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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第4章 引っ越し
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引っ越し その6


その頃、ナタルとリアは、生誕祭でにぎわう、城下の酒場にいた。

この店も2人の行きつけの店である。


本人達は否定をしているが、実際には、ほぼ毎日こうやって一緒に食事をしているのだ。

周囲の人間に、2人の関係を疑うなというのも無理な話というものなのだが、本人達はその辺には極めて無頓着であった。


既にあらかた食事を食べ終えていたリアは、リンゴ酒に口をつけ、


「ナタル、聞いた?予選大会、かなり盛り上がってるみたいよ?」


そうナタルに話を振った。

ナタルは、最後に口にいれたソーセージをそのまま飲み込むと、


「ああ。今年はレベルが高いらしいな。俺は軍角士だから、いきなり最終日からシードで参戦ができるからな。あまり予選のことは考えたことがないな・・・。すごい奴でもいるのか?」


そう言って、同じくリンゴ酒に口をつけた。


「噂によると、かなりの手練が出場しているらしいわよ。珍しいのは、今年は次元空間からの参戦者がいるらしいわよ?」


「それは珍しいな。しかしな、俺はそんなやつらには負けない。それに今年も闘技大会最終日は、王が観戦なされる。

前回の汚名を晴らすには良い機会だ。まあ、心配しないで見ていてくれよな。

で、一般参加の一番人気は誰なんだ?」


ナダルが、リアの言葉に興味を惹かれたのか、そんなことを尋ねる。


「確か、カカゼーノとかいう斧の打剣を使う巨漢よ?確か前大戦でも傭兵として参加をしていたとか。」


リアもナタルに詳細を説明出来るほど詳しくは内容だったが、1番人気の名前だけは覚えていたようである。


「傭兵か。確かに強敵だな。しかし、それなら年齢はかなりいってるはずだろう?

そう簡単には負けないさ。お前は、安心して俺に賭けてくれよな!ははは。」


ナタルは豪快に笑った。


王国においては、基本的には賭博は禁止されている。

これは、国が管理できない貨幣の流通を制限する目的と、賭け事における課税が難しいといった極めて現実的な問題からの禁止であった。

そのため、闘技大会のように、国が管理する賭け事は全体の金額も把握できるため許されている。

ある意味、監視付きで楽しみに欠ける賭け事のようだが、他に賭け事がないこともあって生誕祭ではもっとも盛り上がる催しの1つとなっているのだ。


「あなた、相変わらず呑気ね。でもいいわ。義理であなたに賭けてあげる。でも私、朝一番の1回戦なんか見にいかないからね?決勝だけ見に行くつもりだからよろしく頼むわよ。」


リアは、そう言うと、リンゴ酒をもう1杯頼んだ。

ナタルも、もう1杯頼むと、


「今日は前祝いだな。」


リアも、ため息をつきながらであったが、グラスを合わせた。

リアの顔には、諦めともとれる笑みが浮かんでいた。


----*----*-----


クエルス大使のジャラザンは、城内に与えられた大使専用の居室から、生誕祭で盛り上がっている城下を眺めていた。

その顔からは、特になんらかの表情は読み取れなかったが、冷たい印象を与える目は暗く輝いていた。

城下の様子に飽きたのか、ジャラザンはゆっくりと室内に視線を泳がした。


カツン・・・


城内の石床を打つ音がしたかと思うと、ジャラザンの前に影が現れたようにみえた。

嫌、影そのものといった何かがそこに居た。


ジャラザンは、一瞬短く息を吸うと、目を細め、


「首尾はどうだ?」


低く、冷たい声でそう尋ねた。

影は、


「問題はございません。王も王女も闘技大会の最終日には、間違いなく観戦をするとのこと。

しかし、ジャラザン卿、よろしいのですか?少々焦り過ぎている気もいたしますが・・。」


そう返した声は鋭く、細い声だったが、抑揚に富んでいた。


「良いのだ。そなたの故郷でも急を要すると判断したからこそ、今ここにそなたがいるのではないか?」


「・・・。」


影からの返事はなかった。


「まあ、よい。すべてはこれからなのだ。

王は闘技大会の優勝者に直に祝福を与える。その時が最大のチャンスなのだ。

お主、よもや負けるようなことはあるまいな。」


詰問口調で尋ねる。


影は、


「私よりの手錬が、こんな平和ボケした文化圏にいるとは思えません。

それに、万が一の時の策も講じてあります故・・・。」


そう静かに答える。

影の自信をうかがわせる物言いに、その場に一瞬の間が生じたが、ジャラザンが再度口を開く。


「平和ボケか・・・。それでも賢王ルラケスメータ、侮れぬのだ。どこまで気づいていることやら・・・。頼んだぞ。」


そう短く言い放った。


「はっ。」


室内に響いた声が消えると、既にそこに影はなかった。

ジャラザンは、


『暗殺者風情が・・・。』


そう独り言ち、鼻を鳴らすと、再び城下の祭り火に目を戻した。


時は、マレーン次元文明暦12年 第3力期8日目の夜半のことであった。

脱字、表現不足の部分を加筆修正しました。2026.10.30

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