闘技大会 その2
ナタルが控室から外にでると、闘技場では既に大勢の観衆が試合の開始を待っていた。
すり鉢状の底の部分が闘技が行なわれるグランドとなっており、その周囲を取り巻くように観客席が造られていた。そのグランドに入ってまず目につくのが、入ると向かって正面にある王が観戦をするための特別席である。もっとも高い部分に造られ、その周囲には各大使や側近たちの席が続いていた。
一般の席よりも一段高く配置されているのは、専用の階段を使わなければそこに入ることできないようにとの配慮で、護衛をしやすくするためである。
王の観覧席の横には宮廷晶角士であるイクスレンザが控えており、その周囲を衛士が取り囲んでいた。また大使達の周囲にも同じように衛士が配されている。
王族や上位貴族の護衛は、軍角士ではなく、基本衛士が任につく。
これは、衛士が要人警護専門で、軍角士はあくまでも戦争などの集団戦闘をその職とするからだ。
すり鉢状になった観客席の左側最前列から数列は、少し大きめの豪華な椅子が据えられており中級、下級の貴族たちの観覧席となっている。それ以外の部分はすべて一般の観戦客のための観客席となる。
ナタルは気付かなかったが、ガリンとルルテは、その貴族席の反対側に位置する一般の観客席の最も高い位置に席をとっていた。
2人とも先日街に出て中央広場の市を見物したときとまったく同じ服装だったとはいえ、グランドからはかなり距離がある。気付かなくても不思議ではない。2人の服装で強いて違う点をあげれば、ガリンは少し大きめの元力石のついたペンダントを首から掛けていた。
そのペンダントはかすかな淡い光をたたえており、すでにかなりの意思が蓄積されていることを示していた。
太陽の光がなければ、かなり明るく輝いていたはずである。
「ガリン、なぜこんな一番後ろのつまらん席で観戦をせねばならぬのだ?」
ルルテは、ガリンがこの席を選んでからずっと不機嫌が続いている。
「そもそも、お忍びとはいっても試合観戦そのものが目的なのだぞ。これではまともに試合観戦もできぬではないか。せめて貴族の観戦席に座ればよいであろう?今からでも遅くはないぞ?」
こんな風にずっと、愚痴をこぼしている。
すこし頬を膨らませたり、目を潤ませたり、少女が思いつくありとあらゆる武器を使ってガリンの気を変えようとずっとしゃべりつづけていた。
ガリンは、
「ルルテ、貴族席では、私たちの顔を見知っているものが居るやもしれません。それではお忍びの意味がなくなってしまうのです。ここは、我慢をしてください。」
愚痴をこぼされるたびに、同じ台詞でなだめていた。
もちろん、これは詭弁である。
最後列で最も見通しがよく、何より敵が狙ってくるとしたら、もっとも狙いやすい貴族席から一番離れている場所。そして、王と大使達の動きも掴みやすく、背後からの攻撃も比較的気にしなくてもよい席。
つまり、これは
『護衛にもっとも適した席である。』
と、ガリンが判断したからこその席取りであるのだ。
それだけではない。元服前の王族は、基本人の前にでることはない。ルルテが護士を伴って貴族席に座っていれば、さぞや目立つことだろう。今回は王から観戦の許可が出たが、これはあくまでも貴族としてではなく、一般の観戦者として市井の民に紛れるという前提である。
元服前にルルテの容姿を知られることも困るし、また護衛になれないガリン1人を伴っての観戦である。
街をふらふら歩いてるときとはわけが違う。周囲には相当数の観戦者がおり、一気に襲われたらガリンとて遅れをとる可能性もあるのだ。
そのことはルルテも承知していた筈なのだが、実際に座っているとかなり闘技が行われるグランドまでは距離がある。それが我慢できないようである。
その後もルルテは愚痴をこぼし続けていたが、ファンファーレが鳴り試合の開始の時が近づくと、興奮のためかようやく口を閉じたのだった。
ガリンは席につくと周囲をすぐに確認したのだが、比較的に自分たちの席から近いところに、先日試合をおこなった軍角士、その剣士の隣にい女性、リアの姿をみつけており、いつもペアとなっているナタルがいないことに気付き、同時に、ナタルが初戦で登場したことで納得したのだ。
いよいよファンファーレが鳴り終わり、王が立ち上がり手をあげると、試合の開始が宣告された。
前後の文脈や、後半の執筆にあわせて調整。2025.11.3




