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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第4章 引っ越し
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引っ越し その5


ガリンが、自らの居室の改造の算段を済した頃、ちょうどルルテも、館に戻ってきたようだった

。ガリンは、食事の支度をしていた年長の女官セルに、ルルテに話があることを伝えさせ、自らも食堂へと向かうことにした。


ガリンが、食堂の机で良い匂いと食事の支度の音を囲まれルルテを待っていると、ルルテが年若い女官ジレを伴い食堂に入ってきた。


ルルテは、淡いメノウ色の髪に似合った若草色の袖のない少し長めの短衣に、髪の毛を後ろでまとめたとても簡素ないでたちであった。ルルテは室内では、よくこの軽装を好んで着ていた。


髪は、落ち着いた木製の髪留めで束ねられており、より髪の美しさが際立っていた。これはジレの見立てなのかもしれない。


ガリンは、ゆっくりと席を立つと、


「ご気分は良いようですね。ルルテ殿。」


と頭を下げた。


「護士よ。昨日の約束をもう忘れたのか?我はそれでも構わぬが?」


いきなり、声が危険な色を帯びる。

ガリンは、何のことかわからないといった様子で、


「ルルテ殿、昨日の約束とは?」


とオウム返しに尋ねた。

ルルテは、片眉をあげると、


「もう、良い、話があると聞いたのだが?護士よ。」


と、つっけんどんに、ことさら、最後の護士の部分に力をこめ言い放ち、そのまま席についた。

ガリンは、ようやく、昨日の呼び名の約束であることを思い出し、


「ルルテ、申し訳ない。あまり慣れないことでしたので、ついつい失念しました。」


と、今度は殿をつけずに、なだめるように声をかけた。

ルルテは、幾分気分を良くしたようであったが、


「よい、ガリン。確かに慣れるには時間がかかるのかもしれぬからな。

で、話とはなんだ?」


口調は相変わらず冷たいものだった。

ガリンは、これ以上は仕方がないと諦め、話をはじめた。


「実は、ルルテ、既にお父上からお聞きになっているかもしれませんが、

生誕祭の最終日、闘技大会への観戦の許可が下りております。

なにぶん、内容が内容ですのであまりルルテの興味を引くものとは思えないのですが、

一応任として仰せつかっておりますので、もしあなたが

ご興味があるのであれば、私もお供することになるのですが・・・?」


「いくぞ。」


ルルテが即答する。


「しかし、ルルテ殿、闘技大会ですよ?」


ガリンは、再度、念を押すように聞き返す。


「ルルテだ。」


ルルテがすかさず修正を加える。


「闘技大会の件は、私がお父様にお願いをしたのだ。当然行くに決まっておるであろう!」


そう、今度は明るく言い放った。

ガリンは、作戦を間違ったことを悟った。

ガリン自身は、この闘技大会見物も、教育の一環として任として受けたものだと考えていたのだ。

まさか、ルルテ自身が申し出ていたものだとは露とも思っていなかった。

内容が内容だけに、12歳の少女が興味を示さないだとうと勝手に思い込み、この作戦に出たのであったがまったくの見当違いであったのだ。

この時点で、ガリンが、闘技大会に随伴せねばならないことは既に決まってしまった。


ガリンは、一段低い声で


「そうでしたか・・・・。それでは私もルルテの希望に添える様に、準備を致します。」


そう会話を締めくくった。

しかし、なんとなく相手をへこませたと感じたルルテは、追い討ちをかける。


「もちろん、そなたの服装は私が決めるぞ。

それより、ガリン、そなた・・・。部屋着は持っておらぬのか?

なぜ、食事の時までその辛気臭い黒のローブなのだ?」


そういいながら、ジレを手招きするした。


「ジレ、もっと簡素な服をガリンに用意せよ。」

「いえ。これは・・・。晶角士としての私の・・・。」


ルルテは、止まらない。

ガリンの言葉を聞き終わらないうちに、一気に言葉を吐き出す。


「ここでは私の護士なのだぞ。それに今は学院にいるわけでも、王宮にいるわけでも

ないのだぞ。ましてや戦くに出向くわけでもあるまい。

晶角士の服はいらぬのではないか?そもそも食事がまずくなるのだ。

それに、何も派手な服を着ろといっているのではないぞ。

ガリンよ。感謝するがよいぞ。

今日、我はジレと共に、1日かけて、そなたの服を山ほどしつらえてまいったのだ。

それとも・・・その我の好意を無にするのか?」


ガリンは、


『服など見立てて欲しくはないのですが・・・。』


そう、内心思いながらも、セルに救いを求めて目をやったのだが、セルからは、いつも通りの暖かい笑顔が戻ってきただけだった。


ジレは、すぐに1着の緑色のローブを腕に掛けて戻ってきた。


そのローブは、縁は黄色でルルテが着ているローブよりは若干濃い色の緑色をしていた。

両袖は左右共に肩の部分と、数本の紐により止められており、風通しがとてもよい着心地は決して悪くなさそうなローブである。

裾は膝丈よりも若干下にあり、動きやすくも見えた。

ローブには、腰帯がついており、これも縁と同じ黄色であったが、これには綺麗な刺繍がされている一目で高価だとわかるものだった。


ガリンは、反論する要素がないと諦めると、そのローブをジレより受け取り、自室に戻っていった。しぶしぶではあったが、すぐに着替えを済ませると、ガリンは、再び食堂にもどったのだった。


その姿を見た、セルは、


「まあ」


とだけ声を発し、

ジレも、


「あら」


と同じく声を発した。

それらの感嘆の声に気を良くしたルルテは、


「うむ。良いぞ。そなたはもともとはそれほど見苦しいわけではないのだ。

これからも服は我が選ぶゆえ、感謝するが良いぞ。」


と、ことさら明るい声で感想を述べた。


事実、ルルテが選んだその服は、予想以上にガリンに似合っていた。

ガリンは、この服自体は自分の趣味ではなかったが、これも任務の1つの考え深く追求はしないことにするよりほかになかった。


ガリンは、そんなことを考えながら再び席につき、ジレとセルが並べる食事の用意をぼっーと眺めていた。

ルルテも、服装に満足したのかおとなしく夕食の準備を待っていた。


あらかた、2人の前に食事が並ぶと、ルルテは、


「うむ。」


そういって、食事に手をつけた。

ガリンは、いきなり食べ始めたルルテにびっくりしたが、同じく食事に手を伸ばそうとし、食卓にジレとセルの2人の分の食事が並んでいないことに気づいた。

ガリンは、


「ルルテ、女官達の食事がまだ並んでいないようですよ?食べ始めても良ろしいのですか?」


そう、声を掛けた。

ルルテは、急に声を掛けられたこともあり、咳き込みながら、そしてきょとんして


「何を言っておるのだ?女官達と共に食事をするなど考えたことなどないぞ。

ここに、我とガリンの食事が並んでおるであろう?

女官達は、我らが食事を済ませた後食事を取るゆえ問題はあるまい?

それに、共に食事をするとしたら、一体誰が給仕をするのだ?

そもそも、我らと食事をして、ジレ達が喜ぶものか?窮屈であると思うぞ。

そなた、そんなことも分からぬのか?不思議なことを聞くものだな。」


文字通り目を丸くして答えた。

ガリンは、ルルテ、そして、その立ったままその話を聞いていた2人の女官達の顔を交互に見あわせ、それぞれの困惑の表情を見て取ると、


「なるほど。それは変な質問をしてしまいましたね。それではいただくとしましょう。」


不器用にルルテに微笑みかけ、そのまま食事を始めた。

ルルテもその様子をみると、


「よくわからぬが、まあよい。」


そう、愚痴をこぼしながら、食事を再開した。女官たちも、2人が食事を食べ始めたのを確認すると、飲み物をいれたりと、給仕に戻っていったのだった。


ガリンは、食事といっても一人で取るか、父であり、師である宮廷晶角士と取ることが多かった。

研究棟でも仕えのものが食事を準備するkともあったが、原則は自分らで用意をする。

このような環境での食事はあまり馴染みがなかったため、やはり居を共にするものが、一緒に食事をとらない理由については、身分のことがあるとはいってもどうしても違和感があったのだ。


ガリンは、ふと、外で警備をしている衛士であるストレバウスのことが頭をよぎり、『彼はどのように食事をとっているのだろう?』と、疑問が浮かびはしたが、その考えはそのまま形をとどめないものへと変化し、そして消えた。


そのままガリン達は食事を終えると、セルたちが給仕をした食後の紅茶を飲み、そのまま少しだけ闘技大会についての雑談をしたのだが、ほどなくルルテが興味を失い、ジレを伴って部屋を出て行ってしまった。


その様子をガリンは、眺めながら、


『やはり女官たちは食事は取っていないように見えるのだが・・・』


と再び、食事の食べ方についての考えが頭をよぎったが、


『先に食べたのかもしれないしな』


そう、考えに決着をつけ、自らも部屋の改造を再度考えようという欲求に引きずられるように自室にもどっていった。



文章の拙い部分や、ルルテの自身呼称が統一されてなかった部分を修正。2025.10.30

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