王都出発 その23 防具の選定とは
役どころが決まると、その役どころに見合った防具が必要になる。
いくら、大店の跡取り一行が漫遊するための傭兵団だとしても、やはり傭兵団ではあるのだ。防具は必要である。
傭兵が使っているのは、軍角士が使っているような木を樹脂で固めて、それを元力石で硬化させている防具ではない。樹脂の部分は、確かに軽くて硬い。ただ、身体の形に沿うように作るため、ほぼ個人専用となる。それに比べ、傭兵が着る鎧は、動物や魔獣の皮をやはり樹液で固めて作った部位と、関節などの駆動部に柔らかい皮を体に沿わせて装着する部位を組み合わせて利用する。
採寸ではなく、多くの部位を身体に合わせて選択していくことになるのだ。
これは、屋敷ではできない。
そこで、サラは、学院の講師用の会議室を借りて、皮の防具職人を集め、それぞれの身体に合わせた防具を選ぶことにしたのだ。
旅での、各面子の大まかな役どころが決まり、その衣服の準備のための採寸などが終わった2日後、サラは、ガリン、ルルテ、レイレイ、ジレ、ストレバウスを連れて、学院に来ていた。
中一日空いているのは、準備があったからである。
ガリンたちが防具を選ぶために学院を訪れる前日、サラは、外郭市街の傭兵用の防具を扱う知り合いの店のいくつかに声を掛け、
『大きく儲けるチャンスさね』
と声を掛け、大量の皮鎧や、その下に着るギャンベゾンやアーミングダブレットを用意してもらっていたのだ。
鎧は、軽さを最優先とし、ほとんどが皮のものを用意していた。そして、下着の素材は、 綿、麻、動物の毛などを何層にも重ねて縫い合わせ厚くしたものが用意していた。それらを見た瞬間にルルテは、
『そんなごわごわするのを着るのは嫌だ!』
と駄々をこねたが、これは鎧をつける上では絶対に必要なものである。
衝撃を和らげ、鎧との摩擦から皮膚を守るものであるのだ。構造も、鎧をつけても腕を曲げやすいように『く』の字型に作られていたり、鎧の各部分、肩当て、腕甲などを固定するための紐具が着けられており、これがないと固定すら出来ない。それをサラからくどくどと説明されて、嫌々ながら承服したのだった。
ただ、それでも、実際にルルテが一番前で戦うことがないと考えたサラは、レイレイとストレバウスのみが全身を皮鎧で包むこととして、ルルテは、胸当てとトラウザ、ブーツのみを着用し、それ以外は着けないこととした。これにより、鎧下は最低限となったのも、ルルテが渋々受け入れた理由であった。
ジレは、その役どころがメイドであることと、本人のスキルが暗殺術のような軽快な動きにあることを、日々の訓練の中で知っていたサラは、メイド服の下に皮で編んだ帷子のみを着用してもらい、それ以外はジレに任せることとしたのだった。
ガリンは、正直、もう何でも良かった。これがサラの感想だ。
何を着ても結局結界頼みなのだ。それなら黒のローブは色が目立つため、射杖兵が着るような、ローブの裏に柔らかい皮を張り付けた、戦闘用のローブなら何でも良いと伝えていた。
実際、どんなローブであったとしても、どうせガリンが手を加えて、今着ている黒ローブ同様に改造してしまうのだ。適当にローブを選び、裏張りだけしてもらえば良いのだ。
ガリンたちが、学院の会議室に到着すると、そこは一面、防具が広げられており、そこには防具職人と思われる数人が、忙しそうに防具の手入れを行っていた。
サラは、改めてその職人たちに挨拶をした。
それと同時に、
『ああ。防具の整備も教えないといけないのか・・・。』
と少しだけ、気が滅入るのだった。
さすがに傭兵団に居るときは、防具の付け方や手入れの仕方をしらない者はいない。
新人もいることにはいるが、当然傭兵団に身を寄せるまでには、一通りのことは学んでからくるのだ。今回の旅は、サラにしても初めてのことばかりだったのだ。
とにかく、表向きは傭兵団として活動する以上、防具は絶対に必要である。
現実の傭兵団には、よくお伽噺に出てくるような不可思議な力を使う『魔法使い』や『精霊使い』は存在していない。
准晶角士として活動していて、職務を引退後、傭兵になる者もごく少数いるが、やはり魔法使いと呼ぶのには無理があった。
あくまでも晶角士があらかじめ文様を彫った元力石を複写して、汎用的に使っているだけである。
主な攻撃手段は、射杖となる。
射杖とは、杖の先端部分に比較的大きな特定属性の攻撃を行うことのできる元力石を埋め込んだものである。戦闘時には、前衛を後方から支援するための攻撃手段となっていた。
支援効果は大きく分けると、対象物に直接属性攻撃をするタイプのものと、前衛の攻撃を間接的に補助するものがあった。前者は、いわゆる攻撃魔法であり、後者がバフである。
より詳細に言うのであれば、属性攻撃とは、火炎攻撃や相手の精神力を混乱させる攻撃で、バフとは、前衛の周囲に敵からの攻撃を防ぐ透明の障壁をつくったり、前衛自身の相手の火炎攻撃に対する火属性耐性をあげたりといったものになる。
残念ながら、お伽噺にあるような、一気に怪我を直したり、死人を生き返らせたりといった途方もない支援を行うことは不可能となっている。
また、射杖に使われている元力石の発動には多くの意思力を必要とするため、通常は1回分のエネルギーは、使い手の時間のあるときに補充を行うことになる。つまり、一度属性魔法を放射してしまった元力石の効果を得るためには、それなりの時間を有するため、同じ射杖を使って、連続の攻撃をすることは出来ない。
使い手の精神力や求める効果にもよるが、意思力の再充填には、1分~10分程度かかるとされていた。また、1つの元力石は原則1効果なので、射杖は用途に合わせたものを数種類携帯し、持ち替えながら攻撃、または支援を行う形になるのだ。
ガリンが、両手の指全部に元力石を嵌め込んだ指輪を着けているのも、これが理由である。
ガリンであったとしても原則は変わらず、それぞれの指輪にあらかじめ意思力の充填を行い、それを攻撃や支援に使っているのである。
ガリンの意思力が並外れているため、威力、効果範囲、効果時間が桁外れなだけで、原則は同じなのである。ガリンも、指輪の意思力は随時補充しており、万が一に備えているのだ。




