王都出発 その20 ルルテからの叱責
サラは、用事が終わると、次に屋敷に訪れて打合せをする日を決め、さっさといつもの酒場に戻っていってしまった。
ガリンも、予期しない衣服の買い物と、簡単に終わると思っていた傭兵団の登録にかなり時間が掛かってしまった。そのため、予定していたレンへの報告は後日にして、とりあえず屋敷に戻るのだった。
そして、ここからが、今日最後のガリンの不幸の始まりだった。
ガリンが、屋敷に戻ると、まず門の所で警備をしていたストレバウスと顔を合わせることになる。
ガリンは、ここで気付くべきであったのだ。
ストレバウスの驚いた顔でガリンを見つめていることに。
ガリンは、今回は城から屋敷に戻ったわけではなく、第1外郭市街にある貴族街を抜けて屋敷に戻ってきた。
そのため、城の中を通ってくる時とは違って、ほとんど誰にも顔を合わせずに屋敷までたどり着いていた。仮に、城の中を歩いていれば、ハサルの手の者の目もあったため、誰かがガリンに伝えたかもしれない。
しかし、今回は、それもなかった。
普段、自身の着ている衣服になど、一切気を使っていないガリンだからこそ、忘れていたのだ。
そう、今のガリンは、普段着ている黒いローブではなく、サラが見立てた薄茶のセーターに紺のズボン。紺の短めのコートを着ているのだ。靴だけは、普段から履いている黒のブーツのままであった。
いつもの黒いローブは、ガリンが下げている紙袋の中にある。
しかも、サラがきっちり折り目正しく綺麗に畳んだ状態で袋の中にあったのだ。
このまま女官やルルテたちの前に出れば、どうなるかは明白であった。
しかし、ガリンは気付かなかったのだ。
ガリンが、門を抜けて屋敷の前までくると、まず庭の手入れをしていたセルと、同じく庭でレイレイと遊んでいたジレがガリンに気付く。
まず、セルが、
「まぁ・・・。」
続けて、ジレが、
「これはまた・・・。」
と唖然とした。
そして、レイレイまでもが、
「パパ・・・?」
何故か疑問形だった。
「え?何を・・・?」
ガリンも、驚いて訊き返す。
「護士殿。まずは、おそらくその手に持っているいつものローブに早くお着替えになることをお勧めしますが・・・。」
セルが、困ったような顔でガリンに告げる。
「え、洋服?これは、登記所に・・・。」
ガリンが、そう言いかけたところで、別の声が聞こえてくる。
「ガリンが戻ったのか。登記所での傭兵団の登録はどうだっ・・・。」
ルルテである。
ルルテは、ガリンを視界に収めるやいなや、言葉を失う。
ルルテの顔が一気に、胡乱げなものに変わった。
横では、ジレが、
「さぁ。レイレイ。おやつの時間ですね。屋敷の中に戻りましょう。」
レイレイを屋敷の中に誘導していく。
もちろん、レイレイは、無邪気にジレと一緒に屋敷に戻っていった。
続けてセルが、屋敷に戻ろうとすると、
「セルよ。そのままそこで控えておれ。」
ルルテの鋭い言葉がセルに飛ぶ。
セルは、一瞬だけ眉をぴくりとさせたが、すぐに何事もなかったように、
「姫様。かしこまりました。」
そう言って、壁際に下がった。
「ルルテ、どうしたのですか?」
空気を読まないガリンが、ルルテにそんな質問を投げかける。
「ガリンよ。それは、我の台詞だ。一体全体どうしてそんなことになっておるのだ?」
ガリンが、呆けたようにルルテを見る。
「まったく、言わねばわからぬのか。その服装はなんだと聞いておるのだ?」
ガリンは、ようやく自分がいつもの黒いローブではないことを言っているのだと気付くのだった。
ガリンは、登記所から、露店での服の購入までの話をルルテに話して聞かせた。
ルルテは、時折相槌を打ちながら、ガリンの話をおとなしく聞いているように見えた。
そして、ようやく傭兵団の登録までも話が進んだところで、
「傭兵団の登録、大儀であった。我の希望した名前とは違うか、確かにその傭兵のいうことももっともではあるな。そなたが決めたという『護国の騎士団』という名前。良いではないか。そなたが提案したとは思えぬ良い名前であるな。」
「ああ。良かったです。」
これには、ガリンも素直に安堵した。
「だが、それ以外は、問題しかないな。」
「はぁ?」
「はぁ?ではない。」
ルルテが、近くに寄るように手招きした。
ガリンが、数歩前に出て近づくと、
「良いか、ガリン。歯を食いしばるのだ。」
そう言って右手を大きく振りかぶると、ガリンの頬を手のひらで思いっきり叩いたのだった。
「くぁっ・・・。」
ガリンが、驚きと痛みで悲鳴をあげた。




