王都出発 その7 ルルテの屋敷
リアとナタルは、サラの顔を見ると、
「いらっしゃい。」
「おう。」
それぞれ挨拶を交わし、笑顔を浮かべた。
「今日は、あれだろ?姫さんの屋敷にいくんだろ?」
ナタルが尋ねると、
「そうさね。ようやく、お呼びがかかったさね。」
「私たちだって、王女のお屋敷に入ったことがないのよ?」
リアはそう言って、笑った。
「へぇ。あんたらは、王女の直接の臣下ってわけじゃないんさね?」
「ああ、それはな・・・うぐっっ。」
ナタルが自身の内示の話をしようとする。
リアがすかさず脇腹を小突く。
「いや、まあ、軍規でな・・。言えないこともあるだ。」
顔を歪めながらナタルが告げた。
「あはは。おたくら、いいペアだよ。」
サラは楽しそうに笑った。
だがその瞬間、カカノーゼの顔がふと浮かび、言葉が少しだけ遅れた。
リアはそのわずかな変化を見逃さず、ほんの一瞬、眉がわずかに寄った。
「じゃあ、屋敷の前の階段の下までは、私たちが案内するわね。」
リアはサラを手招きし、ナタルにも視線で合図を送ると歩き始めるのだった。
「城の中なのに、そんなに遠いのかい?」
サラが素直な疑問をぶつける。
「ああ、ここはな、第1城郭市街と言って、貴族の屋敷や兵士の宿舎なんかがある区画なんだよ。姫さんたちの屋敷は、この第1城郭市街を抜けてから、城の外縁部の高台にあるんだわ。まあ、半時以上はかかるぜ。」
なぜか、ナタルが自慢げに言う。
「はっ。ほんとにあのこまっしゃくれたお嬢ちゃんが、お姫様なんだね。」
「ああ、まだほんの子供だが、王女には間違いないな。」
ナタルは、サラの言葉に楽しそうに頷いた。
リアの視線が刺さる。
「ほんとうに、楽しそうね・・・。」
「いや、リア、突っかかるなよ。明日は非番だろ?」
「まあ、いいわ。」
リアも苦笑いを浮かべた。
そんな、『付き合うからさ』みたいな適当な約束で、毎回誤魔化されるとでも思ってるかしら、とリアはため息をつくのだった。
そうやって歩いているうちに、ナタル達が平素過ごしている兵舎の横を通り過ぎ、坂になった貴族の邸宅街を抜けた。すると、ひときわ高い場所に、こじんまりとした屋敷が見えたのだ。
「おい、あれがその屋敷かい?」
サラが指さした。
「ああ、あれがそうね。」
リアの返答に、サラが驚いたような顔をする。
「なんか、ちっこいな・・・。」
まあ、確かにその屋敷は小さく見えた。実際に、ルルテの屋敷は今までサラが貴族街を歩きながら見てきた屋敷とはまったく違い、かなり小さい。
その割には、山城のように曲がりくねった階段が高台まで続いており、大きな門まである。
階段の両脇には古い石壁が続き、まるで侵入者を拒むようでもあった。
『これは屋敷ではなく、要塞のようだ』
とサラが感じたほどだった。
いつもガリンやルルテ、それから女官達は、基本城内のルートを通って屋敷から出入りをしていたため、貴族街から上を見上げる機会はほとんどない。
しかし、確かに下から見れば、長い曲がりくねった階段状の入口を持つ山城のようであった。
そもそも、サラたちが歩いてきていた道も、外郭市街同様に曲がりくねった道であり、城防衛の基本を踏襲した作りなのだ。まあ、今、ルルテが住んでいる屋敷は、ガリン達が使う前は現王と現王妃の別宅だったのだから、それだけ硬固な造りでも当然なのかもしれない。
「じゃあ、サラ。私たちはここまでだから。」
「え?一緒にいかないのかい?」
上を見て呆けていたサラが、驚いたようにリアに振り返る。
「うん。私たちは呼ばれてないから。ここから先は、貴族でも、軍角士でも勝手には立ち入りはできないの。もしその木片を持たずに階段を登ったら・・・。わかるでしょ?」
リアが苦笑いを浮かべた。
「ああ、なにせあの護士の結界だからな。」
リアとナタルの言葉にサラが身震いをした。
「ああ、わかるさ。あの過保護な護士さね・・・。」
サラも、苦笑いを浮かべた。
3人は、カカノーゼの斧が分解された時の、あのガリンを思い浮かべたのだった。
サラは、もう一度、長く上に続く階段を見上げ、
「はぁ・・。」
ため息をつくのだった。
リアはサラに挨拶をすると、明日の非番の予定でも話しているのか、楽しそうに来た道を戻っていってしまった。
サラは、竜の巣に放り込まれたような気分で、階段を登り始めるのだった。
誤字脱字の修正。サラの心情を1つ、階段の形容を1つ追加。語尾の修正。2026.3.30




