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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第3章 王女と護士
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王女と護士 その1

・登場人物


晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ

国王(男 45歳) ルラケスメータ・メルタ・マレーン・コグソ

王妃(女 37歳) エレルメイサ・エル・マレーン・ノゥス

公爵(男 78歳) キムエラ・エラン・ウアラ・キジシ

王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ

軍角士・司(男 27歳) レパッタナーグ・ナタル・オウジシ

軍角士・司(女 29歳) ササレリアシータ・リア・オウジシ

宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ

女官A(女 32歳)  ジレルンマーナ・ジレ

女官B(女 67歳)  セラミナーニャ・セル

クエルス大使 ジャラザン・イバレス


ガリンは今、王国の王女である少女に連れられて、城内を、自分の新しい居室があるという左翼へ向かう石廊を歩いていた。


先日、自分の居室のある左翼とは反対側の右翼にある王の執務室で、初めてこの少女に出会った時に、この少女に対して感じた印象は、食卓を共にした今もさして変わってはいなかった。


それは感想と言うほどであったかどうかもわからなかったが、ガリンはこの少女に哀れさを感じていた。


もともと他人に恭順するといった感覚など表面上のことと割り切っているガリンにとっては当然のことだったのかも知れないが、父親の影に隠れ、王宮の限られた空間で、ある意味こっそりと生活をしているこの少女が籠の中の鳥のように思えたのだ。


事実、この少女の命を護る事はさして難しいとは感じていなかったが、この少女の心の平穏を守る自信は、ガリンには『まったくない』と言っても過言では無かった。


もちろん自分に課せられた任が、当面は元服のための勉学の指導が中心ではあることは承知していたが、護士に任ぜられたからにはそうそう簡単に任を解かれるわけではない。むしろ有事の場合、それこそ戦争でも始まれば、この少女に付き従って自らも戦場に赴く可能性すらもあるのだ。

下手をすれば、師のように宮廷晶角士として長く王宮に留まることすら可能性としては存在していた。

それは間違い無くこの少女を待ち受けている運命に対しての心の準備を自分も手伝わなければならないことを示唆している。

そして、少女はいつまでも少女ではない。いやもう既に少女である時間の方が短いと言ったほうがよいのだ。

ガリンはあまりその可能性をうれしくは思っていないし、自分には性が合っていないとも考えていた。

しかし、これは既に課された任であり、受け入れてしまった自らの運命でもあった。

今考えてもしょうがあるまい。いつものようにガリンは、この問題にもこうやって結論を与えていった。


横を歩く少女の端正な横顔を眺めながら、こんな事を何度も自分に問いかけ、止む事のない問題について思いを馳せていた。


それに、王女である前に思春期を迎えた少女でもあるルルテに、まずどうやって接していけば良いのだろうか、という、もっとも根本的に自分に欠落しているだろう部分についての解決も急務なのだ。


『王は王女付きの女官の話をしていたな・・・

私がそれほど気に止まずとも、その役目は女官達がこなしてくれるのだろうか?

いや、それとも母親が?

それこそ更にあり得ないものなのか?

王妃である母親が親としての愛情を注ぐのは当たり前にしても、少女の日常の様子、細部に気を配ることはまずあり得ないだろう。

女官達にしても身分の違いがある。身の回りの世話はするだろうが、立ち入ったことには口を出すまい・・

護士とその護り人の絆は、師と王をみてもわかる。それは強いものであることは間違い無いのだ。

そして、自分の護り人はこの少女なのである。

やはり自分も、少女の心の成長に対して、なんらかの役目を果たさねばなるまい・・・。』


ガリンは、そんな同道巡りともいえる考えを繰り返しながら、少女の後を静かにに歩いていた。


少女も、時折、物憂げともとれる、そんなガリンの思案顔を横目で確認しては何も言わずに足を進めていた。


少女は少女で、この自分の護士となったみるからに無粋な男のことを色々とと考えていた。


そもそも、自分は女性の護士が欲しかった。


ルルテは、政治には詳しくはないのだが、一般的には護士は、軍角士がその任にあたり、そしてその軍角士が将となり晶角士を配下として動くことぐらいは知っていた。


先の大戦の時も、当然将兵として戦地に赴いた父親にも宮廷護士がおり、その中にレンおじい様がいたことは事実である。しかしながら、それはあくまでも幾人かの護士がいる中の1人であって他にも軍角士の護士がいたのだ。

晶角士は、魔法の戦闘には長けているかもしれないが、直接的な近接戦闘においては甚だ心もとない。

そして、護士軍の長は、戦闘経験の豊富な軍角士にこそ適任であるとされている。

1名だけ護士をつけるなら、まず軍角士が適任だというルルテの判断は間違ってはいなかったし、それが慣例でもあった。

ルルテは、言葉にはならないそんな事柄を漠然と、


『本当に自分を護りたいのであれば、こんな頭でっかちの晶角士ではなくて、美しく強い、そして当然女性の軍角士が適当なのではないのか?』


と、素直な疑問として感じていた。


『それに・・・。わたしは年頃の娘なのよ。こんな冴えない容貌の男性と寝食を共にするなんて。。。まったくお父様は何を考えていらしゃるのかしら。

しかも、美しい庭園が望める部屋から、あんな何もない・・・。しかも左翼にある部屋になんて。』


そんな感じ方は少女としてはやはり自然といえた。


この城は、中央部の本翼を中心にして左右に翼が伸びていた。

それだけを見れば、単なる平城といえるのだが、背面の山脈を背にしているこのマレーン城は、本翼は平らな台地に建てられており、両翼は段差のある山脈にかかるように建築されていた。

王や王妃の居室、そして執務室、また宝物庫などのある右翼は、本翼の斜め後ろに位置する山間の高い部分に建設され、石廊にはいくつもの石段が配されてつながれていた。石段は高くなるにつれて、その幅は小さくなっており、それは敵が大人数で同時にその石段を登ることが出来ないようにとの戦術的な配慮であった。そして、居室前には大きな内門があり、常に衛士が監視をしていた。

山間に残る木々は、そのまま庭園として造形され美しい風景を造り出していた。

居室内門の手前、右翼の一段番低いところにある広間は爵位をもつ軍角士の闘技場としても使われており、それは王の目を楽しませると共に右翼の最後の防衛線としても機能していた。

今回、ガリン達が向かっている左翼は、マレーン王家に直接使えている、貴族、衛士、女官、職長(料理番など)の居室があり、右翼とは逆に本翼よりも低い位置に建築されていた。やはり石廊は石段でつながれていたが、右翼とは違い途中に2箇所ほどの堀と内門が配されており、衛士だけではなく常に数人の軍角士が詰めていた。

左翼の棟の続きには兵舎があり、よほど事が無い限り十分に安全といえるが、それは構造上弱い部分でもあることに対する、やはり戦術的なの配慮であった。

本翼へとは、城下町の中央通りから、大きな掘にかかる大門の吊橋を通らないと進入することは出来ず、また、その後にも大きな石の階段と、本翼の門がある。

つまり、それより低いところに位置している左翼は、城壁があるとはいうものの、もっとも進入されやすいといえるのだ。


ルルテが左翼に移されたのは、ガリンの居室を王族の居住空間、つまり王宮ともいえる右翼最上部に与えるわけにはいかないということと、これからの初等教育などを考えると、左翼がもっとも適当であったからだ。

それに左翼と言えども、歴史上破られたことはないのだ。危険といってもその程度である。

もちろん、ルルテが感じているように、庭園があるわけではなく風光明媚とは行かないのは事実ではあったが・・・。


2人は互いにそんなことを考えながら石廊を下っていき、2つ目の内門をくぐると、2人の居室が構えられている左翼に到着をした。



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