王都出発 その25 ルルテの矜持?
実際、ストレバウスの防具の選定は大変だった。
何度も何度も防具の付け直しをしながら、かなり苦労をすることになったのだ。
まず、ストレバウスの身体が大きいというのが1つあった。もう1つは、ストレバウスの戦闘スタイルにある。ストレバウスは衛士としての訓練を受けている。衛士とは基本、護衛だ。つまり護るための戦闘術なのだ。そのため、堅くなければならない。しかし、傭兵はそんな戦い方はしない。傭兵は守るためではなく、倒すための戦いをするからだ。
色々試してみたが、結局は皮鎧で実現するのであれば、レイレイと同じ装備がもっとも妥当であるという結論になったのだった。
もちろん、男性であることも考えて、腰鎧は前垂れのあるタセットベルトに変更した。皮の場合は、男女関係なくスカートタイプの鎧があるが、サラのイメージ的にやはり男性であれば、これが良いと判断していたのだ。実はカカノーゼも同じタイプの腰鎧を着けていたのだ。
それを意識したわけではないが、体格の良いストレバウスは、どうもカカノーゼと印象が重なる部分があるようだった。
レイレイと違ったのは、左手に装着するタイプのバックラーを用意したことだ。
これは、サラ自身がストレバウスと戦闘訓練をしていて気づいたのだが、ストレバウスはその体躯を生かした戦いが上手い。また、攻めるより受けてから反撃するカウンターが得意なのだ。
これは、盾を使う戦い方でよくみられる戦闘術だ。
そこでサラは、ストレバウスには途中から盾を持ってもらって戦闘訓練に参加してもらっていたのだ。
正直、突撃するタイプの戦闘であれば、サラ自身とレイレイがいる。 ストレバウスは中衛であるルルテとジレ、後衛であるガリンの護りにつくために盾役を引き受けたほうが戦術的にも上手くいくと判断したのだ。
そして、これは上手くいった。
サラが行っていた戦闘訓練は、ストレバウスがルルテやレイレイに指導していた個人的な戦闘技術の訓練だけではなかった。パーティーとしての集団戦も訓練に加えていたのだ。
実際に、サラが加わってから、5人の連携は驚くほど滑らかになったのであった。
こうやって、全員の防具がようやく決まったのであった。
後は、それぞれの防具は、それぞれの製作者が工房に持ち帰って最終的な調整をするのみであった。
しかし、この段になって、急にルルテがサラに要求を始めたのだった。
「どうしたんだい。お嬢ちゃん。なにか不具合でもあるのかい?」
サラが尋ねると、なぜかルルテが頬を紅くして、ガリンの方をちらちら見ながら口ごもる。
「ルルテ。これからしばらくの間身に付ける装備ですので、すこしでも違和感があれば、今のうちに言っておいた方がいいと思いますよ。」
ガリンが、とても心配そうにルルテに言葉を掛ける。
「ま、いや、まあ、これは女の問題なのだ。この者にだけ伝えることにするのだ。」
そう言って、サラを手招きした。
サラは、面倒臭そうにルルテに近づき、耳をルルテに寄せた。
「いや、それだ。実はな・・・。」
「実は?」
サラが問い返す。
「いや、胸がな。ほら、この鎧だが、胸の形が固めてあるではないか?」
「そうじゃないと、動くときに揺れて動きにくいだろうさね。」
「う、うむ。だからな、もちっと、そうだな。もう少し豊かにだな……。」
ルルテの言葉が尻すぼみになって聞こえなくなる。
「はぁ?」
「豊かに・・・。」
サラの顔が一気に険しいものになる。
「おふざけもそのぐらいにしとくさね。そんな胸どこにもないさね。ガキが見栄張ってんじゃないさね。」
「で、でも・・・。」
ルルテがジレの胸部に視線を向ける。
サラも一緒にジレの胸部に視線を向ける。
2人に皮鎧越しではあるが胸を見つめられたジレが、急に顔を赤くして胸の部分を両手で隠す。
「ああ。確かにありゃデカイな。立派な物さね。ただ、デカイんだからしょうがないだろ。胸当ては激しく動いたときに、胸が揺れてるのを防ぐために、大きさに合わせて作るんだよ。だから、あのデカイのは仕様なんさね。」
あまりに連発する『デカイ』に、ジレがいっそう頬を紅くして、
「デカイ、デカイって……。」
ジレが、ストレバウスの後ろに隠れるように移動する。
「まあ、とにかく、お嬢ちゃんには胸はないんだ。諦めな。」
サラが、お手上げの仕草をしながらルルテに告げると、ルルテは、悔しそうに顔を歪めながらも諦めるのだった。
こうやって、一部トラブルがあったものの、全員分の旅装束となる防具が決まったのであった。
ガリンのローブだけは、サラが、
『普段使っているローブに裏張りをすることになるからしばらくの間貸してくれ。』
と伝えたところ、
『旅に合った元力石を埋め込むためもう少し待ってください。』
というのが、ガリンの返事であった。
嫌な予感がして、サラが『どんな元力石をローブに埋め込むのか』と尋ねると、
『硬化』『軽量化』『冷暖気遮断』『状態異常無効』『精神攻撃耐性』
という答えが戻って来た。完全に国宝クラスである。
サラは、頭を抱えたが、外から見ても分かる物ではないため、逆に、
『硬化』『軽量化』『状態異常無効』
に関しては、
『自分も含めた他の面子の防具にも埋め込むことができないのか?』
とお願いをするのだった。
しかし、ガリンが言うには、
『常時発動型の元力石は常に意思力を消費するため、仮に周囲からの意思力収集の文様を追加しても、ルルテたちでは1つが限界だろう。』
という返答が戻って来た。
元力石と文様術、その意思力についてそれほど造詣が深いわけではないサラは、ガリンの言うことを信じるしかない。それでも、1つは可能なのであれば有るに越したことはないのだ。
ガリンは、さんざん悩んだ結果、
ルルテとジレ、自分の鎧に『軽量化』を付加し、ストレバウスの盾に『硬化』の付加をお願いしたのだった。
レイレイに関しては、もともと竜族としての桁外れな膂力と耐性があるため、元力石を埋め込む必要がないと判断をしたのである。
それに、ガリンがいれば、必要になった時に追加したり、交換したりも可能だという。
それならば、ということでレイレイの防具への元力石の付加は保留としたのだ。
今回、ガリンのローブに関しての裏張りは、サラが行うため事前に元力石を埋め込んでも問題はない。しかしながら、それ以外の防具に関しては、決して外に出ないように重々お願いをしたのだった。




