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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第二部 巡察編 第16章 旅の始まり
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旅のはじまり その9 ルルテの問い


 ガリンがルルテの待つテントへ戻ると、薄暗い中でルルテが横になりながら目を開けていた。つい先ほどまで眠っていたのか、まぶたはまだ重そうだ。

 ガリンが入口の布をめくって入ると、ルルテは寝転んだまま、妙に威厳を込めた声で言った。


「ガリン、大儀であったな。」


 夜着のまま横になっているのに、声だけは王族そのものだ。

 ガリンは苦笑しながら問い返す。


「ルルテ。ありがとうございます。何かありましたか?」

「特に何もないな。」


 そっけない返事。しかし、どこか含みがある。

 ガリンはその空気を察しつつ、やわらかく尋ねた。


「眠れないのですか?」


 ルルテは、少しだけ視線をそらしながら言った。


「うむ。そなたと、あのサラという傭兵の声が聞こえてな。

 なにやら・・・『美しい』などという、耳を疑うような言葉が聞こえた気がしたのだが。聞き間違いであったのなら良いのだがな。」


 ガリンはぽかんとした顔をした。


『サラがラミア族であることは、まだルルテには話していない。今ここで“ラミアとしての美しさ”を語るのは適切ではないな。』


 ほんの一瞬だけ考え、ガリンは素直に答えた。


「ええ、確かにサラの立ち振る舞いや、傭兵としての均整の取れた動きを褒めました。知識も豊富で、私たちは彼女に助けられてばかりですから。」


 嘘は言っていない。ただ、ラミア族としての姿を省いただけだ。

 ガリンにとって“美しい”は、外見よりも機能美や生き方に対する評価であり、そこに恋愛的な意味はない。


 ルルテはガリンの嘘に敏感だが、ガリン自身が嘘だと思っていない以上、見抜けるはずもない。

 それでも、じっと胡乱げな目でガリンを見つめる。


『ガリンが他人を“美しい”と手放しに褒めることなど、まずない・・・。』


 長年の付き合いからくる直感なのだろう。

 しばらく見つめた後、ルルテは小さく息を吐いた。


「・・・なるほどな。確かに、あの者は、美しいと形容するに値する傭兵ではあるようだ。」


 諦めたような、納得したような声だった。

 だが、そこで終わらない。


「ところでだな・・・。」


 ルルテは咳払いをして、妙に慎重な声を出した。


「そなたは、あの傭兵のような容姿を・・・好ましいと思っているのか?」

「はっ?」


 あまりに突然で、ガリンは素っ頓狂な声を上げた。


「いや、美しいのであろう?」


『追及はやめたのではなかったのか・・・。』


 ガリンは苦笑しながら答えた。


「特に、好ましいという感情はありませんよ。」

「だが、美しいのであろう?」


 ルルテは『美しい』に異様にこだわる。


「美しいは外見の評価であって、好ましいとは別です。」

「わからぬな。美しい女将(にょしょう)であれば、好きになるのではないのか?」


 ガリンは少し考え、逆に問い返した。


「ルルテは、見目麗しい男性が何人かいたとして、全員を好きになりますか?」

「ならぬな・・・。」


「私も同じです。」

「そ、そうか。それなら良いのだ。」


 ルルテの顔にようやく笑みが戻り、ガリンは胸をなでおろした。

 だが、次の言葉がさらに難題だった。


「では、そなたは・・・誰が好きなのだ?」


 ガリンは固まった。


「師や仲間は好きですよ。」

「そういう意味ではない。れ、恋愛の対象としてだ・・・。」


 やはり誤魔化せない。

 ガリンはルルテと婚約している身だが、恋愛感情はまだ明確ではない。

 それでも、ルルテは期待に満ちた目で見つめてくる。


 ガリンは深く息を吸った。


「ルルテ・・・。気分を害されるかもしれませんが、よろしいですか?」


 ルルテはびくりと震え、目を伏せた。


「よ、良いのだ。そなたの気持ちが知りたいのだ。」

「わかりました。将来、好きになるかもしれない女性なら、一人・・・います。

 今は状況もあり、歳の差もあり、あくまで可能性の話ですが。」


ルルテは息をのむ。


「申してみよ・・・。」

「ルルテ。あなたですよ。他に可能性のある女性はいません。これでよろしいですか?」


 ガリンは真剣に言った。

 既に、ルルテの目には、うっすら涙が浮かんでいる。

 ルルテは、呆けたように固まり、次の瞬間、とうとう涙をこぼしながら笑った。


「何を言っているの。あなたは・・・今、私以外の女性には興味がないと言ったのよね?」

「ある意味では、そうかもしれません。」


 ルルテは、王族の口調を忘れ、完全に素の少女の顔になっていた。


「私はね、ガリン。これでも、あなたのことを誰よりも知っているつもりなのよ。」

「はい。」


「だから、今の答えが・・・あなたにとって最上の愛のささやきだってことも、ちゃんとわかってるの。」

「愛の・・・ささやき・・・?」


 ガリンは絶句した。

 嘘は言っていないが、そんなつもりはまったくなかった。


「違うのかしら?」


 ルルテの声が、急に危険な色を帯びる。


「い、いえ・・・。」

「ならいいのよ。」


「はい・・・。」

「寝ましょう。」


 ルルテは寝袋に潜り込み、顔を隠した。

 ガリンもため息をつきながら横になる。


 寝袋の中で、ルルテは顔を真っ赤にしながら、ひとり身悶えていた。


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