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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第二部 巡察編 第16章 旅の始まり
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旅のはじまり その5 レイレイの力

 翌朝。

この季節特有の、朝晩の気温差からか、地ならしした周囲の草原の草には結露した水滴が光っていた。また、夜の冷気も残っており、地面はまだ冷たかった。

空は淡い青へと変わりつつあった。


 サラは、冷えた身体を暖めるように外套を整えながら、テントから出てくる仲間たちを順に確認する。


「はいはい、起きたらまずは身体の確認さね。寝てる間に痛めたところがないか、寒さで固まってないか、自分で触って確かめるさね。」


 まだ寝そうなルルテが、髪をかき上げながらぼそりと呟く。


「そなたがずっと見張っておったのではないのか?」


 サラは、当然のように肩をすくめた。


「うちの見張りなんて信用しちゃいけないさね。薬で眠らされてたかもしれないし、気付かないうちに何かされてるかもしれない。自分の感覚だけを信じるのは、危ないさね」


 ルルテは目を瞬かせ、思わず感嘆の息を漏らした。


「そこまで徹底するのだな・・・。」

「するさね。旅はね、油断した瞬間に命を落とすさね」


 サラは淡々と言いながら、次の指示を飛ばす。


「装備の確認、荷物の確認。終わったら二人一組でお互いの身体を目視で確認するさね。自分じゃ気付かない異常は、他人の目ならすぐ分かるさね」


 ガリン、ジレ、ストレバウスも、驚きと納得が混じった表情で頷いた。


 それぞれが荷物を広げ、装備の点検を始める。

 ガリンは風力車の確認も始めた。各所を確認し、最後に帆柱を丁寧に触り、固定具の緩みなどを確認しているとき・・・。


「えっ!」


 短い声が漏れた。


 ガリンが帆柱の付け根の溝から、小さな元力石をつまみ上げる。その表情は、困惑していた。

眉間に眉を寄せ、眉毛で八の字を作る。ルルテだけではなく、旅の面子にも既にお馴染みになったあの顔だ。


「何か見つかったさね?」


 サラが近づく。

 ガリンは石を見つめながら答えた。


「ええ。これは私の彫ったものではありません。混入したとも思えません。」

「で、どんな文様が彫ってあるさね」


「少し待ってください。」


 ガリンは石を目の高さに持ち上げ、文様を読み取る。

 その目が細くなる。


「うーん。意伝石の文様に似ています。おそらく、こちらの会話を盗み聴きするためのものです」


 ルルテが眉をひそめる。


「昨日はなかったのだな?」

「間違いありません。」


「ふむ。つまり我らの会話を盗み聴きしようという間者がおるのだな?」


 サラが割って入る。


「ガリン。それはどのくらいの範囲まで会話を飛ばせるさね? それと今も聴かれているのかい?」

「多分、五ケメル以内です。それと今は結界内で話していますので、聞こえていないはずです」


「そりゃ上々だ。昨日の夜の会話も聞こえてないのかい?」

「ええ。風力車は結界の外でしたから。」


 サラは満足げに頷いた。


「ガリン、お手柄だよ。結界も役に立つさね」


 ガリンは照れくさそうに頭を掻く。


「どうしますか? 破壊しますか?」


 ルルテが疑問を口にする。


「元力石は堅いのではないのか? そなたが以前教えてくれたのだろう? 簡単に壊せるのか?」


 ガリンは無言でレイレイを見る。


「ああ、あやつなら握りつぶせるのか・・・。」


 ルルテの声は呆れと諦めが混じり、尻すぼみに消えた。

 急に注目されたレイレイは、ジレの後ろに隠れてしまう。

 皆が苦笑した。


「壊して構わないさね。どうせ会話は取れてない。相手は次の手を打つかもしれないけどね・・・。」

「分かりました。」


 ガリンはレイレイに元力石を渡し、握りつぶす仕草をしてみせた。

 レイレイは石をじっと見つめ、短く尋ねる。


「敵?」


 リアとナタルの2人と行った戦闘訓練のときに覚えた言葉だ。おそらく、元力石を指して、自分が知っている語彙の中から、もっとも近い意味と感じた言葉を口にしたのだろう。


 ガリンが頷くと、レイレイはそのまま素手で元力石を握り込んだ。


 次の瞬間。


 バリィィィッ・・・!


 乾いた破砕音が空気を裂いた。


 レイレイの手の中で、元力石はまるで乾いた粘土のように粉々になっていた。しかし、彼女の手には傷ひとつない。皮膚が裂けるどころか、赤くすらなっていない。


 ジレが思わず息を呑む。

 ストレバウスは目を細め、わずかに後ずさった。

 ガリンは、ただ、石の破片が地面に落ちるのを見つめていた。

 ルルテは、言葉を探そうとして、結局何も出てこなかった。


 それぞれが言葉を失った理由は、ただ、レイレイの怪力を見たからではない。元力石は、鍛えた兵士が全力で叩きつけても欠ける程度の硬度を持つ。それを素手で握り潰し、しかも手に傷ひとつ負わないなど、本来あり得ないからだ。


 分かってはいたが、改めて目の前で見ると、言葉が出なかったのだ。

 サラだけは、レイレイの離れ業を見て、手を叩いて楽しそうに言った。


「お嬢ちゃん、分かったさね? どれだけ偽装しても、こんな怪しげな一団、見る者が見れば一目瞭然さね。まあ、今回仕掛けた相手は、元からお嬢ちゃんの立場を知ってただろうが。きっとこれからもあるさね。」


 ルルテが少しだけ面白くなさそうにサラを睨んだ。


「捕まえなくてよいのか?」

「うちが見張ってる間に、すぐそばの風力車に元力石を仕込める相手さね。簡単には捕まらないさね。」


 その答えに、ルルテは唇を結び、静かに退いた。


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