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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第二部 巡察編 第16章 旅の始まり
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旅のはじまり その7 見張り番の指導

 歩きながら、サラは低い声で告げた。


「いいかいガリン。今から見せるのは『旅の挨拶』さね。

 お前さんの立場も、商会の格も、自然に伝わるようにする。よく見ておくといい。」


 ガリンは何を考えているかわからない、感情が抜け落ちたような表情で静かに頷いた。


 やがて、焚き火のそばで荷を整えていた若い商人の前に立つ。白髪を染めず、地毛のままにしている男である。

 マレーン文化圏では、基本的に地毛は白い。だからこそ、多くの人が髪を染めている。むしろガリンが地毛で黒いのは相当に珍しい。

 その商人の素朴な外見は、少しだけ異質に映るのだった。


 サラは柔らかな笑みを浮かべ、丁寧に声をかける。


「こんばんは。王都第2城郭市街の商会の者で、若旦那を連れて旅をしているさね。

 こちらは、うちらが護衛してる若旦那さね。学院向けの商材を扱う商会で、少しばかり名の知れたところさね。」


 ガリンは胸に手を当て、礼を取った。


「ガリンと申します。学院向けの教材や器具を扱う商会にて、若輩ながら務めております。どうぞよろしくお願いいたします。」


 サラが教えた通りの仕草と、言葉だ。

 学院向けの商材を扱う商会であれば、そこそこ礼儀も正しいだろうし、貴族との取引もあるはずだ。

 基本、品の良い一行なのだ。無理に繕うよりも、そこそこの身分を外に出した方が怪しまれないというものだ。


 商人は驚いたように目を瞬かせ、すぐに礼を返した。


「これは丁寧に。私はウクバルといいます。外郭市街の食料品商会の者でして。セルナから小麦製品を運んでいるところです。」


 若い商人は、精一杯丁寧に話しているといったところだった。

 サラは、あくまで自然に話を続ける。


「そうかい。うちは若旦那とその婚約者を護衛している『護国の騎士団』のサラさね。

 まだ新しい傭兵団で、メンバーはあっちにいて防具を付けている奴らさ。

 若旦那に装備を揃えてもらったさね。そこそこの腕もあるさね。覚えておいておくれよ。」


 ウクバルと名乗った商人はガリンを一瞥し、その後、メンバーたちに視線を泳がせた。

 少し驚いたように言った。


「若旦那とその婚約者・・・学院向けの商会ともなれば、大店ですね。防具まで一式とは・・・確かに腕は確かなのでしょうね。」


 サラは軽く肩をすくめ、意味深に言葉を添える。


「南街道は油断ならないさね。昨夜も、1つ手前の野営地で少しばかり厄介なことがあったさね。」


 ウクバルは自然と背筋を伸ばし、警戒の色を浮かべた。


「そうでしたか・・・気をつけねばなりませんね。」

「お互いさね。では、良い夜を。」


 サラは軽く会釈し、ガリンを連れてその場を離れた。

 歩きながら、サラは低い声で言う。


「今のが()()()()さね。身分を示し、商会の格を伝え、印象を残し、傭兵団を売り込み、そして『こちらは危険に対処できる』と匂わせる。

 覚えておくといいさね。」


 ガリンは驚いたような表情で頷いた。

 確かに、サラは優秀なのだ。ガリンは、改めてそのことを認識した。


「はい。とても勉強になりました。」


 野営地へ戻ると、サラはジレへ声をかけた。


「ジレ、夕食を頼む。うちは周囲を見てくる。さっきの商人の護衛団の名を言わなかったのが気になるさね。」


 傭兵団は名を売ってこそ価値がある。

 普通は、単なる挨拶であっても必ず名を名乗らせる。名乗らないというのは、何かを隠している証左でもあった。


 サラは焚き火の明かりから離れ、静かに周囲へ視線を巡らせた。

 夜は、ゆるやかに深まっていった。


 2日目の夜。

 昨日サラが宣言した通り、ルルテとレイレイを除く4人、ガリン、ジレ、ストレバウス、そしてサラで夜の見張り番を担当することになった。


 1日目は、夜番の準備はすべてサラが終えてしまっていた。

 サラが他の商隊に挨拶へ行ったり、ガリンと結界の話をしている間だけジレが見張りをしていたが、その後は朝までサラが一人で夜の番を務めたのだ。


 1日目は、まずは野営の雰囲気をしってもらうための1日としたのだ。

 だからこそ、2日目の夜、サラは改めて3人を焚き火の前に集めて、腕を組んで言った。


「いいかい、あんたら。今日から本格的に『夜の見張りの番』を覚えてもらうさね。

 旅は昼より夜の方が圧倒的に危険度が増すんだ。ここを疎かにすると、あっという間に命を落とすさね。」


 3人は自然と背筋を伸ばした。

 サラは、3人の顔を見渡して、指を一本立てる。


「1つ目さね。まず夜の番で大切なことは、1人あたりの持ち時間は2時間前後とすること。

 人の注意力なんてのは1〜2時間が限界さね。

 仲間に気を遣って交代しないなんてのは、仲間を殺す行為さね。

 優しいようで優しくないのさ。」


 3人が顔を見合わせるのを面白そうに確認して、サラは、2目の指を立てる。


「2つ目さね。火は基本、絶やさない。まあ、当たり前と言えば当り前さね。

 自分では寒さを感じていなくても、この季節は火がないと身体が冷えて体力を奪われてしまうのさ。

 だから、絶対に火は絶やさない。 

 うちらには、ガリンの遮温結界があるとはいえ、外から見れば不自然さね。

 それに、火があるだけで周囲の見通しが良くなって、奇襲を受けにくい。

 それに、ガリンの結界が使えない場合も考えておく必要があるからね。」


 ストレバウスが小さく頷く。


「ただし・・・。」


 サラは一呼吸置いて、話を続ける。


「例外もあるさね。森の中や、どうしても見つかりたくない時は火を炊かない。

 状況判断が大事さね。火は便利だけど、同時に『灯り』でもある。特に夜は目立つんだ。

 敵に場所を教えることにもなるさね。

 動物は火には近づかないが、魔獣は火によってくる性質のものもいるさね。」


 魔物の話になると、ガリンはほとんど知識を持っていない。かなり、真剣な表情で聞いている。


「3つ目。交代時間になっても起きてこない場合は、必ず起こす。

 『寝かせてあげよう』なんて気遣いは不要さね。

 旅では、優しさが命取りになることもある。」


 サラは最後に、焚き火を指差した。


「そして4つ目。これが一番大切さね。夜の番は経験がものをいうんだ。

 最初は怖いし、眠いし、退屈かもしれないね。ただ、慣れてくれば、夜に紛れた周囲の葉の擦れ合う音や、動物の声などで、危険が分かるようになるさね。

 今日は、あんたらにその最初の一歩を踏んでもらうさね。」


 確かに経験は大切である。これはある意味で真理である。

 3人は真剣に頷くのだった。


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