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マレーン・サーガ 祝1.6万PV達成  作者: いのそらん
第15章 王都出発
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王都出発 その37 出発前夜

 いよいよ、ガリンたち一行の出発の時が迫っていた。


 ガリンは、自分たちが王都を出る準備がすべて終わったことをレンに伝え、その指示を待っていた。

 そして間もなく意伝石を通して、出発時は宿で王、レン、エラン、ハサル、そして今回は王妃が皆を見送るという連絡を受け、それをルルテ以外の皆に特製の意伝石で共有した。


 実際に準備したものの大半は、既に第2城郭市街の大きな高級宿の一室に集められている。

 いくらなんでも城門をあけて王女一行が出発することは出来ない。

 それでは、


『今、王女一行が小規模な商隊に扮して出発した』


 ということを宣伝するようなものになってしまう。

 そこで、早朝に一度この宿へ集まり、そこで防具などを身に付け、風力車を組み立てて王都を出るという流れになっていた。

 この宿は貴族が平素から城下で用がある時に使用する王家御用達の宿であり、ここからルルテ達の出発が外に漏れることはない。特にこのような高級宿は身元がはっきりした客しか泊まれず、一見客もお断りである。

 ハサルが配下の諜報員を使って準備した宿であり、おそらく無事に出発するまでの間は、借りている大部屋の周囲の部屋にハサルの手の者が詰めているのだろう。


 組み立てる風力車はガリンの設計した特製のもので、こちらも出発の際には偽装が必要だった。

 この風力車はレイレイが持つ『誘導の元力石』を追いかける構造のため御者が要らない。

 ただし本来の風力車には御者が必要であるため、その役割はサラが務めることになっていた。サラはあくまで座っているだけである。

 そのため、この風力車にも御者席と足をのせるフットレストが用意されていた。旅の途中で疲れればルルテに座ってもらうことも想定していた。

 また荷台には綿を詰めた弾力性の高い敷布を敷いてあり、寝ようと思えば寝ることもできる。人が乗ることも考慮していたため、この時代では高級な板バネ式の懸架装置もしつらえてあり、乗り心地も悪くないはずだ。


 テントや旅の道具類、食料などもすぐ積み込めるよう既に梱包済みである。

 このあたりの手筈は、ハサルの配下の者とサラが打合せをしながら整えていた。

 もしサラが一行に加わらなかったら、相当苦労したに違いない。


 そして出発前日、旅に加わる一行もそれぞれ王都で最後の晩を過ごしていた。

 ルルテは昨日から右翼にある実家に戻っている。

 王や王妃と別れの挨拶をし、出発前の最後の晩餐を家族と囲むためだ。

 ルルテはガリンにも参加を強く求めたが、家族水入らずの食事を邪魔するのは忍びないと、ガリンは丁寧に断った。


 セルはレイレイのこまごまとしたものを一生懸命準備していた。

 セルは旅が1年ほど過ぎてからララス領の邸宅に向かう予定で、当分はこの屋敷で留守番をすることになる。仕事がない時は、一時期だけ王妃の女官として過ごすらしい。


 ストレバウスは家族の元に戻り、ルルテ同様に家族水入らずで過ごしていた。

 またストレバウスも旅が終わった後はルルテに付き従いララス領の邸宅の衛士となることが決まっており、その家族もセル同様どこかのタイミングでララス領に移るのだろう。

 確定ではないが、ストレバウスはララス領に入った後、単なる衛士ではなく、ララス領領主とルルテの近衞隊長となるらしい。栄転であるのだから家族も嬉しいはずだ。2年間会えないのは寂しいだろうが、それは王女も同じであり、折り合いをつけているのだろう。

 サラは準備に翻弄されながらも、ときどきカカノーゼのいる酒場に寄って酒を酌み交わしていた。

 王都を出る前日も、カカノーゼと一杯だけ酒を飲むと、ただ一言、


「行くさね。」


 そう言って拳を合わせ、ほんのひと時視線を合わせ、頷いただけだった。

 2年後、サラ自身がララス領に入るだろうことはカカノーゼに既に伝えてある。

 例の竜族との同盟の件があるからだ。

 まあ、その時カカノーゼがどうするかはカカノーゼ次第なのだろう。


 ガリンは特に何もしていなかった。

 ルルテも屋敷におらず、サラもいない。

 ジレとレイレイはいつも通りで、セルも変わらず笑顔で洗濯物を干していた。


 旅先でも自身の文様術の研究や、元力石に文様を彫るための基本的な道具は既に用意済みで、宿に梱包されている。

 そもそも水晶粉を使った塗料で元力片を作れるガリンにとっては、どこでも文様術を使える。

 水晶が持つ『圧電効果』を正確に得られないため、純度の高い水晶を使った時とまったく同じ力は出せない。しかし意思力を流すことで、分子単位では正確な周期の毎秒32,768回振動を得ることができる。それを木片に描いた文様に通せば、従来の4割程度の力を出せるのだ。画期的な技術である。

これは、ガリンが水晶に文様を施し元力石とした際の力の発現理論を理解しているからこそ可能な技術であった。

 レンを始めとする晶角士は、どう彫れば力が発現するかを知っているだけで、その理屈までは理解していない。だからレンですら元力石の文様を完全に読み解くことはできない。

理論で文様を読み解くガリンと、多くの文様術を扱った経験で読み解く晶角士との違いである。


 強いて言えば、ガリンはこの塗料の余分を作っているくらいだった。

 旅ではガリンの文様術が大いに役立つと考えていたからだ。

 ただ、ガリンには旅に出るという感傷はなかった。単に、


『護士としてルルテと旅に出る』


 それだけである。

 途中でレンがガリンを保護した遺跡に寄るという話があったため、それには興味があった。

 ただ、不思議といつものような知識欲は刺激されない。あたかもそこに何があるのか、自分が既に知っているかのような感覚があるのだ。しかし実際には何があるのかはわからない。非常にむず痒い感覚である。

 だから、とりあえず元力片を増産できるよう塗料を作っていた。それ以外の理由はなかった。


 そして、旅に出る前日の夜は静かに更けていった。


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