多いことではないのか?」

「・・・。」


レンのからかうような視線を感じると、一層不愉快さが増した様子で、ガリンは、お決まりのように眉を寄せた。


「よいのか?」


王が再度問いかける。

ガリンも、覚悟を決めたように、


「それでは、差し支えなければ・・・。」


伏し目がちに何度が王の顔を見て、そして最後には、そう・・・、つぶやいた。

王は返答に満足し、話を続ける。


「ではガリンよ。世は、そちをガリンと呼び捨てにする。そちも、2人の時は、レン同様にメルタと呼んでくれればよい。」

「△※!」


ガリンは、レンに助けを求めるかのような視線を向けた。

レンは、先ほどといささかも変わらず、愉しげな笑顔でそれに応える。


「よいか?」


ここでも、ガリンには、折れる以外の道は残されてはいなかった。


「・・・・仰せのままに。」


借りてきた猫のように小さくなっているガリンを見るレンは、その様子をおかしくてたまらないという様子である。ガリンは目を伏せながらも師を睨んだが、そのまま状況を受け入れるしかなかった。

唐突に声が割ってはいる。


「では、ガリン殿、娘は・・・、ルルテは今はどうしているですか?」


エレルメイサ王妃である。

ガリンも、伏せた顔を起こし、王妃の問いに答える。


「はい。ルルテ殿は既に目を覚まし、女官たちが世話をしているはずです。私がすぐにルルテに顔を会わせれば、先日の事件を事を鮮明に思い出すことになりましょう。昨日からは、未だ顔を会わせてはおりません。」

「そうですか・・・。」

「しかし、王妃殿下。屋敷の周囲には幾重にも結界を施してあります。結界に万が一のことがあれば、私にもそれは伝わりましょう。少なくとも今この時、王女の身は安寧であると考えていただいて差し支えありません。」


王妃はガリンのその言葉を聞くと、安心したのか、王の膝に手を置いた。

王が再び口を開く。


「して、ガリン、わかっているとは思うが、王国の平穏な時間はもうあまり残されてはおらぬ。娘には少々酷だとは思うが、1日でも早く元服の儀を済ませてもらわねばならん。

その為にも、どうしても我が娘には、軍角士の資格を早急に得てもらいたいのだ。そしてそれには、そちの力を多いに借りねばなるまい。」

「陛下、王家の元服の儀とは何なのですか?文献を調べたりもしたのですが、まったく検討がつきませんでした。」

「メルタだ。」

「・・・。」


ガリンは、血は争えぬものなのだな。と独り言をもらしたが、

再度、


「メルタ殿、元服の儀とは?」


王は片眉をあげたが、そのままレンをみた。レンは、うなづいて王の話を引き取り、続けた。


「ガリン、王家の元服の儀とは、元服前に、この王国を巡察することなのだ。」

「はい?先生、巡察とは?」

「このマレーン王国には、12の文化圏と35の都市があるのは知っておるだろう?」

「はい・・。」

「その35の都市を数年の時間を費やし、自分の目で見て回ることが元服の儀なのじゃ。」

「しかし、それはどうやって?」

「無論、足でじゃ。」

「馬鹿な!ではどのくらいの陣容で?」

「陣容などないわ。お主とルルテ、そして2、3名の護衛と共に旅をすることになるじゃ。」

「・・・。」

「お主が好むと好まざるに関わらず、これはいずれは行なわねばならぬ儀式であるし、お主はお嬢ちゃんの護士じゃ。それにお主は知らなかったかもしれんがの、王族が元服と共に巡察の旅にでるのは多くの国民が知っておるぞ。1つの通過儀礼なのじゃよ。実際に代々行われているのじゃ。」

「しかし、時勢というものもあるでしょう?戦争が起きるかもしれないこの時期に・・・・。」


ガリンは、言ってから、自分が口を滑らせたのに気づいた。


王、王妃もその瞳に陰を落とす。

レンが再び、口を開く。


「陛下も、エル殿も、承知じゃ。ルルテ嬢は、元服、そして巡察を終えると共に、惑星文化圏であるララス領(3都市)の統治を数年間にわたって行うことになるのじゃ。その為には、どうしても治世のあり方をその身で感じる必要がある。わしと陛下も巡察には参った。これは王家のしきたりなのじゃ。」

「しかし、先生が巡察をされたのは、まだ現王国の基盤をつくっていた時代のこと。都市の数も今と比べればずっと・・・。」

「確かに、都市の数は少なかったが・・・。」


王が会話に割ってはいる。


「ガリンよ。そちの杞憂ももちろんわかる。我が娘を守る護士としては当然の判断ともいえる。

世もレンとは何度も、愛娘の巡察については相談をしたのだ。

もちろんこのような時世だ。すべての都市を回れとは言わぬ。まずは、このマレーン大陸の10都市、それとその他の所領の中でも主要な都市だけを回ることでよい。」


王はそう言うという、ガリンを見つめて、そして再び頭を下げた。

王に続いて王妃も。

更には、師のままざし。


「仰せのままに。」


どのみちガリンには断る術もなければ、立場でもなかった。

王は、ガリンの承諾の意を受けとると、


「すぐに巡察に赴くわけではないのだ。元服の儀の前には、初等教育機関と角士養成機関の業を納める必要がある。その間に、国家間の問題にも進展があるだろう。悪い方向に進まぬように努力はしているつもりなのだ。」


そう言って立ち上がるとガリンの肩に手を置いた。

再び王はレンに、めくばせをした。


「ガリンよ。実はお主にはもう1つ頼みがあるのじゃ。」


ガリンの顔があからさまに曇る。


「そう、嫌そうな顔をするな。実はな、今日会議に出てもらったのもそうだったのじゃが、今後、護士としてだけではなく、宮廷晶角士としてのわしの手助けをして欲しいのじゃ。」

「・・・。」

「何もお前に政治の世界に顔を突っ込めと言っておるのではない。あくまでも助言でよいのだ。事が事だけにはわしだけでは手にあまることもあるじゃろうて・・・。次元文化圏の文様などは、わしよりお主の方がずっと詳しい。どうじゃ?」


ガリンは、政治には疎い。そして、興味もない。

しかし、どのみちこの件についても、ガリンは拒否をする権利が自分にないことは十分に理解はしている。


「わかりました。しかし、先生、私は政治には興味がありませんし、これからも興味を持とうとは思っておりません。あくまでも、文様術に関する助言のみであれば、お受けいたします。」

「当面はそれで十分じゃ。」


ガリンは、師の『当面』という言葉にひっかかりを感じたが、そのまま


「それでは、ルルテ殿の事も気になりますので、退席をさせていただきたく思うのですが?」


そう言うと、同席者の返事を待たずに席を立った。


『このままここに居れば、いくつの約束事をさせられるかわかったものではない。』


ガリンの心はそう警告を発していた。

ガリンは、出来る限り周囲と目を合わせずそそくさと歩を進めると、執務室入口の扉の前で部屋の中に向きなおった。

そしてその場で深く頭を下げ、執務室を後にしたのだった。


王とレンは、唖然としてしばらく顔を見合わせいたが、レンが、


「あやつは、少々変わっておりまして・・・。」


そういうと、王は大きく笑って、ガリンが出ていった方角を振りかえり、


「今日は、もう2,3協議せねばならぬことがあるぞ、レン。」

「メルタ。この老骨も力を貸しますぞ。」


そういって再び話合いを始めた。

王妃だけが、ガリンが去っていた扉をずっと眺めていた。


最近の話に合わせて、巡察の旅が、多くの者に知られている前提に変更。

会話の整合性にをそれに合わせて変更。巡察がまったく知られていないと、都度説明をしなければならないと思いいたり、「実は、王女は元服によるしきたりで巡察中です」で、「ああ。」と納得してもらったほうが良いと判断しました。2025.11.12

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