王都出発 その30 訓練終了と風力車の価値
一連の訓練が終わり、急襲役を務めたナタルとリアも城内訓練場に戻って来た。
すると、訓練を訓練場の周りで見ていた軍角士たちから、大きな拍手と歓声が皆に送られ始めたのだ。
確かに訓練であっても、ここまで煮詰めたものは、軍の訓練でもまずなかったからだ。
それに、軍は集団戦が中心であり、少人数のパーティの攻防は見る機会もなかった。
そこに来て、軍角士としては司の階級にあり、実力も折り紙付きの2人が、襲い掛かり、それを見事に防いで見せたのだ。皆、ルルテ達を素直に称賛したのだった。
特に今回の戦闘は、サラの指示でもあったが、お互いの連携を『声掛け』という手段で実践している。実際の戦闘では、相手にバレてしまう声掛けはあまり褒められたものではない。ただ、にわかパーティには、連携を深める訓練としては最適であったし、また今のルルテ達にはこれが限界でもあった。
戦闘経験を積めば、近いうちにアイコンタクトだけで、問題なく連携がとれるようになるだろう。最終的には相手の動きを感じるだけで連携が取れるようになるのが理想だが、これはまだまだ先の話だろう。
今回の訓練は、見ている軍角士たちにとっても良い刺激であり、また訓練としても実りあるものだった。
それは、王やエランたちにとっても同様であったようだ。
特に、同じ軍角士の指揮官として戦場に立ったことがある王は、この実戦的な訓練に多くの価値を見出していた。小規模な編隊での効率的な動きが、ここまで戦況に影響をするとは考えていなかったのだ。
あくまでも軍隊は、個ではなく、集団として戦力を計算していたからだ。特に、ガリンという晶角士が戦場にいるだけで、将は安心して前線で指示をだせる。これは、大きい。
一方でレンとハサルは、ガリンの依頼で作っていた風力車に目が釘付けであった。
この風力車は、御者を必要としない。
レンは、技術的な視点で興奮を隠しきれず、ハサルは、その戦略的価値を即座に計算し始めるのだった。それは、今回の訓練では、風力車はレイレイについて回り、常に盾として機能していた。これが、投石器や、移動式設置盾であったらどうだろうか。
正直、見当もつかないほどの戦略的な価値があると計算をしたのだった。
移動式設置盾とは、いわゆるマントレットと呼ばれるものである。これが、目の前にある風力車と同じように人に付き従うなら、もう戦略自体が大きく変わってしまう。
この盾は、1人または数人の兵士を隠すことができる移動式の盾、あるいは可搬式の屋根付きシェルターである。戦場では、車輪付きの台座に乗せて押しながら前進し、敵の遠距離、中距離攻撃から兵士を隠しながら攻撃隊などの防御に威力を発揮する。大きいものでは、移動させるのにかなり労力を必要とし、数人で移動させなければならない。それが、勝手に1人でついていくのだ。目の前にある風力車のように風力を使用できるかは検討が必要である。ただ、速度が要らないのであれば、元力石と歯車を使った動力で車輪を回すことはできる。
先史文明の歯車動力が産まれた時代では、水、風、人力を用いて歯車を回して動力を得ていたが、現文明では、それに代わるものとして元力石がある。ガリンが以前、街灯の光エネルギーを確保するのに、意思力を必要としない方式を提案し、今では多くの場面で使われている技術、回転エネルギーを利用すれば良いのだ。
この回転エネルギーを提唱した時も、ちょっとした産業革命を起こしかけたが、今回のこの風力車の仕組みは、それどころではない。戦争の在り方を変えてしまう。
兵站は、最低限の人員で可能となり、重たい破城槌ですら、勝手に動いてくれるのだ。
戦場では、一度設置すると動かすことが難しい、投石器や大型盾を戦略に合わせて移動させることも可能だ。将として戦場に立つ、王やエランも、この価値はもちろん理解していた。
もともと、この訓練を見学する目的の1つに、完成した風力車を見る目的もあったのだ。
ただ、各々は、実際に組み上がった風力車を見て、ようやく現実的なものとして理解し、目を合わせることになっただけである。
周囲の軍角士たちの歓声や拍手が落ち着くと、エランが声をあげた。
「この度の訓練、まことに有意義であった。各々が日々重ねる研鑽、この国を預かる宰相としても誠に嬉しく思う。これより王に御言葉を頂く。一同、心して拝聴せよ。」
そう言って、一歩下がった。
ガリンたちはもちろんのこと、周囲にいた軍角士全員が、地に膝をついた。
「面を上げて、拝聴せよ。」
皆が膝をつき、頭を下げると、エランが続けて、面をあげるように伝えた。




