王都出発 その32 訓練へのナタルとサラの評価
王たちが訓練場を後にして、その場で、ガリンたちがほっと息をついていたところへ、砂を踏む軽い足音が近づいてきた。サラが振り返ると、リアとナタルが並んで歩いてくる。
2人とも汗を拭いながら、どこか楽しそうな顔をしていた。
まず、リアがサラに声を掛けた。
「ちょっと・・・。サラ。聞いてないわよ。あんなに強いなんて。今日は本当にいいところなし・・・。やられたわよ!」
リアの言葉を聞いて、サラが肩をすくめる。
「そっちこそ、ずいぶんと本気だったさね。ガリンの結界、何度斬りつけたと思ってるさね・・・。」
リアはむくれたようにガリンを見る。
いつのまにか護士を、『ガリン』と呼び捨てにしている。ずいぶんと親しそうだ。
あの護士は、姫様にも好かれているし、何か特別な魅力があるのだろうか。リアは、ちらりとガリンを横目で見た。そして、ガリンを見た瞬間に、あることを思い出して急に愚痴る。
「あれだけ打撃を加えても揺るがない結界なんて、ちょっと卑怯じゃないかしら?」
いきなり話を振られたガリンは、ちょっと驚いた表情を浮かべた。
「あ、あれは・・・。防御に特化した結界なので・・・。」
それでもガリンは、特に何でもない様に淡々とリアに返答した。
サラとリアが同時に苦笑いを浮かべた。
「ずいぶんと簡単に言うのね。こっちからしたら、悪夢でしかないわよ・・・。」
「確かに、敵にはしたくないさね。」
サラが、リアに同意する。
そんな会話に、急にルルテが割って入る。
「ふむ。我で護士であるからな!」
その顔は、なぜか高揚し、自信にあふれている。心なしか胸も張っているように見えた。
「いや、結界もそうだが、それだけじゃないぜ。」
ナタルも会話に参加する。
ナタルが腕を組み、レイレイとストレバウスを順に見た。
「あの小さなお嬢ちゃんの一撃は、本気で驚いたな。正直、剣ごと吹っ飛ばされるかと思ったよ。」
そう言って、ナタルが頭を掻いた。
ナタルに視線を向けられたレイレイは、目をぱちぱちさせて、少し照れたのかストレバウスの陰に隠れてしまった。
ストレバウスは、背中に張り付いているレイレイの頭に手をおいて、
「レイレイはまだ本気ではありませんよ。」
と笑った。
ナタルとリアは、それを聞いて、
「あのパワーでまだなのか・・・。それに衛士殿が加わっていたのだから、その二枚壁を突破できないわけだ。そもそもあのお嬢ちゃんを退かせるイメージが湧かないしな。」
「いやいや、剣士殿の踏み込みもかなりの鋭さがありましたよ。」
ナタルは、ふん、鼻を鳴らすと、
「ナタルだ。あっちの赤髪がリアだ。とにかく、お前の盾は本当に厄介だった。」
そう称賛を送った。
「それに、斥候役なのか。あのお姉ちゃんは?えらい的確なタイミングでの指示だったな。」
ナタルがジレの胸元のある一点を食い入るように注視した。その視線は、戦闘中のときよりも真剣だった。確かに、身体のラインに沿った皮の胸当てはかなり大きな曲線を描いている。
ジレは目を丸くして、頬を少し赤く染めて、慌てて手を振った。
その視線に気付いたリアが、ナタルの脇腹を鋭く小突く。
「痛てっ。何するんだよ。」
「バレバレよ。」
リアが、ナタルを顔を睨むように覗き込む。
「ごめんね。斥候の女剣士さん。馬鹿が無遠慮な視線を向けて。でも、中盤の貴女の指示、的確だったわ。」
改めて、リアがジレに称賛を送った。
「えっ、あ、あれはただ状況を見て言っただけで・・・。」
ジレが、恥ずかしそうに遠慮の言葉を口にした。
「それができるのが斥候さね。胸張りな。」
サラも、ジレに声を掛ける。
ジレは照れながらも嬉しそうに頷くのだった。
サラとジレの話を聞いたリアが、両手を腰に当て、全員をぐるりと見渡す。
「悔しいけど・・・。あんたたち、強いわ。にわかパーティのくせに、連携が妙に良いのよね。」
サラが笑う。
「声掛けの勝利さね。まだまだ改善点はあるけど、今日は上出来だよ。」
ナタルが軽く手を挙げて、
「あーぁ。今日のところは俺たちの完敗だな。次があるなら絶対に勝つ。」
とため息交じりに言った。
その言葉に、ガリンたちが顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
「こちらこそ、普段、訓練していないような状況での訓練に参加して頂き、ありがとうございます。次があれば、また、よろしくお願いします」
「我は、何度やっても負けるつもりはないぞ。」
ガリンの丁寧な言葉と、ルルテの尊大な発言に、リアがくすっと笑う。
サラが、少し呆れながら、
「まあ、姫さんは、王女様はそのままでいいさね。あんたが動揺しないだけで、皆が落ち着いて戦うことができるさね。」
ルルテに声をかけた。
ルルテは、ちょっとだけ拗ねた様に口を尖らせたが、結局、嬉しそうに微笑んだ。
話が終わると、ナタルとリアの2人は軽く手を振り、訓練場の出口へ向かって歩き出した。
その背中を見送りながら、ガリンたちは自然と背筋を伸ばすのだった。
その後、組み立てた風力車を3つの梱包に分け直し、ガリンたちも屋敷へと戻ったのだった。




