王都出発 その19 傭兵団の名前
登記所に戻ってきたサラとガリンは、ようやく傭兵団の登録を始めるのだった。
実際に、傭兵団の名前を登録しようとすると、やはりここでもサラが顔を歪める問題が発生した。
それは、登録する傭兵団の名前である。
ガリンが、サラに告げた名前は、
『姫騎士とその従者たち』
というものだったのだ。
さすがに、サラもあっけにとられた。
「ガリン。聞いていいか?旅はお忍びなんだよな?」
既に、サラが我慢できないといった険しい顔付きで詰問してくる。
「はい。そうですね。」
「じゃあ、この名前はなんだ?」
ガリンが、少し横を向いてサラから視線を外す。
「それは、ルルテが考えた名前です。」
「そんなことは、聞いてないさね。なんで、こんな身分を吹聴するような名前で登録をするんだと聞いているんだ。」
サラが、ガリンの顔を掴んで視線を合わせる。
「そ、それは、ルルテが、その名前でと・・・。」
「それで?」
「い、いえ。ルルテは言い出すと聞かない節がありまして・・・。」
「なるほど、それで?」
「・・・。」
「つまり、お前も、この名前はどうかと思ってるんだよな?」
「有体にいえばそうですね。姫騎士などと、どこが騎士なのかと・・・。」
サラが、ため息をつく。
「そこじゃねぇよ。だって、お姫様御一行ってバレない様に、傭兵団を装うんだよな?」
「そうですね。」
「自分で、姫って言ってるじゃないか!」
「まあ、姫騎士ですから、単なる二つ名のようなものかと・・・。」
「・・・。却下だ。こんな恥ずかしい名前を付けて傭兵団やってる奴らなんか、見たことないさね。目立つのは却下だ。」
「しかし、そうとう面倒ですよ。違う名前を付けた時の対応・・・。」
ガリンが、盛大に眉間に眉を寄せた。
「知るか、そんなこと。あたしは、護衛の任を受けたんだ。子守じゃなぇんだよ。それに、あたしが必要なのは、あんたとレイレイ様だ。あの姫様はおまけなんだよ。こんな旅ほっといて、辺境の里に行きたいぐらいなんだ。それを、お前たちが、ララス領に入ってから、使節団として赴くっていう条件を、しぶしぶ飲んでいるんだ。しかも2年近くお預けなんさね。わかっているさね?」
「はぁ。確かにそうですね・・・。では、どんな名前が良いのですか?」
ガリンが、困ったようにサラに問い返す。
「なんでもいいさね。とにかく、それっぽいのであれば、いいさね。」
「サラさんは、何か案が?」
「ちっ。サラでいいって言ってるだろ。それとも、あたしのことは、幼名で呼べないっていうのか?一糸まとわぬ姿で、話し合いをした仲さね。」
「私は、親しい女性がいないのです。女官達でさえ、名前だけでも呼ぶのはかなり抵抗が・・・。」
「サラだ。」
サラが、きっぱりと言い返す。
「・・・。では、サラ。何か候補はありますか?」
「ふん。やりゃできるじゃないか。そうさね・・・。」
サラが、周囲をキョロキョロ見回しながら、ぶつぶつ候補を呟いていく。
・ 黒焔殲滅旅団・・・
・ 奈落の牙
・白銀の死告隊
・紅蓮の猟兵団
・護国の死刻隊
・竜鱗の騎士団
ガリンが、ピクリと反応する。
「サラ。なんというか、すごい名前ばかりですが、最後の2つの合わせたらどうでしょうか?」
「最後の?ああ、じゃあ『護国の騎士団』ってところか?」
ガリンが、救世主をみるような目でサラを見つめる。
「それですよ。ルルテが望んでいる、騎士の集団みたいですし、護国という自身の影なる立場を示しているのも良いですね。」
「そ、そうか。なんか照れるじゃないか。」
なぜか、こんなところで意気投合する2人であったのだが、とにかく、これならルルテも満足するに違いないという名前を見つけることができた。ガリンは、ほっと胸をなでおろすのだった。
確かに、サラが言う様に、ルルテが提案した傭兵団の名前は、『姫』『従者』などの言葉が、なんとなく貴族の一行という雰囲気を感じさせるものである。
今回の名前も、『護国』『騎士』などの言葉がはいっているが、傭兵団の名前として『騎士団』と名乗るのは比較的人気らしい。また、『護国』なんかも、受けは良いらしいので、サラによると組み合わせとしては有りらしいのだ。
また、自国に誇りをもっており、国、王を守るという『護士』という立場からも、『護国』というのは的外れではない。自身を姫騎士と呼称したいルルテにとっても、護士と共に国を守る騎士というような捉え方もできる名前である。
これなら、ルルテも満足してくれると思えたのだ。
さっそく、サラとガリンは登記所で、意気揚々と
『護国の騎士団』
としての名前を、自分たちの傭兵団として登録したのだった。
恥ずかしい名前を、連発し、その中からもっともキラキラ光り輝きそうな名前を選んだ二人を陰からみていた、登記所の担当の女性が、苦笑いを浮かべていたことに、2人は気付いていなかった。




