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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第5章 闘技大会
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闘技大会 その1

登場人物


晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ

王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ

軍角士・司(男 27歳) レパッタナーグ・ナタル・オウジシ

軍角士・司(女 29歳) ササレリアシータ・リア・オウジシ

宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ

クエルス大使 ジャラザン・イバレス

傭兵(男 64歳) カカゼーノ・ゴッペ

衛士 ストレバウス・オウジシ

次元人(男 ??歳) ミーネルハス


生誕祭のもっとも大きなイベントとして開催されている闘技大会は、最終日決勝戦を迎えていた。

闘技大会では最終日までの予選期間の間に、一般の参加者の中から決勝戦に出場可能な優秀な選手を選出する。

これはマレーン文化圏のみならず他の文化圏、つまりマレーン次元文明全体からの広く優秀な参加者を集めるという目的もあったが、それよりも一般市民からの参加を集うことにより、より娯楽性を高めていく目的もそれなりに強い。

それと同時に、政治的な意味も同程度の割合で含まれてもいた。闘技大会のには各文化圏の大使が臨席をする。その場でマレーン王国そのもの軍事的要素の錬度の高さを招かれている諸文化圏の大使らに示す、つまり闘技大会自体の水準の高さそのものを戦争の抑止力そのものとしていたのだ。


ゆえに、軍角士の闘技大会への参加は王国として奨励するところであり、誰でもというわけではないものの、一定水準以上の技量があれば、予選に参加することなく決勝戦から参加が可能な方式を採用していた。

その意味ではナタルは、それなりの技量をもっており、それは王国も認めるところなのだといえる。今回、軍角士の中からナタルの他に闘技大会に参加しているのは、わずかに4名であった。

リアも推薦を受けていたのだが、リア自身がこの闘技大会に参加したことは今まで一度もなかった。

リア自身がナタルとの勝負には多少こだわりがあるものの、剣技を競うということ自体に強い興味をしめしていなかったためであった。


闘技場は闘技大会以外にも士階級以下の軍角士達の訓練場としても開放されていたし、軍角士だけで競う模擬戦などさまざまな形で利用されていた。

またマレーン文化圏の国技でもある「タムボール」の試合でも使われていたために軍属、一般の国民ともに訪れる機会の多い場所となっていた。


闘技場は城下町のほぼ中央にあり、円形のコロシアム調の建造物である。石造りでかなり荘厳な相貌をしていた。平素は、軍の演習などに使われることもある頑強な造りである。


誕生祭の折りに王都を訪れる観光客もそれなり多く、城下町の周辺にある各都市、各町からは、風力車などの交通機関が使われてり、毎年、この時期はそれらの便もかなり増発される状態であった。


城下町のある王都マレーンを含めて、この惑星マレーンには全部で12の都市があり、この闘技大会には風力車を使って実に十何日の時間を要する、もっとも遠方の都市・エゾラからも観戦に訪れる者さえあった。

また、王国領である他の11の文化圏を入れれば都市の数は悠に40を超える。それら王国領の各惑星文化圏からの観光客も含めれば、かなりの人手となろう。それだけ大きな催しなのである。

マレーン王国が、他の文化圏と比べて強い政治力を誇っているのは、このような全文化圏を巻き込んだ催しを実施し、また各国からの観光客を受け入れることのできる国力があるからでもあるのだ。


そして、今、ナタルは、この誕生祭のメインの催しである闘技場のもっとも下層、グランドの裾にある選手控え室で試合が開始されるのを待っていた。

ナタルのその手には、今日の決勝トーナメントの対戦相手を決める木札、つまり初戦の相手の名が書かれた木札が握られている。相手はもう決まっている。


控え室ではナタル同様に、決勝戦に出場する他の面々も開始、そのときを待っており、嫌でも緊張した空気が漂っていた。


その中で、誰の目にも一度はとまるのが、全体的に線の細い体格に小さな頭、そして細く長い耳に特徴的な瞳をした褐色の肌の男、そう次元人であった。

体のラインににフィットする樹液を固めて作ったと思われる胸当てと、腰から膝上丈の短衣スカートを身につけている。どちらも黒一色である。胸当てはその縁の部分に多少黄色味を帯びた彩色が施されているが基本的には黒といっても問題はない。胸当てそのものや短衣はどちらも装飾はまったくされておらず、腰には短剣状の打剣が2本、左右の皮帯で留められていた。


交流がまったくないと言うわけでもないし国内にまったく次元人がいないわけではなかったが、その数は少なく、惑星空間にある文化圏の1つである王国では、次元人は嫌がおうにも目を引いてしまう。

皆の視線は何度と無くその次元人に向けられていたが、本人にまったく気にした様子はなく、目を瞑ったまま壁を背にして静かに佇んでいるだけだった。


ナタルも一瞬視線を泳がせはしたが、すぐに注意は自分の木札に戻っていた。

ナタルは、何度も木札を持て遊びながら、


「カカノーゼ・・・。どこかで聞いた名前だよな・・・。」


そう独り言をつぶやいた。

再び木札に書かれた対戦相手の名前に視線を落とし、首を傾げた。

その瞬間、頭の上から


「ほぉ。軍角士様、しかも司ともなると、余裕だね。」


野太い声がナタルの背後から突き刺さった。

ナタルは、急に声をかけられたこともあったが、なによりも試合前の高揚感と緊張感を楽しむ貴重な時間を邪魔されたことに気分を害し、そしてそれを隠そうともしせず、


「俺の事か?」


そう言いながら声の方向に頭を向けた。明らかに不機嫌な顔である。

ナタルが顔を向けた先には、自分に覆い被さらんばかりの大男が、ナタルを覗きこんでいた。

しかも、その顔はいかにもナタルを小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいる。


「何か用があるのか?」


ナタルの口調は完全に喧嘩口調に変わる。

大男は、


「お~ぉ。怖いね。それが目上の相手にいう言葉かね。まあ、今回はその無礼はおいておいてやろうかね。それより、あんたがあまりに余裕をこいた独り言をもらしてるもんだからな。1つ良いことを教えといてやろうと思ってな。」


そういうと、男は後ろにあった椅子を片腕でぐいと引き寄せると、その椅子に勢いよく腰を落とした。

ナタルも、控え室に用意されていた、今、大男が座ったものと同じ椅子に座っていたのだが、その男は一般的には十分大柄といえるナタルより、更に頭1つ半大きかった。またそれだけではなく、胸周り、腕周りもなナタルの倍はあろうかという太さである。


そして、日に焼けた顔には、その額に大きな傷跡が残っていた。

生態管理が行き届いているマレーン文化圏では、大戦後、光浴設備の普及体制が整ってからは、めったに大きな傷跡など残ったりはしない。そのことからも傷はそれ以前の大戦期のものであることを示していた。しかも、あれだけの傷が残ったままになるのは大戦も初期の内だけだ。


そしてもっとも特徴的なのは、防具の装備そのものはナタルと変わらない軽装備であるのに対し、大男の武器は、その背に背負われているナタルの身の丈ほどもあろうかという大きな斧の形状をした打剣であった。軽量化の元力石がなければ、とても人間が振り回せる大きさのようには思えなかった。


ナタルは一瞬息を飲んでその大男を凝視したが、すぐに視線を落とした。


「誰だか知らんが、お前に教えてもらうことなどない。」


大男は、ニヤリと口の端をあげると


「誰だか知らん?お前の木札に書いてある名前は何だ?」


そう言いながら背中から斧を引き抜くと、ナタルの前につき立てた。石床に硬いものが打ちつけられる、その音が控え室に響き渡る。


皆の視線が、音の主を探して控え室内をさまよい、その主を見つけると、皆が下を向いた。


ナタルは、木札の名前と目の前の斧を交互に見て、ようやくあることに気付いた。

そういえば、昨日リアが言っていた『確か、カカゼーノとかいう斧の打剣を使う巨漢よ・・・・。』

その話に出てきた巨漢、つまり目の前にいるのが自分の最初の対戦相手であったのだ。


斧の巨漢は、ナタルの顔を覗きこむと、


「お?ようやく自分の対戦相手に思い当たったみいだな。初戦の相手がなかなかに強い軍角士さんだと聞いて期待してたんだがな。まぁ。自分の対戦相手のことも知らねえ、甘ちゃんだとはな!とんだ期待外れだぜ・・・。」


顔には薄い笑みを浮かべながらそう言うと、今度は音もさせずに静かに席を立った。

ナタルも追うように席を立つと、


「たかだか予選で勝ちあがったぐらいでいい気になるなよ。甘ちゃんかどうかは試合で教えてやるよ。」


相手の目を睨みながらそう言い放った。

斧の巨漢、カカノーゼは、一瞬片眉をあげて


「ははん。楽しみにしてるぜ。はっはっはっ。」


大男は、笑いながら控え室を出ていった。

ナタルとカカノーゼのやり取りを周囲の参加者は面白そうに聞き耳を立てていたが、次元人だけは、一瞬まぶたをうっすらと開いただけだった。


ナタルは、再度木札の名前お口の中で反芻すると、それを控え室入口にある木札受けに不機嫌そうに投げ入れ、カカノーゼの後を追い闘技場へ向かったのだった。

漢字を統一したり、表現、語尾を修正。2025.11.2

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