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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第5章 闘技大会
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闘技大会 その4


少し冷静になり、ようやく距離をとったナタルは、戦略を大きく変えてようとしていた。

カカノーゼの武器の端の部分をねらって攻撃を繰り出し、相手の攻撃をさそっては受け流し、さらに鋭い攻撃をいれるといったヒットアンドウェイだ。


カカノーゼは、更に大きく口元をゆがめ、


「はっはー。それが本気というわけだな。力では勝てないとやっとわかったみたいだな。これで俺も本気を出せるわけだ。」


この試合始めて斧を剣のように前に構えた。

今度はナタルも、言葉を返す余裕がある。


「ふん。今までのは遊びだ。あんたが器用なのは良くわかったよ。しかしな、俺はあんたよりずっと器用な相手といつも戦ってるんだ。ここからは俺の反撃だぜ。」


同じく剣を前に構えて答える。

カカノーゼも


「やってみろよ。」


その顔からは笑みが消えた。

ナタルは、巧みにカカノーゼの攻撃を躱しながら、突きと下段への攻撃を繰り出す。カカノーゼも、その大きな体からは想像もできないような機敏さでそれに応える。


ガリンの目にも確かに、ナタルは先程よりかなりましになったように見えた。

しかし、それでも巨漢の戦士がやはり有利に見える。そしてそれは隣にいたリアも同じ感想のようだった。


闘技場で戦っている本人にはわかりにくいし、会場にいる多くの観客も気付いていないのかもしれない。

しかし、リアのようにある程度熟練した戦士であれば、どうしてもあることが目についてしまう。


一見押しているように見えるナタルだが、上から見ているとよくわかる。

カカノーゼはほとんど動いていないのだ。

そして、ナタルの攻撃が10あるのに対して、2、3しか手を出していないのに、カカノーゼの攻撃は的確で、手数が少ないのに、与えてるいるダメージはほぼ互角なのだ。


リアは、先ほど、


『私と思って』


と言ったことが、甘かったことを思い知った。


この巨漢は、明らかに自分よりも強かった。攻撃の中に多くのフェイントを折り混ぜて、ナタルの動きをコントロールしているのだ。ナタル自身にはその自覚はないと思うが、確実に一手先を読まれている。

残念ながら、ナタルとカカノーゼの実力差は歴然だった。しかも、これだけの実力差があればとっくに勝敗がついていてもおかしくない。

遊んでいるのではない、それはカカノーゼの表情をみてもわかる。


『では何故?』


リアが出した答えは、この実戦さながらの戦いの中で考えにくいことではあるが、2人1組の剣舞、あるいは指導剣術をしているのではないか。

しかし、そう考えると合点がいくのも確かだ。点から線、線から面、流れるような剣技、は、そう・・・、ナタルを誘導している。

残念ながら、そんな美しいとさえいえる剣技の応酬もいつかは終わりを迎える。


カカノーゼは、


「大分ましになったが、まだまだだ。大きな口を叩くには30年くらい早かったな。」


豪快な笑みを浮かべると、大きく斧を振りかぶって、試合が始まって以来初めて後ろに下がった。

ナタルも、さすがに今度は挑発には乗らずに、


「ふんっ。」


と鼻を鳴らそ、左右にステップを振りながら、もっとも長い間合いでの攻撃、数段の突きを繰り出した。

カカノーゼは、それを体をよじってよけ、後ろに身を反らした。

ナタルは、巨漢が体をそらした瞬間を見逃さずチャンスだと捉えると、巨漢が体を後ろに反らした瞬間に、巨漢の死角に身を低くしてすべりこみ懇親の一撃を下から払うようにして、足にたたきつけようとした。


多くの観客の目には、ナタルの勝利の瞬間が目に映ったことであろう。

しかし、リアの口からは、


「だめぇ~~~」


という叫び声が飛んだ。もちろん、声は歓声にかき消されてしまい届かない。

その瞬間に、ナタルの目の前には斧の刃の面が迫っていた。

カカノーゼは、わざと隙をつくって、ナタルが足元から攻撃をしかけるように誘導すると、振り上げた斧をそのまま手首を返して、斧の軌道を自分の体で隠しながら、大きく1回転させてナタルの鼻先に叩き込んだのだった。


戦場であったならば、斧の刃で頭を2つにかち割られているところである。

観客はもちろん、そしてナタル本人も、どうして自分が地に伏しているのか理解が出来ない程に一瞬の出来事であった。

そして、ナタルは消え行く意識の中で


「じゃあな、甘ちゃん。今度は俺を満足させるぐらい強くなってくれよ。」


そんなカカノーゼの言葉を聞いたように感じた。そして、勝敗は決した。


観客にとっては一瞬の勝敗であったが、リアにとっては背筋が凍る終焉である。

リアは、闘技場で気を失ったまま運ばれていくナタルをみると、そのまま言葉なく俯いてしまったのだった。


ルルテは何かを言おうとしたが、ガリンにそれを止められたので素直にそれに従った。


その後、1回戦は順調に進んでいき、ほどなく1回戦の試合が終わり、試合は2回戦の最初の試合を迎えていた。


そして2回戦の第1試合は、予選大会から先程の1回戦までを華麗な演舞とも思えるような剣技で勝ち進んできた灰色がかった浅黒い肌に少しだけ尖った耳を持ち、黒い軽装備で身を包んだミーネルハスという次元人と、一番人気の斧の巨漢のカカノーゼの試合である。否応なしに会場に熱気がこもる。


2回戦の開始をつげる宣告がされると、カカノーゼとミーネルハスが闘技場に姿を現す。割れんばかりの歓声が轟く。1番人気と2番人気の試合である。観客の歓声はここまでの試合で最も大きかった。


試合開始の合図とともに両者が闘技場中央で武器を合わせて、試合が開始された。


試合が始まると、ミーネルハスは素早い動きでカカノーゼに迫ると、両の手に持った短剣を踊るようにして繰り出していく。予選より何度も披露してきている剣の舞いである。

並の剣士なら、とっくに短剣の餌食になっている。

跳ぶようにして、手を広げながら、交互に両の手の短剣を繰り出す。受けている相手には、左右の死角から同時に攻撃をされていると錯覚さえ起こしかねない連撃である。

上をついたと思えば下、巨漢のカカノーゼの周りを身を低くして、さまざまな方面から攻撃をしかける。


一方カカノーゼも、次元人の実力は、これまでの試合をみて良く理解していた。


『手を抜いたら自分がやられてしまう。』


だからこそ、ナタルの時のようにその場を動かないといったお遊びはしない。最初から全力で飛ばす構えだ。


淡々と進む2人の卓越した技を欧州を、ガリンの横に座ったままのリアは食い入るように観ていた。

その視線は真剣で、楽しむためではないだろうことはガリンにもうっすらと感じられた。


『おそらくあのナタルという剣士のためなのですね。』


そうだろうと1人で納得をしていた。

リアは、次元人の攻撃にも驚きの表情をみせたが、そのまさに目にも止まらない左右からの連撃を巧みに躱し、隙あらば大きな斧を器用にあてていくカカノーゼに、感嘆にも似た驚きを感じてたのだ。

そして、同時に自分達が勝てる相手ではないことを改めて痛感せざるを得なかった。それ故の、あの真剣な顔なのだろう。


2人の戦いは、それほど、まさに息をつく瞬間もないほどの攻防劇であるのだ。

暫くの間は、巧みに繰り出されるミーネルハスの攻撃を大きな斧で躱しながら、柄と刃を巧みに使って攻撃を繰り出す。そんな一進一退の攻防が永遠に続くかと思われるような素晴らしい戦いであった。


それでも時間ととに均衡は崩れるものである。

徐々に舞うようなミーネルハスのリズミカルな攻撃が途切れてきたのだ。

ミーネルハスも巧みだが、得物の大きさが違うことと、その威力の大きさが差が、時間の経過とともに徐々にダメージとして現れてきているのだ。


ミーネルハスは焦っていた。

同時に、予選大会でのカカノーゼ試合をみて、その実力に判断を下してしまっていた自分に対して歯がゆくも思っていた。

斧の巨漢が、予選では半分の力も出していないことなど、予想すらしていなかった。相手の実力を見誤った自分の甘さに対する悔しさがミーネルハスの動きを更に曇らせる。

更に、ミーネルハスはそもそもどんな相手と対峙しても、1対1の試合形式であれば勝てるつもりでいたのも事実であり、この点でも大きく自尊心を傷つけられていた。心の揺れは剣先の揺れに繋がる。

そして、焦りと動揺はミスを生み、隙をつくる。


カカノーゼは、その隙を見逃すほど相手に油断もしていなかったし、甘い姿勢でこの試合に臨んでもいなかった。

そして、ついにミーネルハスの左手の短剣が宙に舞った。

誤字脱字、臨場感を増すための加筆など。2025.11.4

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