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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第14章 旅の準備
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旅の準備 その2


突然うなり声をあげた王に驚いたハサルに気付き、王が頭を軽く下げる。


「すまないな。我が国の学院が()()()()探しても見つからない、新しい文化圏をクエルスが見つけたというのか?レン、そんな可能性はあるのか?」


王がレンに視線を向ける。


「うむ。もちろん無いとはいえんじゃろう。そもそも新しい空間を、特に次元空間を見つけるというのは大海の中の小石を探して拾う様なものじゃ。運の要素も強いのじゃ。弟子は違った方法を模索しておるが、それもまだ形にはなっておらんでな。」


王が頭を振る。


「我が国は、次元空間を有していない。いくらガリンが卓越した技術を持っていようと、次元空間特有の文様術には造詣が深いとはいえないのではないか?先だっての会議でのウェンザ文化圏の護衛獣を操る技術は、精神干渉だったか?次元空間特有の技術を利用しておるのだろう?あれの数を揃えられれば、かなりの戦力になり、必ず我が国の脅威になるだろう。それをクエルスが手に入れるとなるとな。どうも落ち着かぬのだ。」


レンが、何かを思い出したかのように顎に手を当てて考え込む。


「レン殿、何か思い当たることでも?」


と、エラン。


「いや、闘技大会で精神的に恐慌状態に陥ったお嬢ちゃんに、確かガリンが精神干渉の結界を使ったと聞いたような。」


王を含め、エラン、ハサルが


真実(まこと)か?」


と、聞き返す。


「いや、この目で見たわけではないのじゃが・・・。それに、そもそも7大文化圏会議で用いた『誠実』の結界も精神感応系の文様だと、ガリンは分析しておったのじゃ。わしが構築した結界でないでな、詳しいことはわからんが、ガリンに調べさせれば精神系の文様も案外解き明かすかもしれんぞ・・・」


それを聞いた王の顔から表情が消える。


「レンよ。遺跡を彷徨っていた孤児を拾ったと言っておったが、あの髪の色、あの瞳の色、あやつは異質すぎるのだ。何者なのだ?」


レンが目を瞑り考え込む。

エランと、ハサルもガリンの容姿が、マレーン王国の標準的なものは大きく異なっていることは知っているが、もう何年間もレンと共にいるガリンに見慣れてしまっていて、最近ではそのことを考えなくなってしまっていた。


「少なくとの敵ではないじゃろうし、今はお嬢ちゃんをその力で守っておる。あやつのことについては時期がくればわかることもあるじゃろうて。ほっほっほっ。」


と、声をあげて笑った。


「何もわからんではないか。まあ、あの者が居なければ我が娘も既に命を落としていたことだろう。敵ではないのはわかる。ただ、あの文様術の才は異様なのだ。」


「異様とは?」


ハサルが興味深そうに尋ねる。

王が、レンに小さく頷くと、


「いや、あやつが最近養子にした、竜娘のことは知っておるのじゃろう?」


ハサルが、言いにくそうにひきつった笑みを浮かべた。


「ハサル、今更だ。諜報部のおぬしが知らぬわけはあるまい?」


王が助け舟をだすと、ハサルは肩を竦めた。


「まあ、知っていますよ。衛士たちを力で圧倒していることも。王国の禁に触れた人とのキメラであることもね。あの髪の色から、おそらく半身は、護士殿なのでしょう。ただ、なぜ赤子ではなく急にあの姿で現れたのかや、外見と精神年齢的がちぐはぐである理由などはこちらではわかりませんした。」


王、レン、エランの3人が、ハサルのあまりの情報通具合に苦笑いをこぼす。


「それだけ知っておれば十分じゃよ。で、弟子の才のことじゃがな。ハサル、おぬしは人とのキメラの合成が、何の資料も、手掛かりもなく成功すると思うかの?」


ハサルが、ちょっと驚いた顔を見せる。


「いえ、技術的なことはわかりませんが、難しいのではないかと・・。」


「じゃろう?わしもそうじゃ。」


「確か、キメラの大家のエンバサーラ殿が協力していたのでは?」


今度は、レンが少し驚く。


「おぬし、本当に情報通じゃの・・・。確かにエンバサーラはその道の大家じゃ。ただ、あくまでも既存の獣同士を掛け合わせるのが限界なのじゃ。それをあやつは、何の手掛かりもないところから、ほんのひと切れの竜皮の一部と自身の血を持ちいて、人型のキメラ培養に成功したのじゃよ。禁忌とされてた人とのキメラ化は、胎児、あるいは赤子との合成であって、竜皮と血などとという姿かたちがない物からの合成ではないのじゃ。冷静に考えれば、そんなもの成功するわけがないのじゃよ。それをあやつは何の迷いもなく成功させたのじゃ。」


「・・・。」


「理解が追いつかぬじゃろう?ここからは更に理解が及ばぬので覚悟するのじゃぞ。そしてこれは国家機密どころの話ではない。漏れれば、おぬしとて・・・。」


ハサルは額に冷や汗を浮かべ頬が引きつっていたが、小さく頷く。


「あの竜娘、レイレイの中には、学院の図書室を彷徨っていた、意識体が定着されておるのじゃ。」


「は?」


ハサルは素っ頓狂な声をあげ、そして既に知っていたはずの王とエランも同時にため息をつく。


「そんなことはあり得ないでしょう?意識体って何ですか?目に見えない物すら、合成したというのすか?そもそも私は、護士殿と誰かの子を利用し、数年間隠していたのだと思っていましたよ。まさか、もともとあの年齢なのですか?で、中身は更に幽霊だと?」


「そうじゃ。」


レンが淡々とした口調で肯定する。


「信じられません。」


さすがにハサルも、助けを求める様に王と、エランに視線を向けたのだった。


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