お祭り前夜 その3
ガキッィィィィン
2人の剣が交差し、動きを止める。
「相変わらず、力押しの剣ね。」とリア。
「ふん、その割には押されてるじゃないか?」とナタル。
どちらも一歩も引かない。
次第に、闘技場の周りに同じ軍角士が集まってきている。
2人の鬼気迫る闘いに魅せられている者が半数、どちらが勝つのか面白半分で観戦している者が半数といったところであろうか。
ナタルが、怒気をはらんだ咆哮をあげながら、威力の元力石に意思を放射する。一瞬均衡が崩れたかのように見えたが、リアは、逆に硬化の意思放射をしながら、ナタルの力任せの剣をいなし、と、同時に速度の意思放射へと切替え、横に凪ぎ払う。
ナタルは間一髪で手甲にはめ込まれている防御の元力石に意思を放射し、攻撃を受け止める。
二人とも、一応、肩あて、胸あて、手甲といった、軽防具を装着しているし、おそらく急所を守るための皮あてもしているには違いない。
ただし、基本的にそれらの装備は、攻撃を防御するというよりは、受け流すための軽装備である。今二人が交わしているような打撃をまともに受けて耐えられるものではない。剣、あるいは手甲での防御が間に合わなければ、軽い怪我では済まない。
その意味では、二人の剣技は、打剣の模範的な演舞ともいえた。
マレーン王国における戦闘で使用される武器は、元力石を武器転用した様々な形態のものが存在する。
特に、対人、対魔獣に使用される武器の種類は細かいものまでいれると数えられないほど多用化いるが、その原型、大元の仕組みは3つに分類されていた。これは、軍で支給で支給されている武器も同じで、素材、形状の差こそあれ、同じく3種類。打剣、射杖、投筒となる。
軍角士である、リアとナタルが用いているのが、打剣となる。
打剣には、剣の柄の部分にその剣の効力を決定づける元力石が埋め込まれていた。リア達の打剣は、軍支給の標準装備の打剣で、柄の部分に、「剣の耐久力強化」「剣の打撃力強化」「剣の軽量化支援」の3つの元力石が埋め込まれているものである。
武器に使用されるている元力石は、原則としては意思の放射による効果発動型で、柄の部分にある元力石に対して、戦闘時の必要性に応じて、適宜意思を投入して戦闘を有利に運ぶ機微とするのだ。
例えば、戦闘相手に必殺の一撃を加える手順を元力石に対する意思放射の手順で説明するならば、最初に、『相手の攻撃を受け流す(耐久の意思放射)』、次が、『反撃に転じるための剣撃(耐久と軽量化の交互の放射)』、続けて、『相手の隙をついた必殺の一撃(軽量化から打撃力への意思放射の推移)』、最後が、『インパクトの時の衝撃の緩和(耐久への放射)』
いま、リアとナタルが繰り広げている戦闘は、単に剣を振り回しているわけではなく、このように相手の戦技に合わせて、剣技と意思放射を高速で繰り返していることになる。
その意味において、2人の流れるような、そして途切れない剣戟のぶつけ合いは、模範的な演舞といえたのだ。
リアとナタルが模範的な演技を取る中、剣が重なり、そのまま2人が距離をとった瞬間、観客からの歓声が途切れた。
「ほう・・。」
短く刈り込んだ銀髪に、ゆったりとした藍色のローブに身を包んだ男が、同じく短く刈り込まれた顎髭を撫でながら、つぶやく。
闘技場を囲むようにしていた、観客の列に溝ができる。
「今日はいつになく真剣にやっているな。」
再びつぶやく。
近くにいた、軍角士が、敬礼をしながら、急いで事情を説明する。
「何やら賭けをして、闘っているようであります。公爵。」
公爵と、呼ばれたこの男、キムエラ・ウアラ・キジシ、現在は一線を退いてはいるものの、各文化圏での安全協定が結ばれる以前の、文化圏併合戦争(仮称)時には、猛将と恐れれた歴戦の勇士である。
軍角士で、この男を知らぬものはいないし、全身からみなぎる力強さは一向に衰えてもいなかった。
皆が、静まるもの無理もない話である。
「で、何を賭けているんだ?」
口元に笑みを浮かべながら公爵が聞き返す。
その場で受け答えをしていた軍角士は一瞬ためらいの表情を浮かべたが、すぐに、
「はっ。どうやら、噂の護士となる晶角士殿との模擬戦闘の権利を賭けて闘っているようであります。」
と、仔細を説明をした。
「はっはっ。成るほど。司を差し置いて、晶角士が護士になるのがよほど気に食わないと見えるな。わし自身、その理由は聞かされてはいないからな。聞く話によると、とにかく変わった男らしいことは確かなのだが・・・。」
一層笑みを大きくした公爵が、二人の闘いに目を移しながら会話を打ちきる。
軍角士も身を一歩引きながら、闘いに注意を戻す。
二合、三号と剣を打ち合う、乾いた音が響く。
力のナタルに、技のリア、身応えのある戦いである。
「やっ!」
リアが、ナタルの剣を上にかわし、懐に入る。
ナタルの表情がこわばり、身を引こうとした瞬間、今度は完全に歓声が消え、変わりに地面に足を打ちつける、激しい足音が闘技場にこだました。
リアの視線が、一瞬ではあったが、外に流れる。
ナタルは、自らの窮地に天が与えた、一瞬の勝機を見逃さなかった。
「つりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
渾身の一撃が打ちおろされる。
リアも受け流そうとするが、完全に防御を捨て、同時に威力の元力にありったけの意思放射を注ぎこんだナタルの一撃は、リアの剣をはじきとばし、返しの手で首元につきつけられた。
「くっ・・・。」
リアの表情がゆがむ。
「へっ。今回は俺の勝ちだな!」
息を切らせながらも、ナタルは得意気に言い放つ。
「ふん。王がいらっしゃったのにも気づかない鈍感さに、私は負けたのだ。断じてあなたの剣技にではないわ。」
リアも、幾分ばつが悪そうに視線を泳がせながら言い返す。
「王?」
ナタルも、ようやくさっきの足音に思い当たる。
2人は視線交わすと、ほぼ同時に闘技場から石廊に体を向け、足をそろえて敬礼をする。
皆が敬礼をしている相手は、現マレーン国王、ルラケスメータ・マレーン・コグソその人であった。
王は、皆を見回し手をあげる。
薄手のローブしか着ていないのだが、やはり王たるもの、ただならぬ威厳がピリピリと伝わってくるものだ。
皆は王が手をあげるのをみると、片足をついて頭を下げる。
「エラン。今日はまたかなり力が入った訓練をしているようだな。」
すぐ傍らに膝を落としている公爵に顔を向けて、問いただすように話し掛ける。
公爵は、顔をあげ、
「はっ。二人の闘技は、まさに打剣を使用した闘いのお手本ともいえる完成度の高いものであります。皆、習技の心がけをもって観戦しております。」
先ほどのような笑みはなく、その顔はまさに軍人の顔であった。
「そうか。」
一方の王は、笑みを浮かべながら、相槌をうち、今度は顔を闘技場の回りにいる軍角士に向けた。
「ちょうど良い機会だ。紹介をしよう。」
王は、自分の右方に膝をついている黒いローブを着た男を立たせて、自らの前に出るように手で促す。
その男は、ゆっくりと立ちあがり、一歩前に出た。
良く見ると、黒一色に見えたローブには、所々に複雑な文様が刻み込まれた元力石がいくつも縫いこんであるのが見て取れる。
また、両手の指には複数の元力石をはめ込んだ指輪がいくつかはめられていた。背格好は中肉中背と、さしたる印象の無い風体である。
この男は、間違い無く晶角士として見て取れた。
髪の毛は漆黒であり、まばらに刈ってある。あまり整然としているとはいえない容貌である。
「皆の者も既に聞き知っていると思うが、明日から始まる誕生祭での叙勲式で、最年少の晶角士が誕生する。また、同時に、この者は誕生祭が終わると、宮廷任務として、娘の護士となることも決まっておる。皆も、この若き晶角士、ガリエタローング、明日からはガリエタローング・エンジジ(技爵)の名、しかと記憶にとどめ置くよう。」
ガリエタローングと紹介を受けた、男は、無表情に軽く会釈をすると再び王の右斜め後ろに退き、膝を落とした。
さすがに、知らないもの達の間には、動揺が走る。
公爵は、口元をほころばせながら、立ちあがり、王の耳元で何事かをささやく。
王も徐々に笑みを大きくしながら、公爵に相槌を打った。
公爵は、王との短い会話を終えると、そのまま一歩前にでて、みなに告げる。
同時に王は背を向け、若い晶角士に立つように促すと、何事かを告げる。
晶角士は、紹介を受けたときよりは、幾分か目を細めながら、眉をしかめた。
公爵は、手を前に伸ばし宣言をする。
口元は、ほころばせたまま話を始めた。
再度、読んでいると、この世界での武器に関する設定は、設定資料ではなく、文書の中に入れたほうが、リアとナタルの戦闘がイメージできると感じたので、打剣に関しての説明記述を加えました。
結果、1話が長くなってしまいましたが、よろしくお願いします。