王都出発 その31 訓練への王からの言葉
エランと入れ替わるように、王が一歩前にでて、サラに視線を落とす。
「サラよ。このわずかな日数のうちに6名を束ね、かくも精緻なる連携を成し遂げたその働き、まこと見事であった。そなたが積み重ねてきた傭兵としての経験と胆力、その価値を改めて深く認めるものである。」
次に、王はストレバウスに視線を向けた。
「衛士ストレバウスよ。ガリエタローング男爵の子、レイレイをここまで鍛え上げたそなたの尽力、余は確かに見届けた。幼き身ながら己が力を示したレイレイの成長は、そなたの導きあってこそである。
我が娘の衛士として、よくぞその責を果たしてくれた。」
次は、ジレに笑顔を向けた。
ジレが、キョトンとした顔で王を見上げる。
「ジレルンマーナよ。かつての快活さは今もなお失われず、戦場においてもその気質が光っていた。
その働き、しかと御父上へ伝えるとしよう。」
ジレが、少しだけ頬を赤くする。
王はガリンへ視線を移したが、その表情には先ほどまでの儀礼的な硬さとは異なる、わずかな逡巡が見えた。まるで王としての言葉を続けるべきか、今回もガリンが成し遂げたことへの驚きを漏らすべきか、その狭間で一瞬だけ揺れたように見えた。
「そしてガリンよ・・・。」
呼びかけの声音も、どこか普段の口調に戻りかけている。
しかし王は、喉の奥で小さく息をつき、再び王としての姿勢を取り戻した。
「ガリンよ。我が娘を守る者としてのそなたの振る舞い、余は深く心に刻んだ。これよりも先、変わらぬ忠誠と力をもって、我が娘を守り続けてほしい。そして、その新しい風力車だが・・・。」
王が、ここで言葉に詰まる。
そう言いながら、レンに顔を向けた。
レンが、力なく頷くと、王は、再びガリンに視線を戻した。
「とにかく、大儀であった。」
何故か、風力車に関しては、『大儀』で終わってしまって、尻切れトンボになったようであったが、王は、ここまで一気に言葉にして、皆をねぎらったのだった。
普段王が、ガリンやルルテに掛ける言葉とは明らかに異質なねぎらいの言葉であった。
それを証拠に、わざわざ王としての立場を強調するような物言いに、ハサルはとても面白そうな表情を浮かべていた。
一方、最後まで、声が掛からないルルテが、明らかにそわそわしていた。
確かにルルテは、今回守られているだけで何もしていない。しかし、これは作戦であるのだ。
王も分かっているはずである。ガリンは、横でそわそわするルルテの手に手を重ねて、頷いた。
およそガリンらしくないその仕草に、ルルテが驚いて顔を赤く染める。
一瞬だけ、王の視線が厳しくなったような気がした。
「マレーン王国 第一王女、ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥよ。
そなたは己が務めを正しく理解し、護衛の者たちに命を預けるという重責を、見事に果たした。
王家に連なる者の務めとは、ただ己が力を示すことにあらず。
配下を信じ、心にゆとりを保ち、その志気を高めることこそ、将として歩む者の本懐である。
そなたが示した落ち着きと信頼の姿勢は、まさしく将器の萌芽にほかならぬ。
これより先も怠ることなく励み、真に人を率いる者へと成長していくことを、余は大いに期待している。
また、護士との関係が良好であることも、余は・・・うむ、確かに確認した。
互いを支え合い、より強き絆を築き、共に歩んでゆくがよい。」
ルルテの顔が一気に明るくなる。ルルテは、父、いや王の言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと熱くなり、思わず背筋が伸ばすのだった。さすが王である。
確かに、ルルテの役割は、積極的に戦うことではない。
ただ、最後の間は・・・。
レン、エラン、ハサルが笑うのを堪えているのが良くわかる。
ルルテも、何かしら微妙な顔をしている。
ガリンには、なぜ皆が微妙な顔をしているのかがわからんかったが、とりあえずルルテも満足したようなので、これで良しとしたのだった。
最後に、エランが、
「王のお言葉は以上である。今後も研鑽を怠らず、己が務めを深め、マレーン王国をより堅固に守り立ててくれることを強く望む。」
そう言って、場をしめたのだった。
エランの言葉で、場は解散となり、王たちは執務室に戻り、訓練場には、ガリンたちと、訓練を開始した軍角士だけが残った。




