王都出発 その11 サラへの報酬
ガリンは、改めて座りを直し、軽く咳ばらいをすると、話を始めた。
「待たせてしまったようですね。申し訳なかったです。まず、この旅の目的と、その後の話を簡単にお話ししますね。」
ガリンはそう言って軽く頭を下げると、王都を離れ旅に出る目的などをかいつまんでサラに話し始めた。
ルルテが王族として、元服の際の義務として、領地の巡察の旅に出なければならないこと。まずは、このマレーン大陸にある11の都市を巡り、それぞれの街で少しずつ滞在して、特徴や文化などの勉強をしながら進んでいくこと。また、王家の直轄都市以外には、その都市を治めている貴族やその代官とも顔を合わせていき、国政に関わる知己を増やしていくこと。また、最終的には、宰相であるエランが治めるウアラの次元接合門を通り、惑星文化圏であるララスに入ること。そのララスで数年は実際に治世を行うことなどを伝えた。最後には、そのララスにおいて、サラに仲立ちになってもらい、使節団を派遣するなど竜族との交渉に臨みたい旨も付け加えた。
サラは黙って聞いていたが、最後の件になると、さすがに少しだけ眉をひそめた。それは、サラ自身が『竜鱗の巫女』であったからといって、竜族と和平が結べるとは限らないからだ。それだけではない。先程のレイレイを見る限り、レイレイは不完全な状態である。二重人格とまではいかないのかもしれないが、素の幼いレイレイと、古の文様術師の従者であるレイレイは同じ人格には思えなかった。確かに、竜鱗を持つ少女ではあるが、少し特殊な状態であると言ってよいだろう。竜族の長がどう受け取るかはサラにも予測できなかったのだ。
もう一つある。それはガリンの存在である。ガリンは、外見からはよくわからないが、想像もできない力を持っているように思えた。その気になれば、竜族とさえ渡り合えるのではないかという程だ。レイレイの父であり、基本的に隠れ里では畏怖される存在ではある。しかし、竜をも超えるかもしれない力を、竜族達が快く受け入れるのだろうか。それは疑問だった。
またレイレイは、現時点ではいくら同族が要望したとしても、父であるガリンの元を離れるとは思えない。サラは子を持ったことがないためはっきりとはわからないが、レイレイはガリンと離れる選択をするとは思えなかった。先程覚醒した時には、あたかもガリンそのものが予言の一部であるかのような話を仄めかしてもいた。覚醒したレイレイは、まだ何かを隠しているのだ。完全に信用してよいものなのかどうかすら判断できなかったのだ。
最後が、ルルテの存在だ。ルルテは、敵対している人族の代表格の娘である。ある意味、完全に敵だ。確かに、ガリンが解釈したように、レイレイがルルテを通じて王国と調整をはかるといった意味であれば良いのではあるが、必ずしもそうとは言えない。明確ではないにせよ、現在も人と竜族は敵対しているのだから。
サラは、だからこそ言葉を発することができなかった。ましてや『和平を結ぶ』などは、完全に人側の理屈である。竜族が、単に子孫を残すための番を、単に伴侶を求めているだけの可能性すらあるのだ。竜族が予言をそのまま受け入れているかどうかさえ、サラには分からないのだから。
「ガリンよ。それよりもこの者に渡すものがあったのではないのか?」
サラとガリンが言葉なく微妙な表情で見つめあっていると、突然ルルテが声を掛けた。ガリンは、
「そうですね。サラさんは、今までのところで何か疑問などはあるでしょうか?」
今までガリンがサラに話した内容について確認をするのだった。
「ないさね。あたしはそもそもが根なし草なのさ。傭兵団には、既に春には王都を出ることを伝えてあるさね。その後も特にこれといってやらなければならないことや、行かなければならない場所などはないさね。ただ、確認とすりゃ。コレだな。」
そう言って、指で硬貨のイメージを親指と人差し指で造って見せる。
「心配するでない。我の巡察の旅なのだから、当然、王家が給金を支給するであろう。そうなのであろう?」
ルルテが、得意げに胸を張る。
「ルルテ。サラは国で雇うのではなく、私が護衛として雇いますので、私が報酬を払うことになっていますよ。ただ、心配する必要はありません。そうですね、軍角士と同じ程度の給金を払うことで問題ありませんか。」
サラが、レイレイを見つめる。
「いや、軍角士の給金がどのぐらいなのかが相場がわからないさね。」
「そうですか。おそらくですが、1力期毎に75万クルセ程度だと思います。それを前払いで2年分お支払いします。それでいかがでしょうか?」
「悪くないさね。交渉成立さね。」
ルルテが、頬を膨らませて会話に割り込む。
「待つのだ。ガリン、そなたの金は、我の金でもあるのだ。なぜ相談せず決めるのだ。」
ガリンが驚いてルルテを凝視するが、ルルテはとうとうと語り続ける。
「そなたは、我の片翼なのであろう?もう誓いも交わしておるのだ。特に、ララス男爵になってからの俸禄は我との共有財産ではないか。勝手に決めるでない。」
「しかし、貴族でも金銭は個人の管理だったと・・・。」
「そなたは、片翼なのだ。それとも我が信じられぬと申すか?」
ルルテがガリンの言葉をピシャリと押しとどめる。
「いや、しかし・・・。」
「くどい。」
「・・・。」
サラが、ニヤニヤしながらガリンとルルテを面白そうに眺めている。
「あたしは、誰が払ってもいいさね。どうせ生力石にチャリン♪だろ?」
「うむ。我は自身の金子を持っていないゆえ、支払いはこの者が行うが、払うのはあくまでも我であるのだ。それを忘れるでないぞ。75万クルセだったな。それはどのぐらいの価値なのだ?」
ルルテの言葉を聞いたサラが、手を叩いて面白そうに声をあげる。
誤字脱字の修正。語尾の修正。てにをはの修正。2026.4.1




