王都出発 その13 夫婦の財布
ガリンも、ここで議論する話題ではないと考え、
「わかりました。ルルテ、その事はまたララス領の統治が始まった時に考えましょう。」
後回しにしてやり過ごそうとする。
「待て。そなたは既にララス男爵なのだ。給金の支払いも始まるのではないか?誤魔化すでないわ。城の財政官にも、しっかりと伝えておくぞ。妻である我が管理すると。」
「・・・。」
特にガリンはお金に困っているわけではなかったが、ルルテの言いようは釈然としない。
また、
『夫婦ではないのだ・・・。』
とも思った。
ただ、同時に、
『話すだけ無駄だろう』
とも判断して、
「わかりました。ご随意に。」
とだけ返すのだった。
ガリンの真剣ではない様子に、ルルテも釈然としない様子ではあったが、今は別の話の最中である。
『人生初の夫婦喧嘩は貴重だ。別の機会にするとしよう。』
と、またとんでもない妄想に辿りつき、矛を収めたのだった。
「では、給金の話はここまでとして、サラにもこれを渡しておきますね。」
ガリンは、そう言うと、懐から小さな黒い石のついたイヤリングを取り出した。
「プレゼントさね?」
ルルテがピクリと眉を動かす。
「いえ。これは私が造った特製の意伝石となります。」
「ああ、口を使わずに話ができるっていう。高級品だろう。少なくとも、うちはみたことないさね。」
「高級品・・・。まあ、晶角士としての私が造ったものですので、安くはないとは思いますが・・・。」
ガリンとルルテが目を見合わせて首を傾げている。
「まあ、いいさね。」
サラは、目の前にいる金銭感覚が欠如している2人を無視して話を進めた。
「長距離、例えばここから学院までの間でも意思による会話が可能です。また、周囲で突如強い意思力が発動すると検知し、鈴のような音を鳴らします。実際に、カカノーゼという巨漢が斧を掬い上げようとしたときにとっさに結界を張れたのはこのおかげです。また、なんとなく伝達相手が感じられるようにもなります。」
ガリンが淡々と告げる。
「な?じゃあ、これは相手の攻撃の瞬間がわかるっていうのかい?」
サラが目を丸くする。
「いえ。あくまでも元力石に意思を込めた瞬間がわかります。攻撃をしようとしているかの行動の把握はできません。」
サラが怪訝そうな目でガリンを見る。そしてルルテに視線を移すと、ルルテがめんどくさそうに頷いていた。
「まあ、戦闘中に限っては、必殺の一撃を出す瞬間がわかるってことさね?」
「状況を限定すれば、そうとも言えます。」
「相手が感じられるっていうのは?」
「相手が心理操作を受けていたり、偽物だったりすれば、自然わかるようになります。これは、何度か使用して相手の感覚を記憶する必要がありますので、いずれわかると思います。」
あくまでも淡々とした説明。
『なるほど。一方的に我儘な姫様に黒服の方が迷惑を掛けられていると思っていたが、この黒服もお姫様を悩ましているのか。難儀な男に好意を持ってしまったものだな。』
サラは、急にルルテに親近感を覚えたのだった。
サラは、ルルテに軽く笑みを浮かべ、目の前に置かれたイヤリングを左の耳に着けるのだった。
その瞬間、意伝石がかすかに震え、黒い石の奥で淡い光がひときわ瞬いた。空気がほんのわずかに揺れ、鈴の音が遠くで転がるように響いた。
一度、ガリンが意思を集中させたり、ルルテがサラに意思を送ってみたりと実演をして使い方を学んでいった。しばらくはそんな実験を繰り返していたが、徐々に話は旅の日程へと移っていった。
まず、ガリンが伝えたのは、第1力期が終わり、第2力期になる頃に王都を出発することを正式に伝えたことだった。
また、その後の大まかな予定として、どのような順番で都市を回っていくのかも伝えたのだった。
実は、これらの情報はルルテを初めとして、ジレやストレバウスにも正確には伝えていなかったものだ。
それは、ガリンもそうだが、王都からほとんど出たことがない彼らに伝えてもイメージができないと考えていたからである。
ガリンは、単に地図の上の効率だけで回る順番を考えていたのだが、それが可能なのかどうかもわからなかったという理由もある。
今回の巡察の旅は、現国王が回った時と比べるとかなり少ない都市を回ることになる。
中心となるのは、あくまでもマレーン自治区、つまり惑星マレーンにある11の都市となる。
王都もその11の都市の中に入っているため、実質的には10の都市を回ることになる。
都市を巡り終わった後は、王家の直轄地である3つの都市のいずれかから次元接合門を通って、宰相であるエランが治めるウアラ領に入り、そこで治世の基本を学ぶ。
その後、ウアラの首都ウアラから、さらに次元接合門を利用してララス領に入るという計画であった。
都市を回る順番は、単純にまず一番近い北側の6都市のうち5つを巡り、その後南下しながらさらに都市を巡っていくというものだった。
最後に、北側の6都市のうち3つある王家直轄の都市の1つに戻り、そこからウアラ領へ移動する予定を立てていた。
効率を考えたガリンは、北側の3つの直轄地のうち2つを最初に回り、最後に1つに戻れば良いと考えたため、北側の6都市のうちの5つを最初に回ろうというわけである。
それを聞いたサラは、呆れたようにため息をついた。
誤字脱字の修正。語尾の修正。意伝石が鳴る様子に描写を追加。2026.4.3




