王都出発 その33 物資の調達
衣服や防具の準備が終わり、隊列を組む訓練や、移動時の襲撃に対する訓練なども順調に終わった。
実際に、ガリンたちが王都を出発するまで、既に30日を切っていた。
最後に準備をするのが、旅に必要な物品や物資の準備である。
サラの提案した長期行程に備えるため、一行はまず
『南へ駆け抜けるための軽装』
と
『北方を越えるための重装』
を両立させる必要があった。
南街道は宿が多く、野営の頻度は少なくて済むとはいえ、山脈越えや北路に入れば、宿のない区間が長く続く。
しかし、すべてを持ち運ぶことはできない。
そこで、まずは王都からエゾラまで行くための物資を揃えることにしたのだ。
もちろん王都でしか購入できないようなものもあるため、それは王都で買うことになる。
南下中は最低限の装備で済むが、北上に入ると本格的な野営が続くため、共通して使用するものは、両方の行程で対応が可能な装備を選択していった。
まず、野営するときのテントだ。これは、南へ向かっている間は夜間も比較的温暖だが、北方を回る時は夜も割と冷え込む。内張りを外せば軽く、付ければ防寒性が増す可変式の軽量テントを選んだ。ガリンとストレバウスで1つ。ジレとレイレイで1つ。サラとルルテで1つだ。全部で3つ準備した。
次に寝具だ。これは、北方の夜は夏でも冷気が強く、秋に入れば凍えるほどになる。羽毛と魔獣毛を混ぜた寝袋を人数分用意した。空気を抜いた圧縮袋で体積を抑えられる機能性の高いものを選んだ。気温が温暖なときは、上掛けとしても敷布としても使える。
また、ガリンが最後まで「要らないのでは」と言っていた調理道具と火打ち具である。
確かにガリンがいれば、元力石を並べて使う形の調理器具も使用可能だが、サラは以前にも説明していたが、そんなものを野営地で使えば目立つ。また、ガリンがいない場合の火起こしすら難しくなるだろう。サラは最後までこの点は譲らず、結局、携帯式の焚き火台と火打ち具を用意したのだ。北路では薪が手に入りにくい区間もあるため、燃焼効率の良い折り畳み式の小型焚き火台を選択。火打ち石と油布も予備として確保していた。また、調理具として、鍋、小刀、木製の皿やスプーンなども準備した。南街道では宿での食事も多いだろうが、それでも宿場町の間は野営をしなければならない。山越えの間や北方では自炊が基本となるのだ。
そして最後が、防水布と補修具だった。
山脈越えや外海側の湿気に備え、テントや荷物を覆う防水布を複数枚。裂けた布を直す針糸や革補修材も欠かせない物品としてサラは準備を進めていた。
サラは、これらの物品を用意するときにも、できるだけ他の面子を集め、意味とその使い方などを説明していた。
最初はサラは、もっと少ない荷物で旅をするつもりだったのだ。
しかしながら、荷物を運ぶための風力車が組み立て式に代わり、また、ガリンが背負子などに埋め込んだ軽量の元力石がかなり優秀で、それならばと、ある程度の物品を揃えたのだった。
旅慣れているサラであっても、やはりできるだけ快適な旅を望んではいたのだ。
それに、一緒にいる時間が長くなるにつれて、ガリンとルルテの常識外れも、より一層理解が進み、ある程度の妥協が必要となっていたのだ。
物品の準備が終わると、次は食料品だ。
長期間の旅では、とにかく保存性と携行性が最優先となる。味は二の次だ。
しかし、これも、実際に携行食を実食してもらったところ、舌が肥えた旅の面子は、とにかく不味いしか言わないのだ。
そこで、ここもある程度妥協せざるを得なかった。
また、ここでもガリンの文様術が力を発揮した。本来であれば、生肉や野菜などは保存が難しいため、旅には持参はしない。
しかし、ガリンが鮮度を維持するための温度調節の小型結界を、いとも簡単に実現したため、それほど鮮度について問題視しなくてもよくなったのだ。
野営地では多少は目立つかもしれない。ただ、野営地では、自分たちが長期の旅程で行動していることなど相手にはわからないのだ。商人と護衛の一行なのだから、宿場町ごとに補充をしているとでも言い訳をすればなんとかなると考えたのだ。
ここでも、大店の若旦那とその婚約者という設定が生きてくるのだ。
ただ、調味料と水はそうはいかない。
特に長旅では味の単調さが士気を下げることを、サラは知っていたのだ。
少量の調味料が思いのほか重要になるのだ。
水は、ガリンが元力石の変容で出すことができるとは言っても、さすがにそれにすべて頼るわけにはいかないため、浄化の元力石や簡易濾過具を携行することにした。
浄化の元力石は、傭兵の間ではもっとも流通している元力石の1つで、『浄化玉』と呼ばれていた。
また、季節が巡る旅である以上、衣類の選択も重要だ。
基本的な衣服や防具は既に選択したが、旅装としての外套などの準備も必要である。
南部の暑さと北方の寒さ、両方に対応するため、重ね着で調整できる衣類を揃えていった。
今回は、荷物になるからという理由で、防水マントは用意せず、防水布を流用することとした。
北路は徒歩が中心となるため、靴の耐久性と足のケアが重要。靴擦れ防止の軟膏なども用意した。
旅をしたことがあるサラだからこその配慮といえた。
その他の道具類としては、山脈越えや北方の街道では道標が少ない区間もあるため、地図と方位盤が必要となる。また、先ほどの靴擦れ防止の軟膏もそうだが、長旅では怪我や病気は避けられない。解熱薬、消毒薬、包帯、湿布などを揃える。ただ、大きな宿場町の宿には光浴設備がある宿もあるし、またガリンがテント内で簡易の光浴結界を作ることができると分かっていたのだ、最低限の量とした。予備のロープと滑車具、獣避けの鈴や香草なども一定数用意したのだった。
滑車具は、山越えの際に荷物を引き上げたり、崖道を渡る際に役立ち、北方の森では魔獣の出没もあるため、音や匂いで近寄らせない工夫をするのだ。すべての魔獣と戦っていたら、気力も体力も持たないからだ。
こうやって、旅の物資面での準備も整っていったのだった。
今回も、サラが外郭市街の知り合いたちに頼んで、質が良く、信頼でき、また価格的にも適正価格であるものを選ぶのだった。
この「信頼できる」という部分は極めて重要で、サラがカカノーゼの傭兵団にいたからこそ、睨みが利いて、相手もそれに応えるといった風である。
すべての道具が揃い、それらを目にしたガリンたちの一行は、いよいよ旅が始まるのだなと、本当の覚悟をすることになった。




