それぞれの出発点 その1
・登場人物
晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ
王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ
軍角士・司(男 27歳) レパッタナーグ・ナタル・オウジシ
軍角士・司(女 29歳) ササレリアシータ・リア・オウジシ
国王(男 45歳) ルラケスメータ・メルタ・マレーン・コグソ
王妃(女 37歳) エレルメイサ・エル・マレーン・ノゥス
公爵(男 78歳) キムエラ・エラン・ウアラ・キジシ
宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ
王国諜報機関長(男 55歳) イタバンサ・ハサル・ララス・シンジシ(伯爵)
女官A(女 32歳) ジレルンマーナ・ジレ
女官B(女 67歳) セラミナーニャ・セル
傭兵(男 64歳) カカゼーノ・ゴッペ
衛士 ストレバウス・オウジシ
酒場の面々
闘技大会での惨劇から5日を数えていた。
王の生誕祭が終わると、この王都周辺では一気に気温が下がってくる。
先史の終焉間近に起こった大規模な地殻変動により、かって地球と呼ばれていたこの惑星マレーンの地理は大きく変わっていた。
海を隔てていくつかに分かれていた大陸は1つの巨大な大陸として姿を変え、すべての大地は陸続きとなっていた。内陸には大陸の10分の1ほどの大きさもある内海も存在していた。
その巨大な大陸をマレーン大陸と呼んでいた。
マレーン大陸の中央よりやや上に位置する王都は、緯度が高く寒い。第3力期中盤をすぎると一気にその気温も低下し、北からの風が、冬の到来を告げる。
大陸には四季が存在する都市もあり、それぞれの気候に合わせた生活が営まれている。
マレーン文化圏の人々は、生力石の生体調節の恩恵を受けているため凍えるような寒さに震えるといったことはないが、それでもやはり寒いものは寒い。人々の衣服が徐々に暖かいものへと変化するのもこの時期であった。
気温が下がったこともあるが、先の闘技大、その後の7大文化圏会議の召集・・・。まるで国全体が大きく震えているようでもあった。
早朝、ガリンは、レン、エランとともに、マレーン城本翼3階にある小会議室で、他の諸侯と共に卓を囲んでいた。
ガリンは護士になってから初めて、レンやエラン以外の諸侯と机を共にしていた。諸侯とは、いわゆるマレーン文化圏を構成する各文化圏を統治している貴族であり、庶民階級にある国民がまず机を共にすることはない面々であった。
ガリン自身にその意識はなかったが、これが現在のガリンの公的な立場と言うことができる。
マレーン文化圏は、王都があるマレーンを含め11の惑星文化圏が集まって王国を成しており、その文化圏にはそれぞれその文化圏を統治している貴族がいる。王国は、自文化圏内の惑星文化圏を領(所領)と呼んでいた。
宰相であるエランも、もちろん領を治める諸侯の1人である。
対外的にマレーン王国の惑星文化圏が12と称されているのは、現在はララス領の一部として管理されている惑星文化圏リルテを、1つの惑星文化圏と数えているからである。
このリルテ領は、王女が元服した後に最初に”統治”という帝王学を学ぶための王女直轄地となるため、現在はララス領に預けられるという形をとっているのだ。
そのためララス領を除いて、他の所領はすべて1惑星文化圏で構成されており、このララスだけが一時的に2惑星文化圏で1つの文化圏となっていた。
ララス領はエランの統治するウアラ領についで大きな所領であり、3つの都市を有していた。王女が元服すると、このララス領の中のうちの1つの惑星文化圏とその惑星にある1つの都市を治めることが予定されている。
マレーン領は大陸の7割以上がすでに調査されて人の手が及んでいたが、王女の惑星においては、その大陸のわずか1割も調査、開拓ともに進んでいなかった。これはマレーン以外の他の所領も同様で、まだまだこれから開拓が進む余地が多く残っていた。もちろん現時点では土地を開いても、そこで都市を興すだけの人口が圧倒的に不足していることも事実ではあった。
地殻変動で人類はその大多数の人口を失ってしまっていたし、更にその後の2度にわたる大戦で、さらに人口を減らしてしまっていたからである。
現在は徐々に文化圏全体の人口は増えてきてはいるものの、この問題はマレーン王国に限らず他の国家でも同じで、ある意味、時間のみが解決してくれる問題であるともいえた。
ガリンは、場違いともいえるこの会議室で、諸侯の面々の視線が自分に集中しているような気がしてならなかったが、努めて気にしないようにしていた。
王が衛士を伴って会議室に現れると、全員が椅子から立ち上がり、王を迎える。そして王が席につき一同を一瞥すると、全員が一斉に腰を落とした。
王は机に肘をのせ、エランの隣に座していた王国諜報機関の長であり、現ララス領の伯爵でもある、イタバンサ・ララス・シンジシに視線を向け、
「ハサル、詳細を。」
そう言って、目を閉じた。
その顔は、これからの議題が決して明るいものではないことを物語っていた。
ハサルとはイタバンサ伯爵の幼名である。ハサルと呼ばれた男は、全身白い細身のローブに身をつつんでいた。顔も体も細いのだが、なにより印象的なのは、細く口の回りを囲んでいる口髭と、これまた細いあご髭であった。ハサルは、あご髭を軽くひっぱりながら報告を始める。
話は、闘技場の検分がほぼ終わり、惨劇の犠牲者たちの身元が確認されたこと。残った遺族たちへ遺品などが既に返却されたことなど、先日の闘技場での話が大半を占めていた。
時々、レンやエランが質問をはさんでいたが、下級貴族の当主が約半数に減ってしまったことと、一般の観戦者の被害も極めて甚大であったことが、改めてはっきりとわかっただけであった。
「ところでハサル。例の次元人はどうなのじゃ?」
レンがその場に立ちこめる重い空気を破って、話題を犯人の1人と目されていた次元人、ミーネルハスの事を尋ねる。
「レン殿。残念ながらあの次元人の行方は皆目検討もつきません。
しかしながら、単独犯ではないことだけははっきりとしております。」
レンは肯きながら話を聞いている。
「まずあの闘技場全体に無数に仕掛けられた爆発の元力石、そしてそれに施された文様術、また石に込められた意思の量。どれをとってみても1人で用意をできるものではありません。当日、貴族席に座っていた者のみならず、多くの観客にも、あの惨劇に加担した者がいたことが容易に推測できます。」
「なるほど。しかし、文様術とはなんじゃ?あの折に爆発を免れた石が残っておるのか?」
「レン殿。実は、新しい晶角士殿の真下にあった石が爆発を免れていたのです。」
「ほぉ。」
レンは、感嘆の声をもらすと、
「ハサル。その石はここにあるのか?」
「あります。今は意思を遮断する箱に入れた状態で持参しております。しかし、ここで箱を開けるのは危険が伴いますゆえ、然るべき準備をした上で、後でお目にいれようかと・・・。」
レンは、ゆっくりと瞬きをして、ガリンに視線を移す。
「ガリン。見てみるのじゃ。犯人につながる何かがあるやもしれん。」
いきなり話を振られたガリンは、幾分呆然とした表情を浮かべたまま、
「しかし・・・。」
そういって師を見返す。
そもそも自分の真下にも、あの爆発の元となった元力石があったとは驚きである。万が一のこともあったのだ。その自分に再度危険を犯せとは納得もできないものである。
しかし、レンの目は有無を言わせない強い意思が宿っていた。
ガリンは諦めると、王国諜報機関の長であるハサルに近づき、その小さな箱を受け取った。
新章開始です~
緯度的に王都に四季があるのはおかしいと気づき、後半で修正したように、大陸型の寒い気候であるように記述を修正。また、エランの役職を、しっかりと再度明記。2025.11.9




