旅のはじまり その15 戦いの後に
3日目にして、パーティーとしての山を1つ超えた。
サラは、そう思っていた。
目の前には、襲ってきた襲撃者たちの死体が散乱している。
また、リーダーと思われるウクバルは、ローブで縛り、猿轡をかませた状態で風力車に括り付けてあった。
あまりにも暴れるので、少し荒っぽい手段で眠ってもらったのだ。
戦闘は、戦って終わりではない。
ここから、さらに気が滅入るような処理がある。
『殺さなければ殺される。だから殺す。』
人が戦うための根底にある真理だ。
基本、人は戦うことを忌避するし、好きではない。
もちろん、一部には快楽殺人者のような狂った者もいるが、それは例外だ。
そして、このパーティーは、そう多くはないかもしれないが、戦う機会が何度もあるはずだ。
ガリンから教えられている国際情勢を踏まえれば、他の文化圏との衝突が戦争に発展する可能性だってある。
旅にも慣れていないうちに戦闘を行い、人を殺める。
正直、かなり重い旅の立ち上がりになってしまった。
できれば、まず魔獣などとの戦闘で、戦闘そのものに慣れてほしかった。
まずは動物、次に人型の魔獣と戦う。新兵であれば、軍の兵士でも傭兵でも、この段階を踏むのが一般的なのだ。
サラは、このパーティーにもこの段階を踏んでもらおうと考えていた。
だが、敵はこちらの都合の良いように現れてくれるわけではない。
特に、このパーティーは目立つ。
結果、サラは、
『経験できる時に経験しておいた方が良い。』
と、前向きにとらえるしかなかった。
どこかでは経験をしなければならなかったのだから。
自分の気持ちを落ち着けながら周囲を見渡せば、皆が焦燥していた。
ジレは力なく地面に座り込み、ストレバウスも呆然と死体を見下ろしていた。
レイレイは特に何も感じていないのか、ジレの荷物からクッキーを探し出してほおばっている。
レイレイが覚醒状態を保っていてくれれば、少しは手伝いをしてくれたかもしれないが、そもそもレイレイは、王都を離れてからは特に、意図的に覚醒を避けているきらいがある。少なくとも今は期待できないだろう。
ルルテもダメだ。今も身体を布で拭いている。
まあ、王族である彼女にとっては、とっさに手が出て襲撃者に対処できただけで良しとしたほうがいいだろう。
使いものになりそうなのは、戦闘後すぐに水と布をルルテに手渡し、冷静に声をかけていたガリンぐらいのものだ。
ガリンは、ルルテが落ち着いたのを見計らって、指示を出さずともウクバルを紐で縛り、猿轡をかませ、最後には後頭部を殴打して意識を刈り取っていた。
サラは、ガリンが相手に手をあげるところを初めて見たが、極めて正確で遠慮のない一撃だった。
ガリンは、何かしらの戦闘術を身に付けているのかと思えるような手さばきであった。
サラが以前ガリンに確認したところでは、ガリンは戦闘術も格闘術も身に付けていない。
そもそも戦闘などまったく興味がなく、戦えるのかすら怪しい状態だった。
それが今は冷静にウクバルの意識を刈り取った。
やはり不思議な存在だった。
なんとなく、すべてがちぐはぐなのだ。
ガリンのウクバルの処理が終わると、サラはため息をついて次の行動に移るのだった。
戦闘は、終わった後も大切だ。
それを、このパーティーに教えなければならない。
サラは、疲れたようにガリンに声を掛けた。
「ガリン。あんたは動けるようだね。お願いがあるさね。」
「ああ。私は襲ってきた者達に知り合いはいませんし、ルルテを傷つけようとするのであれば、何ものであっても躊躇はしませんよ。」
淡々と告げるガリンの表情がまったく動かないのに、サラは驚いた。
「それは、あのカカノーゼのときみたいにかい?」
「そうですね。」
「そうかい。」
サラは、その時の光景を思い出して苦笑いを浮かべた。
一歩間違えば、カカノーゼは死んでいたからだ。
ガリンが、ぽつりと次の言葉を口にした。
「サラ。あなたが同じように殺されるような場面であれば、同じように躊躇せず、相手を消し去りますよ。」
相変わらずガリンの顔には表情らしい表情はないが、その言葉はサラに刺さる。
サラとて、殺し合いが好きなわけではない。
『守る』
と、面と向かって言われれば、それは嬉しいのだ。
死体に囲まれながら、まったくそういう場ではないのだが、サラの頬が赤く染まる。
こんな状況でも、心は正直なものだ。
「こんなところで何言ってるんだい。困るさね。」
まあ、ある意味で、こんな状況でもこういった反応ができるほどには、サラは戦闘に慣れているともいえた。
「さ、さて、死体をこのままにはできないさね。お嬢ちゃんたちには、少しシャンとしてもらうさね。」
サラは気持ちを切り替えるように、わざと明るい声を出した。
「どうするのですか。」
「ガリン。この死体から、生力石を抜くことはできるかい?」
「できると思いますよ。埋め込む逆の作業をすればいいだけです。」
「それは助かるよ。本来は、えぐり取るしか方法がないさね。町で提出しなければならないさね。万が一、賞金が掛かっている可能性もあるさね。」
サラは苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。
「ああ、晶角士がいなければそうなりますね。賞金ですか。では、まずそれをやってしまいますね。」
「ガリン。あんたは本当に戦闘は初めてなのかい?」
そうわかっていても、もう一度聞きたくなるほど、ガリンは冷静だった。
「初めてですよ。私は、やるべきことはやります。ただ、それだけです。」
「なるほど・・・。まだ周囲は暗い。襲撃してくるのは何も人だけとは限らないさね。」
「わかっています。後片付けですね。」
ガリンはゆっくりと頷き、最初のひとりへ歩み寄った。




