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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第3章 王女と護士
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王女と護士 その5


しばらくすると、学院の門でガリンのうんちくを聞いていたルルテも、徐々に我慢の限界が来たらしく、ガリンはルルテに引っ張られるように、街の中央の広場へ向かったのだった。


その後。ガリンはルルテが市場であれやこれやと買い食いをしたり、様々な出し物で遊んだりするのに、夕方までざんざんひっぱりまわされることとなったのだ。

ルルテはまだまだ元気いっぱいであったが、ガリンが持っていた硬貨がなくなった為に、これ以上遊ぶことができなくなってしまったというのが実際のところである。


普段は、自分の生力石からお金を自動的に引きだし支払い等にあてるため、ほとんど硬貨を持ち歩き使うことはない。逆に今日は、ガリン自身の青色の生力石でも簡単に晒すわけにいかず、またルルテの紫色の生力石は尚更のこと人に見せるわけにはいかない。つまり、生力石を使って支払いをするなどもっての他であるのだ。そのため女官たちが余裕をもって硬貨を持たせてくれたのだが、ルルテの物欲に敢え無く敗北を期したのだ。

ガリン自身が予備にと、多少持っていた小銭も使っていたのだが、生力石で支払いができる世の中である、どだいそんなに持っていたわけではなく、いくら市で遊ぶといった額的には少額のものであったとしても限界があったのだ。

この辺りは、ガリン、女官含め一般常識が掛けているともいえた。


もっともっとと遊びたがる少女を説得すのはちょっとだけ気が引けたが、持ち合わせが無いのにこれ以上遊ばれても困る。

ガリンは少女に意伝石を使ってその意をこっそりと伝えると、少女もしぶしぶ納得せざるを得ず、2人はようやく帰路についたのだった。


----*----*-----


マレーン城の本翼にある、大宴会場では、昼間の食卓とはうって変わって、大いに贅沢な料理が並んでいた。


国王が催す、諸文化圏の大使達を招いての、夕食会である。


贅沢の限りを尽くした食卓には、王の他にも、王妃、宮廷晶角士、宰相である公爵をはじめ、数名のマレーン王国の貴族達と、惑星空間の文化圏を有するクエルス、レタン、イルケスの3文化圏と、次元空間を有するノール、計4つの文化圏の大使達が座っていた。

実際には、この他にも、次元空間を有するウェンザ、コンヌという2つの文化圏があるのだが、この2つはこの度の生誕祭への大使派遣を見送っており、祝辞が届けられたのみであった。


ノールの大使の容貌を見ればすぐにわかるのだが、その容姿は惑星空間に居住している人間とは明らかに異なった特徴的なものだった。耳は細く長くとがっており、切れ長の目の中の瞳には瞳孔がなく、真っ青な色をしていた。

次元空間に移住しそこに文化圏を築いた人々は、その空間に自らを適合させる為の分野の元力石開発に力を注ぎ、何世代にも渡って肉体改造を行っていった。その結果今のような容貌になったというのが通説であった。しかし、彼らが自らの歴史を語ることはあまりなく、本当のところは本人達のみが知るところであった。

とにかく、生活習慣も、容貌も違う次元空間の文化圏は、もともと文化圏の拡大や安全協定そのものに関心が薄かった。

しかし、全文化圏の中で、唯一、軍事政権国家と位置付けられている、次元文化圏コンヌは、なにかと噂の耐えない文化圏でもある。

この度のきな臭い噂も、影でこのコンヌ文化圏が、クエルス、レタン、イルケスといった惑星空間を保有している文化圏に対して工作を為した結果とも言われていた。


それに、それでも前年の生誕祭には、全文化圏が大使を派遣して来ていた。今年の状況を考えれば、やはりなんらかの勢力が動いた結果、というのが大筋の見かたであろう。


王は、席についた一同に対して、一通りの謝意を述べると、料理に手をつけた。

それにならい、貴族達も大使達も、一斉に料理に手をつけた。


食事が始まってからしばらくの間は、食べることに集中していたこともあり、所々で軽い歓談が繰り広げられていた。


食卓の上の食事もあらかた片付け終わり、皆の前に食後の酒が振舞われると、やはり話は徐々に政治的なものへと向かっていった。


マレーン文化圏以外では、最大の文化圏、全部で5つの文化圏を有するクエルスの大使、ジャラザン・イバレスが口火を切った。


「しかし陛下、護士の任命とは懐かしいお話ですな。もう血生臭い戦争は終わったものかと思っておりましたが・・・。」


このクエルス大使、唯一今回の大使の中で前回の生誕祭と引き続きの大使であり、策士と名も馳せている男だった。

先の大戦では、クエルスきっての知将としてマレーン軍も苦しめられたその記憶は、そんなに古いものではない。


王は、


「いやいや、ジャラザン殿。娘ももう元服をせねばならん齢を迎えておる。かといって、城下の学院に毎日通わせるわけにも行かぬのでな。勉強係としてうってつけの男を選んだだけなのだ。平和な世の中であるがゆえ、戦闘などとは縁の無い晶角士でも十分に任が務まろうというものだ。」


と、微笑みと共に答えを返した。もちろん詭弁である。

そんなことは、この場にいる誰もが知っていた。ジャラザンは、


「そうでしたか。私はまた、最近私の耳にも届いている、良からぬ噂でも信じておられるのかと思いましたよ・・・。」


噂通りに食えない男である。

祝いの席は、このジャラザンの言葉で、いっきに凍りついたように静まり返った。

口調は、いくら丁寧で、そして内容をいくら婉曲して話そうと、先の話は、


『戦争の準備でもしているのか?』


と、聞いているに等しいからである。

王も、言われていることの意味はもちろんわかっていた。


「私とて、もう戦争は望んではおらん。

それは、この場におる誰もがそう思っていることと信じておる。

愛娘には平和な日々を過ごしてもらいたいというのが、親心というものであろう。

ジャラザン殿も、たしか御子息がそろそろ良い年になられたのではないかな?

是非とも、一度連れ立って、ごゆるりと逗留に来られてはいかがかな?」


王も、このようなみえすいた挑発に乗るほど、若くはない。

そして、ジャラザンも、息子の話までだされてしまい、しかも公式の場で親子共々招かれるといった栄誉ある誘いを受けては、これ以上つっこむこともできない。

ジャラザンも、


「これは身にあまる光栄・・。」


とだけ、答えると素直に身を引いた。

話題を変える機会を伺っていた公爵は、手を叩き、女官達に踊り子を呼ぶように伝えた。やがて踊り子達が踊り始めると次第に緊張した空気は和らいでいった。


しかし、あのほんのちょっとした会話は、これからの未来を暗示する大きな不安を含んだものであり、そして、その場にいた全員がそのことを再確認するには十分といえた。


----*----*-----


暗くなってから、自分の居室に着いたルルテとガリンは、市で十分に食事をとったことを女官達に伝え、それぞれの自室に戻っていった。


ガリンも日常慣れないことをした為か強い疲労を感じていたので、明日から自分の荷物を運ぶこととして、今日はこのまま新しい自分のベットで寝ることにした。


部屋に入る前に、ガリンが、


「それではルルテ殿、良い夢を。」


と、言って部屋に入ろうとすると、


「護士よ、そのルルテ殿というのは、あまり好きではない。我々はこれからも長いこと寝食を共にするのであろう?ルルテで良い。」


と、ルルテはうつむき加減に、目をそらしながらいった。

ガリンは、少々驚いたが、


「わかりました。ルルテ。それでは出来ることであれば『護士』というのも止めていただけませんか?どうもその新しい呼称には慣れそうにもありません。」


と、返した。


「では、なんと呼べばいいのだ?」


ルルテは、反対に要求されることなど滅多にないために、多少違和感を感じてはいたのが、素直に聞き返した。

ガリンは、視線を大きく注に泳がせ、うなりながら、適当な言葉を探した。


「それでは、わたしもガリンとお呼びください。それ以外に適当な呼び名は今の所は思いつかないようですので。」


ルルテは、それを聞くと大きくうなずいて、


「おやすみ、ガリン」


そういって、部屋の扉を閉めた。

その様子を見守ってから、ガリンも、


「ルルテ、おやすみ」


といって、自室のドアを閉めた。

ガリンは、ふと少女と向き合う前に自分がこの少女にもっていた漠然とした印象を思いだしていた。

そして、


『籠の中の鳥も、精一杯羽ばたいているのですね。』


と、少し少女に対する印象に修正を加えた。

ガリンの顔にはおただやかな笑みが浮かんでいた。


時は、マレーン次元文明暦12年 第3力期7日目である。


読み直して、話の前半、ちょっと話の流れがプロットをそのまま転記したような拙い文章のままでしたので、大幅に書き換えを行いました。 

また、文中に公爵の役職が漏れていたので、「宰相である」との記述を追加。

2025/10/28

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