旅のはじまり その8 ガリンとサラ
話が終わると、サラの指示で、今日の夜の番の順番は、ジレ、 ガリン、 サラ、 ストレバウスとなった。
ジレは危なげなく2時間をこなした。
女官として夜にルルテを見守っていた経験があるため、夜は強いらしい。
次にガリンが番につく。
ガリンは夜更かしに慣れているため、特に問題はなかった。
ただ、ガリンには別の問題があった。
実は、ルルテと同じテントで寝るのが、非常に難しかったのだ。狭いテントではないが、ルルテがガリンを意識しすぎて緊張し、結果としてガリンが寝づらいのだ。そのくせ、ルルテ本人は昨日も今日も、あっけなく寝てしまう。結果、ガリンだけが取り残される形になるのだ。
ガリンは、ルルテと寝るのが恥ずかしかったわけではないが、あれだけ凝視されると、正直寝にくかったのだ。そして、寝ている間にガリンが離れると、それはそれで不機嫌になるのだ。サラに訴えたが、取り合ってはもらえなかった。
『慣れろ』
の一言だった。
結局、ガリンは少しだけ眠った後、ジレと交代して夜番についた。
ジレは多少退屈しているようであったが、ガリンにとってこの時間は、本当に大した時間ではなかった。
火の明かりで木片に文様を刻んでいると、あっという間に時間が過ぎてしまうからだ。
そして、そんなガリンが元力石を前に集中していると、ガリンの背後から、次の担当のサラが声をかけたのだ。
「こんな真夜中まで研究さね? 何が楽しいのやら……。」
「ああ、サラさん。いつもこんなものですよ。」
サラがむっとした顔で言う。
「サラでいいって言ったさね。」
「ああ、そうでしたね。どうも、旅に出る前からですが、サラの知識には驚かされてばかりで・・・。自然と、師と話しているような気分になるんですよ。」
ガリンが頭を掻く。
焚き火の灯りのせいでガリンには見えなかったが、サラの頬がわずかに紅く染まった。
「そういえば、寝てる連中には、うちの正体は言ってないんだね。」
「もちろんですよ。私は、人の大切な秘密を勝手に話したりはしません。」
「ああ、助かるさね。ちょっと心苦しいところもあるけどね。」
ガリンは曖昧に頷いた。
そもそもガリンは他人の秘密や噂話に興味がない。
だからこそ、当然のように口を閉ざしている。
サラは少しだけ視線を逸らし、ためらいがちに尋ねた。
「と、ところで・・・。うちが変化した姿、今も覚えているのかい?」
「ええ、覚えていますよ。ラミア族に会ったことはありませんでしたが、非常に美しいと感じましたので印象がとても強く残っています。」
サラの身体がびくりと震える。
「あ、あぁ・・・。は、初めて見たさね・・・。あの姿がそんなに強く印象に残ったのかい・・・?」
ガリンは続ける。
「あんなに美しい女性に会ったのは初めてでした。」
・・・とどめの一撃だった。
「ば、馬鹿・・・お嬢ちゃんに聞かれたらどうするさね・・・。」
「ルルテに?いえ、聞かれても問題ありませんよ。実際にそう思っているのですから。聞かれたら、ルルテにも同じようにあなたの評価をします。」
「・・・。」
ここまで言われると、さすがのサラも違和感を覚える。
だが、褒め言葉の破壊力が強すぎて、思考が追いつかない。
サラは珍しく、恥ずかしそうに顔を背けた。
「人前では言わないで欲しいさね・・・。」
そう言って、手でガリンに、
『あっちへ行け』
と追い払うようにジェスチャーし、焚き火の前に座り込むのだった。
ガリンは、サラが何に狼狽しているのか理解できなかったが、とりあえずルルテの待つテントへ向かった。
焚き火の火は静かに揺れ、夜は深まっていく。
サラは火の前で腕を組み、まだ熱の残る頬を冷ましながら、夜の気配に耳を澄ませた。
旅の2日目の夜は、こうして静かに過ぎていった。




