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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第二部 巡察編 第16章 旅の始まり
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旅のはじまり その11 確信の理由


 出立の準備を終えたガリンたちは、王都を出てから最初の街、再び最初の街であるセルナへ向けて歩みを進めることとなった。

 防具を身に付け、隊列を組み直し、出発の準備を整えたところへ、昨日挨拶を交わしたウクバルと名乗る商人が、向こうから声をかけてきた。


「これは、ガリンさん。もう出発ですか?」

「はい。次の野営地に向かおうと思っています。できれば、明後日にはセルナに着きたいものですから。」


 ガリンはよどみなく答えた。

 実は、サラから事前に助言を受けていたのである。


 サラは昨晩、ウクバルが自分たちを護衛している傭兵団の名を告げなかったことを、ずっと気にしていた。

 彼女の常識に照らせば『あり得ない』ことだった。


 護衛の依頼は、宣伝も含めて報酬に組み込まれているようなものだ。利に敏いはずの商人が、それをしない。サラはどうしても違和感を拭えなかったのだ。これが1つ目の違和感である。


 そのため、昨日のようにこちらから出発の挨拶をしないよう、ガリンに伝えていた。


『こちらから挨拶にいかなければ、あっちから挨拶にくる可能性が強いさね。』


 サラはそう予想していたのである。


 昨晩の挨拶でも、ウクバルは護衛を連れず、1人で野営地から出てきてガリンに応対した。

 これも違和感の一つだった。護衛がいるのに、見知らぬ集団の挨拶に1人で出てくるなど、通常では考えにくい。


 そして、ウクバルはその際、手を上げたサラを一瞥した。

 その目つきは、商人が品物を値踏みする時のそれに近く、しかしそれ以上に、いやらしい含みを帯びていた。サラは表情を変えず受け流したが、内心では強い警戒心が走っていたのであった。


 また、ウクバルが軽く手を上げたとき、その指先が、ほんの一瞬だけサラの視界に入る。

 商人の手にしては、どこか乾き方が違う。帳簿や荷紐で擦れたものではなく、もっと硬いものを長く握っていたような、薄い膜のような厚みが指の腹に残っている。


 もちろん、今朝も昨日に続き、今日も1人で来ておいて、やはり商人にとっては安全を確保するための保険としての自分たちの護衛の傭兵団の名を名乗らない。これが2つ目の違和感である。


 さらに、ガリンが学院の名を出しても、自分たちの商会の名を明かさなかった。こちらが商会の概要を伝えているにもかかわらず、相手は何も返さない。学院と取引できるような大店の跡取りが相手であれば、普通は縁を結ぼうと売り込んでくるはずだ。


 しかし、それもなかった・・・。

 3つ目の違和感である。


 逆に、ガリンたちは、こうした状況も想定して傭兵団の登録と同時に、名前だけではあるが商会の立ち上げもこっそり済ませていた。

 さらに、学院の取引先としての偽の実績も用意してある。王族が絡んでおり、学院の長はレンである。偽りの商会と身分を整えることなど容易だった。


 3つの違和感が重なれば、それは単なる違和感では済まない。

 そして今、4つ目が加わった。


 ウクバルという商人は、こちらも商人とはいえ、敵かもしれない集団のもとへ一人でやってきた。そして、挨拶と称しながら、値踏みするように他のメンバーを観察しているのだ。

 その視線は、特にサラに向けられた時、露骨にいやらしさを帯びていた。まるで『どれほどの戦えるのか』を測るような、冷たく湿った目だった。


『この男は、我々の戦力とその価値を値踏みに来ている。』


 サラの疑念は、確信へと変わった。

 ウクバルはさらに一歩近づき、問いかける。


「ところで、セルナまでは買い付けでしたかな?」

「はい。セルナでは補給を行いますが、エゾラが最終的な目的地となります。」


 ガリンはそつなく返答した。

 これも、聞かれた際にはこう答えろとサラに指示されていた内容である。


「しかし、子供連れで大変ですね。」


 想定外の話題だった。ガリンは一瞬だけサラを見る。

 サラは何でもないように答えた。


「ああ。うちの子さね。商会で丁稚をさせていただいているのさ。だから、今回も小姓代わりに連れてきているさね。」


 さりげなく、レイレイが戦力外であることを伝える。


「そうでしたか。しかし、立派な風力車をお持ちで。見たことのない型ですね。」

「ああ、学院で作られた試作品さね。若旦那が出資をしているさね。」


 これは、あらかじめ考えていた設定である。


「そうですか。素晴らしいですね。さて、私たちも出発の準備をしなければいけませんね。」

「丁寧にご挨拶ありがとうございます。」


 ガリンが丁寧に頭を下げる。


「いえいえ。旅の安寧を。」


 軽く頭を下げ、ウクバルは自分の商隊へ戻っていった。

 ガリンは小さく息を吐く。


「黒ですね。」


 サラの目に力が宿る。


「何が、『黒ですね。』だ。完全に、こっちを獲物として値踏みしていたさね。まだ王都から近い。日中の襲撃はないかもしれないが、今夜は長い夜になりそうさね。」

「はは・・・。」


 ガリンが力なく苦笑する。


「さて、皆を集めて出発さね。歩きながら、これからの対応を話し合うさね。」


 サラはそう号令をかけ、自身も準備へ戻った。


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